第13話 脱獄

 極寒の地に聳え立つセンダイ刑務所。ある嵐の激しい夜に、脱獄者が出た事を知らせるサイレンが鳴り響いた。

 その日の当直看守は、人情家のキノシタ・ミライって女性であったが、日常から模範囚として信頼を寄せているタケウチ・ヒロシが今回の脱獄騒ぎの首謀者であるという事に、ミライはしっくり来ないものを感じ取っていた。


 事の次第を調べてみると、凶悪な囚人であるサイトウ・タカヒロが、いつもいつもタケウチに自分の脱獄計画を邪魔されるに業を煮やしたため、反対に彼を抱え込もうという計画を立てた事が判明。

 なんとタカギという囚人に、タケウチの妻であるチトセがミコガミ刑事課長と不倫関係にあるという根も葉もないでっち上げの知らせを教えたため、それを聞いたタケウチは事実を確かめたい一心で今回の脱獄騒動の首謀者となった事がわかった。


 ミライは、今回の事件の責任を取るべく辞職を決意していたが、事の一部始終を知るとどうにかしてタケウチに妻が濡れ衣を着せられているという事実を知らせて、タケウチにこれ以上罪を犯すのを防いでやりたいと思い、捜査隊に参加して常に先頭に立ち、タケウチたちのあとを追う。


 銃を持たずに銀行を襲うプロのタカギ・サブロウは逃走用の車の故障で運悪くセンダイ刑務所に収監された。服役中のタカギはサイトウと脱獄計画を企て脱獄するのだが、脱獄中にセンダイ署のタキ・リュウマに見つかってしまう。タカギはリュウマにショットガンを向けられるが、背後からサイトウがリュウマに忍び寄りその存在に気付いたリュウマが背後に気を取られる。

 タカギはその一瞬の隙にリュウマを取り押さえ、ショットガンを取り上げる。サイトウはリュウマを強引に担ぎ上げ、咄嗟にリュウマがショットガンを取り出すのに開けっ放しにしたままのカレンの車のトランクに入れる。タカギもリュウマが抵抗できないように自身もトランクに身を投じる。

 サイトウはリュウマの車でタカギとリュウマをトランクに入れたまま逃走するはめになってしまう。

 逃走中トランクで二人きりになったタカギとリュウマは、やがてお互いを意識し始める。

「ゲイだったのか?仲良くやれそうだな?」

 タカギはウキウキしていた。

「あのサイトウってのかなりの力持ちだな?」

 リュウマは顔を赤くしながら言った。

「元レスラーらしい」


 マツシマには鉄壁の少年刑務所があった。そこに入所してきたアカシ・ケイは脱獄の方法を考えていたが、ある日通気口から外へ出られるという話を聞き、独房の小さい通気口への入り口を大きくしてそこから独房の外へ出て、脱出する手段を思いつく。

 同じ頃、刑務所内で知り合った囚人リュウジが、趣味としていたパズルを刑務所長(どことなく犬のパグに似てる)に禁止されたことに絶望し、斧で指を切断する騒動が起きる。憤慨したアカシは脱獄計画の準備に取り掛かり、囚人仲間たちに協力を依頼し、脱獄用の道具を取り寄せる。


 アカシは仲間たちが集めた道具を用いて独房の通気口を取り外すことに成功し、脱獄用のボートと偽装用の人形を作り上げる。仲間たちもそれぞれ自分の独房の通気口を取り外し、脱獄の準備を着々と進めていく。

 そんな中、食堂で仲間たちと計画を話し合っていたアカシの元に刑務所長が現れ、アカシを「どうしょうもないバカだ」と罵倒する。

 それに抗議した仲間のノリオが殴られて頭を壁に叩きつけられ、死んでしまう。

「人殺し!」

 アカシは叫んだ。

「正当防衛だ、いい教訓だろ?」と、刑務所長は鼻で笑った。

 アカシは脱獄を夜に決行すると仲間に伝えるも、入所当初に乱闘騒ぎを起こして恨まれていたコウキに襲われそうになるが、リュウジに救われる。リュウジはキムラを殺したときに『壁抜け』という術を覚えていた。壁際に立つと壁の中に逃げ込み、コウキは壁を拳を思い切り殴り骨折してしまった。

 脱獄の決行を控えた当日、アカシに不審な行動が見られることに気付いた刑務所長は、彼を別の独房に移すように命令する。その夜、アカシ、リュウジは独房から脱獄して建物の外に出るが、コージは通気口を取り外すことが出来ずに脱獄に失敗してしまう。合流したアカシとリュウジは監視の目を搔い潜り、用意したボートでマツシマから脱出する。


