第9話 ある女の野望

 2009・12・13

 クサカベ・リンはナガノ・ムギの行方を追っていた。インフルエンザになって休んでいるカズマの変わりだ。具合が悪いらしく全裸になるのもままならなかった。

 

 ドウモト一族はセンダイでも最も古い武家の末裔で、リュウジの友人でもあったドウモト・レイコ氏は地方議員となっていた。

 ある夜レイコは、屋敷の執事であるミヤハラが、書斎で家の古文書である儀式文を読み漁っているのを見つけ、1週間後までに出て行くようクビを言い渡す。


 3日後、ミヤハラは忽然と屋敷から姿を消し、女中のフワ・ソノコが発狂してしまう。さらに3日目、看病している隙に今度はソノコが姿を消してしまい、足跡を追うと池に身を投げたことがわかった。池をさらうと、死体は上がってこなかったが、代わりにさびて変色した金属の塊が上がってきた。


 リュウジはドウモト家の儀式文が何か重要なものを隠している場所を示している問答だと推理し、儀式文からドウモト家の地下蔵へ行き当たる。蔵の中には、忽然と姿を消した執事のミヤハラの死体があった。


 2009年12月16日午後9時30分ごろから同日午後10時ごろまでの間にドウモト宅付近を通りかかったムギは、ドウモト一家の飼い猫が施錠されていなかった玄関からドウモト方に入るのを見た。


 家の玄関ドアが少し開いていることに気付いたムギは、ドウモト宅に近付くと、リビングには照明が点灯しておりテレビも点いていることを確認した。しかし、玄関ドアの隙間から屋内の様子を伺ったところ、玄関の照明は消えており、中に誰もいなかった。


 そこで「ドウモト宅で金品を窃取しよう」と考えたムギは、土足で玄関ドアからドウモト宅に侵入し、照明が点灯していたリビング・廊下を挟んで反対側の照明が点灯していなかった和室に入った。和室内に侵入したムギは室内を観察し、室内にあったコートなどのポケットを調べるなどして金品を物色した。


 するとムギの背後から、ミヤハラが、ムギを問い質すような声を掛けた。ミヤハラは、ドウモト・レイコが午後8時ごろに外出した際には自宅にいた。

 これに驚いたムギは玄関から逃走しようとしたが、ミヤハラに服を掴まれた。この時ムギは、全力でミヤハラから逃げようとすれば逃げることはできたが、大金を手に入れることを諦めきれなかったため、ムギから逃げなかった。

 そして金品を強取することを決意した上で、殺意を持ってミヤハラの頭部を多数回持っていたモンキーレンチで殴るなどして、頭蓋骨骨折・脳挫傷などによる外傷性脳障害によりミヤハラを死亡させて殺害した。


 モンキーレンチで襲われた後も、ミヤハラはしばらく息があり「誰か……」と声を上げたが、ムギによって首に紐を巻き付けられてとどめを刺された。


 リュウジはクサカベ・リンと交わっていた。バックから突いてやると、リンはヒィヒィ喘いだ。あの、アイドルみたく野外で全裸になるのは極力控えた方がいい。

「ミヤハラを殺したのはムギで間違いないが、死体を蔵に運んだのはレイコだ」

「共犯者?」

「逃亡中のムギは腹が減っていた、だからこそあの家に侵入する必要があった。レイコはかつて罪を犯している。ストーカーを雑木林で刺し殺している。目撃者もいなかったことから事件は迷宮入りになった」

「レイコはかつての罪が公になるのを恐れた?」

 リュウジはリンのナカに大量に注いだ。

 ホテルのラジオからはMISIAの『会いたくていま』が流れてる。6チャンで日曜にやってる『JIN-仁-』をリュウジは好きで見ていた。リンはフジでやってる『東京DOGS』を見てるらしい。

 

 ミヤギ県警の一室にカズマとヒジカタ・シュンはいた。ヒジカタは警部で、カズマとは同期だ。

 ミツヤの顔は広く知れ渡り、警察にも協力するようになっていた。

 司法解剖・検死の結果、死亡したミヤハラの遺体の顔面には上顎骨の粉砕骨折を伴う挫創1か所・刺切創5か所が確認された。これに加えて遺体の頭部には頭蓋骨の欠損・陥没骨折・切痕を形成するものや、頭蓋骨を貫通して脳に達したものを含めて19か所の挫創、遺体の頸部には索条痕がそれぞれ確認された。

「アンタ、カズの弟なんだろ?早く奴を復帰させてくれよ?医者なんだろ?」

 ヒジカタに頼まれ、ミツヤはカズマのアパートに行き、ベッドの上でおかゆを食べていたカズマの前で全裸になった。

「ひと味マズい」

「早くよくなーれ」

 ミツヤが呪文を唱えるとカズマの体調はみるみるよくなっていった。

 

