第24話 リュウジの涙

 2005年4月7日

 友人のアキマ・イチロウから誘いを受け、フランス荘に訪れることになったツチヤ・アズサ。しかし歳月は流れ、老朽化したフランス荘と老いた探偵に、かつての古きよき面影は残っていなかった。そして年老いて自慢の推理も衰えたコオリヤマのアキマを嘲笑うかのように、またしても殺人事件が襲いかかる。

 殺されたのは長男のウキョウだ。

 1人目 アキマ・ウキョウ


 アキマは犯人を知っていた。しかし、それを明かすことなく、4月10日に死んでしまう。残された手がかりは『花札』だった。困惑したアズサに、ついにアキマの最期の告白書が届く。

 🎴桜に幕、松に鶴、萩に猪の絵柄の3枚の札がアキマの遺体の近くにあった。

 アキマは背中をナイフで刺されてフローリングにうつ伏せに倒れていた。

 2人目 アキマ・イチロウ

 

 コオリヤマの富豪、アキマー家の当主イチロウの葬儀が執り行われた後、4月13日の午後6時、豪華絢爛な邸で親族が一堂に会した中、莫大な遺産の分配が伝えられた。遺産の大部分はウキョウの亡き弟の妻、妹、甥、2人の姪に6等分されるという内容であった。自分の取り分を聞いて素直に喜んだ妹のエリコは、小首をかしげて無邪気に言い放つ。


「だって、ウキョウは殺されたんでしょう?」

 エリコは少し頭が弱く、子供のころから思いついたことを何でも口にする性格で、皆から無邪気すぎて困ると言われていた。そのため、その発言を誰もまともには取り合わず、その場では受け流された。その一方で、昔からエリコの発言には真実が込められていたことから、ウキョウの遺言執行者を務める弁護士のオサムをはじめ、帰途に就く親族たちの心にかすかな疑惑がしこりのように残った。その中、ウキョウの亡き弟の妻、カズミは、エリコが発言したときの光景の中に、何か妙なもの、あるはずのないものがあったような気がしていた。


 その翌日、エリコは自宅で斧でずたずたに斬られて殺されているのが見つかる。家政婦の証言によれば、ウキョウは死ぬ3週間ほど前にエリコを訪ね、何事かを話していたとのことであった。果たしてエリコは、ウキョウの死について何かを知っていたから殺されたのだろうか?

 3人目 アキマ・エリコ


 4月16日、アキマー家の代理の立場として真相を知りたいオサムは、アズサに調査を依頼する。18日に家政婦の毒殺未遂事件が発生する。3時のおやつにシュークリームを食べた家政婦が苦しみ出した。クリームに青酸カリが入っていた。


 2005年4月1日

 平凡で真面目な営業マンのリュウジは、ある夜、新人のハギノ・ミキヒサと彼の家に着くまでの時間に賭けをする。賭けはリュウジの勝ちに終わり、彼はリフに住むハギノから「何か困った時に」と連絡先を貰う。

「送ってってくれてありがとうございます」

「ハギノ……」

「お困りごとですか?」

「彼女紹介して?」

 リホって女を紹介してもらった。死んだはずだったが、ミツヤの『蘇生』で蘇った。


 リフの『リフト』ってレストランで夕食をしてるとリュウジは、サクラダ・ショウゾウ)という常務取締役を拾う。

 目的地に着くと、サクラダはリュウジの生真面目さを買った。

「君は運転はナカナカだ。係長にならないか?」

「マツシマ係長はどうなるんですか?」

 どこなく『ダチョウ倶楽部』のウエシマに似ている。

「欠勤が多い、休みの多い奴は邪魔だ。それに比べて、君は休まないし?礼儀も正しい」

「確かにマツシマさんは上にはペコペコしてますが、下には厳しいですよね?」

「だろ?あんなのはクズだ」

「けど、嫉妬を抱くんじゃ」

「だったらヒラのままでいいんだな?彼女と結婚しないのか?今のままじゃ、大変だろ?子供には金がかかるぞ?」

 小学校のときの友人がリストラされて一家心中した。彼の娘はリュウジにも懐いていた。

「分かりました。是非お受けいたします」

 しかしそれは単なる昇進ではなく、殺し屋の手伝いをさせられることを意味していた。当初リュウジはそれに気付かなかったが、サクラダが殺した標的の死体がリュウジの営業車の上に落下するアクシデントが発生する。

 4月8日の午後7時、センダイ市街で発生。死体は高層マンションから落ちてきた。


 戻ってきたサクラダは態度を豹変させ、リュウジが何かしようものなら殺すのもいとわないと脅迫する。

 サクラダは柔らかな物腰とは対照的に、殺人に対して一切の感情を持たない冷酷な殺し屋だった。「ゴミは死ねばいい」と言い切るサクラダに、リュウジは同じタイプの人間がいるのだと安心した。

 サクラダは標的データの入ったかばんを奪って逃げようとしたチンピラを銃で撃った。

 翌朝のニュースで殺されたのがアキマ・ウキョウってベンチャー企業の社長であるのが明らかになった。


 冷酷な反面、サクラダは入院しているカズマに見舞いの花を贈るなど意外な一面を見せる。

「具合は大丈夫ですか?」

「お気遣い頂きありがとうございます」

 カズマは4月5日の夕方、アオバ城の周辺をランニングしてると何者かに撃たれた。

 ミツヤの『回復』もあって来週には退院できる。

 

