【物語は】
ある診療所を舞台に幕を開ける。選び抜かれた表現で時代らしさを醸し出しているのが、印象的な作品だ。主人公が開業医をはじめた経緯などが、モノローグによって描かれている。
時刻はとうに夜中を回っていた。そんな折、主人公の思考を停止させるように、扉を叩く音が。格子戸に映った姿、時刻が時刻であることもあり彼はゾッとするのだった。
【物語の魅力】
時代らしさに力を入れている作品。冒頭では、ある出来事が描かれている。匂わせで終わっているが、これは何かの伏線なのだろうか?
明確な何かは書かれていないが、冒頭に日付が書かれていた為、恐らく過去の出来事だろう。この出来事が以降、彼の人生にどう関わって来るのか気になる点である。
一話の終わりから続く二話。繋ぎ方が巧いと思う。この物語はミステリーを思わせる部分があり、ホラーとミステリーは方向性が似ているということに改めて気づかされた。
ホラーとは”何か分からない”から怖いと感じるもの。ミステリーとは”何か分からない”から好奇心をそそられるものである。
特にこの作品は、時代らしさに拘りを感じるため話にのめり込んでしまう。表現だけでなく、空気感も良い。時間に常に追われるような現代社会の雰囲気ではなく、勤勉、真面目といわれる日本ながら、融通が利くと思われる部分があるのでそう思わせるのだろうか。
【登場人物の魅力】
主人公の性格はとても分かりやすく言動に表れており、周りの者からも彼についての印象が語られている。よく出てくる登場人物は四人となるのだろうか。主人公が世話をするようになった少年は、とても変わっており、食対して執着がある。どんな理由からそうなってしまったのか、気になる部分だ。
もう一人は、主人公の部下であり、主人公の気性などについてもよく知る人物。だからこそ悪戯と呼べることができるのではないだろうか?
そのため作中ではコミカルに感じる部分もある。
そんな三人にアクセントを加えているのが、通いの家政婦の役目も兼ねている看護婦(補足*2002年3月より看護師と統一されている)。
個性的な三人な為、バランスが面白いと感じた。ユーモアも感じる作品である。
【作品の見どころ】
やはりその時代らしさに拘りを感じる。表現の仕方、言葉遣い、時間の流れ方など。そこに加えて、登場人物それぞれの個性も際立つ。
作中に登場するモチーフが、馴染のある物であるところは親しみやすい。
例えば、人魚の肉にまつわるエピソード。食べると不老不死になるという”伝説”は、一度は耳にしたことのある人は多いのではないだろうか。
検索をしてみると『人魚の肉を食べて800歳まで生きた娘』という記事が出てくる。この八百比丘尼(やおびくに)は、日本の伝説上の人物。特別なもの(人魚の肉など)を食べたことで不老長寿を獲得した比丘尼である。【web調べ】地方によって呼び方が違うが、それだけ各地に残されている伝説という事になる。
このように、多くの人が何となくでも耳にしたことのあるモチーフを扱い、それをオリジナルエピソードへとしている部分も見どころであり、魅力だと思う。
この先、彼らはどのような事柄や事件に遭遇していくのだろうか?
あなたもお手に取られてみませんか?
彼らのその先を是非その目で、確かめてみてくださいね。
おススメです。
昭和初期が舞台、主人公が元軍医と元部下、その元軍医の書生…と、古き良き怪奇小説を思わせる舞台装置が、まず興味を掻き立てられます。
扱う事件も、古い因習や伝承に根ざしつつも、人が作ってしまったものというのも、「昭和初期」という舞台設定から感じ競れる不安、不安定を感じさせられるものばかりです。
しかし鬱々と感じない描写の妙が感じられます。
登場人物の言葉、仕草が、舞台設定に相応しい情景を思い浮かべさせてくれました。アスファルトよりも土を、コンクリートよりも雑木林を、何よりも黒をブラックではなく漆黒だとイメージさせられる文体は、この物語に流れる伝奇の雰囲気を否応なく高めてくれていると感じました。
モンスターや怪物が出てくるのではなく、人同士の繋がり、人の心の機微を描いたホラーは、人の心コソに恐怖やあー不安があるけれど、解決策も隠されているのだと思わされました。
元軍医の忠治と、その元部下の島根、そして書生として忠治の家で暮らす千太郎。島根の持ち込む「人ならざるモノ」が関わっていそうな奇妙な事件を巡る、昭和初期の混沌とどこか郷愁を感じさせる妖しくも美しい怪異譚。
重厚な描写はもとより、飄々とした、それでもどこか闇を感じさせる忠治さん、彼に執着する俳優のように美しい島根と、忠治さんを慕うが故に島根を邪険に扱う千太郎の三人のやりとりは軽妙で思わずニヤリとしてしまいます。
そして、各話しっかりと練りこまれた怪異譚は、ただの怪談では終わらず、人の闇と情念が深く関わる事件の謎が解ける時、儚い自然や海などの風景を織り込んでその悲しみなどの心の機微を表現する鮮やかな描写にうっとりとしてしまいます。
少しずつ明かされる登場人物たちの過去や秘密が気になり目が離せません。
幾重にも絡まる人と闇の怪しい物語。
おすすめです!