 カズマはツチヤ・リョウなる女から『ash』という文字が書かれたCampusのB6ノートを受け取り、その解読に当たる。

 主題はシオガマにある豪邸で、オオイズミ・ヒコゴロウという老人に危険が差し迫っているという内容で、本文のあとに『ash』と書かれてあった。

 カズマとミツヤが現場に到着したところ、既にヒコゴロウは死体で発見された。


 ヒコゴロウは自分の屋敷の書斎で、銃身を切り落として短くした散弾銃によって至近距離から頭を撃ち抜かれていた。散弾銃と金槌、窓敷居の上の血の付いた幅の広い靴跡が現場から見つかった。 

 ヒコゴロウの屋敷には堀があり、夜中は堀を渡る橋を上げてしまうため、犯人は堀を泳いで逃げたとしか考えられないのだが、屋敷の周囲でずぶ濡れになった人間は見つからなかったという。

「普通なら文末にはEndってつけるよな?」と、カズマ。

「つけないよ。まるで映画みたいだ」

 ミツヤは反論した。

「屋敷に戻ろう?全裸になりたい」

 ミツヤが言った。

「魔法って副作用があったりするよな?人魚姫とかさ?裸になり過ぎたせいで呪い殺されないだろうな?」

 カズマが真顔で言った。

「あぁ、風呂とかセックスとか、必要以上に裸になってはいけないみたいな?」

 ミツヤは少し恐ろしい気持ちになった。

 ashはトネリコ、灰、遺骨、廃墟、灰色などの意味合いがあった。

「犯人は灰がつく人物?」

 ミツヤは言った。

 手袋を持ってくるのを忘れたことをカズマは後悔した。息をハァハァ吹きかけて温める。

「灰野?灰原?」と、カズマ。

「灰原ってキャラが『名探偵コナン』にいるよな?」と、ミツヤ。

「廃墟かな?犯人の居場所?」

「すぐ近くにパチンコ屋跡があるけど」

「遺骨、遺骨のめぐり逢いが動機?」

「遺産じゃなくて?」

 ミツヤは屋敷のドアを開けた。

 暖房をつけておいてよかった。ポカポカと暖かい。

「トネリコって植物の名前だよな?犯人は本当はトネリコで毒殺しようとしてたんじゃ?」

「アニキ、トネリコに毒性はないよ?」

 和名の由来は、本種の樹皮に付着しているイボタロウムシが分泌する蝋物質(イボタロウ:いぼた蝋)にあり、動きの悪くなった敷居の溝にこの白蝋を塗って滑りを良くすることから「戸に塗る木(ト-ニ-ヌル-キ)」とされたのが、やがて転訛して「トネリコ」と発音されるようになったものと考えられている。日本原産種であり、東北地方から中部地方にかけての温暖な山地に自生する。近年では、街路樹や園芸樹として各地に植えられていることもある。花期は5- 6月頃。

 木材としてのトネリコは弾力性に優れ、野球のバットや建築資材などに使用される。

 樹皮は民間薬では止瀉薬や結膜炎時の洗浄剤として用いられる。

 ミツヤは白衣やシャツ、ズボンを脱いで、恐る恐る全裸になった。

「犯人はドウモト・レイコだ。ハイジマって偽名を使ってオオイズミを脅していた。灰色の島、グレーゾーン」

 ミツヤは説明を続けた。

「ドウモト・レイコは派遣社員を救うための覇憲党を立ち上げたが敵も多かった。オオイズミ・ヒコゴロウは派遣会社の社長で多くの人間を犠牲にしてきた。ヒコゴロウはレイコが票を集めるために賄賂をしていることを突き止めた」

「そして運悪く返り討ちにあった?」

 

 リュウジはカズマからの連絡でセンダイ市郊外にあるコテージにやって来た。 

 雪が振り始めていた。

 コテージからムギとドウモト・レイコが出てきた。どちらかがどちらかを殺そうとしてる?カズマからの情報だと、あのコテージはレイコの別荘らしい。ムギはそこを見つけ出し、コテージに侵入!武器を手に襲いかかったが、すり抜けられた?

「ウゥッ」

 寒さのあまりリュウジは呻いた。道端に雪だるまがある。☃

 さすがに全裸になるのは気が引ける。

 しかし、殺さないとホルンから罰が与えられる。腱鞘炎になって1ヶ月殺戮しないときがあったが、車に轢かれそうになった。ホルンの送った刺客に違いない。

 白樺の陰に隠れてスナイパーライフルを組み立て、スコープを覗き込む。体温によって夜でも敵を識別出来る、サーモを搭載している。モワモワとオレンジ色の人影が見えた。

 トリガーを引く、手がかじかんでいるがムギを始末した。

 プォンッ!銃声を聞いたレイコは息を切らして走り出す。 

「こっ、こんなところで死んでた……」

 レイコの動きがピタリと止まる。

 リュウジは弾を2発無駄にしたが、漸くレイコを始末することに成功した。

 大晦日になってもフワ・ソノコの遺体は見つからなかった。


 

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