 翌日、アカシたちが脱獄したことに気付いた刑務所長は島の周囲を捜索し、海岸に打ち上げられたリュウジの所持品を発見する。2人の生存を疑う捜査官たちに「奴らは死んだ」と刑務所長はつぶやいた。


 12月第3週の火曜日、シオガマの兵器工場に勤めるサヤマ・メグミが、地下鉄の線路脇で死体となって発見された。死体の服のポケットに入っていたのは、日本の最高機密とされ、メグミが勤める兵器工場の金庫室に厳重に保管されていたはずの最新鋭兵器『ジェミニβ』の設計書10枚の図面のうち7枚であった。行方不明となった3枚の図面は潜水艦の設計書の中でも特に重要な部分で、その3枚が敵国に渡れば日本が重大な危機にさらされることは明白であり、政府の内部は大騒ぎとなった。


 その週の木曜日、ハマムラ・リオが、オタルのヤマナカ探偵事務所の、カズマのもとへ訪ねて来た。リオは政府の重要な地位にあり、本来は彼女が事件の捜査を担当すべき立場であったが、彼女は他の仕事で多忙なため、カズマに事件の捜査を依頼しに来たのであった。

「ムトウの件はどうなったのですか?」

「公安に鞍替えした今となっちゃあ、どうでもいい」

 国家の最高機密である新型潜水艦の設計書がなぜ持ち出されたのか?死体はどうやって運ばれたのか?残りの3枚の図面はどこにあるのか?リオは、他の事件の依頼を全て後回しにしてこの事件の捜査に全力を尽くすよう、カズマに強く要請した。


 警察は当初、メグミが結婚を控えていて金が必要であったために図面を盗み出し、外国のスパイに売り渡そうとしたが争いに巻き込まれて殺され、図面の中でも特に重要な3枚を奪われたものと推測していた。

 しかし、カズマは捜査を進めるにつれて、メグミは何者かの手で盗まれた図面を取り戻そうとしていたものの敵のスパイによって殺され、列車の屋根の上に乗せられた(そして現場から遠く離れた場所で屋根から転げ落ちた)という結論に達する。


「サイトウが殺ったんじゃ?」

 小学生のミツヤは頭脳明晰だ。医者を志しているらしく、カエルの解剖をやっていた。

「脱獄に成功したって話だ」

 カズマは吐き気と戦っていた。ミツヤはウシガエルの腹をメスで掻っ捌いた。

 カズマは、リオから提供された主要な外国のスパイの情報を手がかりに、地下鉄の地上部分の線路脇に住むモウリ・アスカというスパイが事件の主犯であると目星を付け、『リクルート』紙の私事広告欄に載っていた奇妙な広告を見つける。    

 カズマは全裸になった。

 モウリの指示で図面を盗んだ実行犯が、この広告を通してモウリと連絡を取っているに違いないと推測したカズマは、モウリの振りをして偽の広告を出し、実行犯をおびき出すことにした。この広告に引っかかってきたのは、事件直後に急死した潜水艦局長の弟であるコバヤカワ・イツロウであった。


 コバヤカワは株取引の失敗で多額の借金があり、破産の危機に追い込まれていたため、潜水艦局長である兄が所持していた兵器工場の鍵の合鍵を密かに作って、工場の金庫室に侵入し、問題の図面を盗み出すと、大金と引き換えにそれをモウリに売り渡した。そのことに気付いたメグミは、図面を取り戻そうとしてコバヤカワを尾行し、モウリの住居にたどり着いたが、メグミはその場でモウリに殺された。モウリは10枚の図面の中から特に重要な3枚を抜き取ると、事件の責任をメグミに押しつけるために残りの7枚をメグミの服のポケットに押し込み、ちょうど住居の傍で一時停車した列車の屋根にメグミの死体を乗せて体よく始末した後、3枚の図面と共に外国へ逃走したのである。

 一方、メグミと同じくコバヤカワが図面を盗んだことに気付いた潜水艦局長は、事件については何も語らず、弟が起こした不祥事の責任を背負い込む形でコメカミを拳銃でぶち抜いて自殺したのであった。


 コバヤカワの自白によって事件の真相を全て知ったカズマは、モウリの連絡先をコバヤカワから聞き出すと、罪の償いをするためにモウリをおびき出す偽の手紙を出すよう、コバヤカワを促した。カズマの指示に従ってコバヤカワが書いた偽の手紙に引っかかり、指定の場所に現れたモウリはその場で、フジタやオオワダに逮捕され、盗まれた図面も無事に取り戻されたのであった。




 

 

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