 4月20日

 リュウジはセンダイ駅近くの本屋にいた。エロ本を見ながら、標的をチラチラ見た。

 目の前で次々に行われる犯罪に耐えられなくなったリュウジは隙を見て標的データの入ったかばんを奪い、中身ごと路上に投げ捨てて使用不能にしてしまう。

 しかしサクラダはあきらめず、殺人データのバックアップを得るため依頼人のもとへ、リュウジを自分の代役として向かわせる。高い代償を払って作成した標的データの紛失を知って依頼人は立腹し、リュウジは命の危機にさらされる。 

「センダイ港に来い!夜11時までだぞ!?遅れたらぶっ殺す!」  

 フジタとワタリは逆探知にトライしている。

 何とか言い逃れることに成功するリュウジ。リュウジは残る2名の標的データがコピーされたUSBメモリを手にサクラダのもとへ戻る。

 リュウジとサクラダは次の標的へ向かうが、依頼人を見張っていたオオワダ、そしてリュウジの言動を怪しんだ依頼人が差し向けた刺客に追跡される。


 カズマはミツヤに依頼してエリコを蘇生させる。夢の中で神様に『裸になり過ぎると災いが起きる』と告げられた。

『馬鹿は死ななきゃ治らない』なんて言葉は迷信だった。エリコは蘇っても『アタシを殺した犯人?そんなの知らないよ、宮殿はどっち?』と、さらにバカになった。

 カズマはリュウジに、『どんな危険が起きても裸になるんじゃねーぞ?』と警告した。

 

 サクラダは殺し損なった家政婦、イノセ・タカコを始末するために、リュウジをともなって病院に入るが、アズサとオオワダを交えた乱闘に発展してしまう。

 アズサは点滴台を槍みたくブン回した。ガツッ!リュウジの頭にしたたかに当たる。鮮血が散る。入院患者を装っていたリュウジは

パジャマに着替えていた。

(裸になれねーってマジでつれー!)

 オオワダは警棒をザッ!と出したが、サクラダに蹴り落とされた。

「タカコはどこだ!?」

 サクラダは獅子の如く吠えた。

 

 病室から逃げ出したリュウジはカズマに保護されるが、乱闘中にサクラダはアズサを射殺してしまう。

 恋人だったアズサを殺されて怒ったリュウジは、助手席で「アズサァー!」と泣き叫んだ。


 サクラダは最後の標的を殺しに、オオワダの足を撃って動けなくして病院から去る。

 一方、ミコガミは殺人の容疑者としてリュウジを拘束しようとする。リュウジは逮捕を覚悟するが、サクラダが残した端末画面には標的であるハギノの姿が映っていた。このままでは確実にハギノが殺されてしまうと考えたリュウジはミコガミを拘束して銃を奪い、ハギノの元へ向かい、途中で通行人の携帯電話を奪う。


 なんとかハギノと連絡が取れたリュウジは、死の危険が迫っていることを説明する。ハギノは最初こそ取り合わなかったが、ただならぬ事態を悟ってサクラダをかわし、手榴弾が投げ込まれる直前に、オフィスビルからリュウジと逃げ出す。

 ビルの地下に直結した地下鉄で逃げ延びようとするリュウジとハギノを、サクラダは犬のような嗅覚で執拗に追い詰める。

 逃げられないと覚悟を決めたリュウジは走行中に地下鉄の明かりが消えた瞬間、連結部のドア越しに銃弾を撃ちまくる。

 サクラダも同じく銃を撃つが、弾切れを起こして駆けつけたカズマによって呆気なく手錠をかけられた。


 アズサの葬儀にリュウジも出席した。リオは号泣していた。木魚の音がポクポクとする中、カズマの脳内が活性化された。斎場を抜け出してアキマ邸に向かう。

 パソコンを立ち上げた。💻

 6桁の暗証番号を入力しないといけない。

『202010』と入れた。

 桜に幕は20点、松に鶴も20点、萩に猪は10点だ。

「ビンゴ!」

 Wordを開いた。

『真犯人はアキマ・ヨウスケ』

 ヨウスケはアキマ・イチロウの甥だ。

 裸にならず解決したことにリュウジは自信を持った。

 ヨウスケはセンダイ駅近くのパチンコ屋にいた。カズマ、ミコガミ、フジタがヨウスケの動きを封じる。

「なんだよ!?」

「センダイ署のミコガミだ」

 警察手帳を掲げた。

「多くの人間を殺したな?」

 フジタは逮捕令状を掲げた。

「証拠はあるのか!?」

「イチロウ氏のパソコンからオマエが犯人であるって文書が出てきた」

「俺はガキの頃からアイツらに虐待されていた!」

 イチロウ、ウキョウ、エリコはことあるごとにヨウスケを『ドブネズミ』と詰ったそうだ。幼稚園のときにおもらしをしたらイチロウは蹴りを入れてきたらしい。

「それは大変だったな?だが、おまえのやったことは許されることではない」 

「イノセさんには悪いことをした、あの人に恨みはなかった」

 カズマはヨウスケに手錠をかけた。

 

 




 

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