第18話 風向き
翌日、ツネはニヤニヤしながら俺を教室で待っていた。
「部活、やりたくなっちゃったんでしょ」
まったく、こいつはいつもすべてを見透かしたように語りかけてくる。
「占いが、『新しいことを始めるとき』だって……」
「本当は、学校中から嫌われるのが怖くて、安定した人間関係が欲しくなったんでしょ」
「……もうやめてくれ」
「ははは、冗談だよ。じゃ、これから部活を作るわけだけれど、まず、表向きは……」
ツネが設立についての説明を始める。
正直なところ、こいつの言うとおりだ。昨日は格好をつけすぎた。明らかにやりすぎてしまったと、家に帰ってから悶えたものだ。今日学校に来るのだって、どれだけしんどかったことか。
そこまで無理をして叶えるものだったのかという疑問を、何度も自分に投げかけた。
もはや俺のこの信条は、一種の呪いになりつつあった。
でもそれがドラマチックな事態を招くことだってきっとあると、俺は信じている。
だって、この生き方をしている自分が好きだ。
そして今まで、決して不幸になったことなどないのだから。
続けるのが間違っているとは、思わない。
「……ってな感じで、チャンネルを開設しようと思うんだ。で、メンバーは僕とケン」
序盤の必要人数や手続きの話が退屈でよく聞いていなかったが、一通りの説明が終わったようだ。俺は席を立つ。
「……と小冬ちゃんと能さん!」
なるほど。…………って、
「え?」
思考が追いつかない。
「いいねーーーー!」
「面白そうだね……」
いつからいたのか、知らぬ間にここは不思議の世界になっていた。
しばらく呆然としていた俺になんて目にもくれず、部活に関する話し合いは進んでいく。
すると、そわそわした様子の能が俺に声をかけてきた。
「けんくん、わたしの苗字、すごく聞き取りにくいから、できれば名前で呼んでほしいの……」
「ん、ああ……、わかった」
空返事になる。考えてみれば、これが沙妓乃との初めてのまともな会話だったかもしれない。沙妓乃は安心した顔をすると、近くの椅子に腰かける。小冬も椅子を持ってきて、本格的な話し合いが始まった。
「チャンネル名なんだけどさ、それぞれの頭文字をとって“の・や・し・き”で『動画の屋敷』なんてどう?」
「いいね!」
ツネが考えてきたグループ名を紙に描くと、小冬が間髪入れず賛成をする。こいつ「いいね」しか言わん。
すると噛みついたのは、意外にも沙妓乃だった。
「なんでわたしだけ平仮名なの!」
「そこ? 別にどっちでもよくない?」
「ああ、どっちでもいいな」
「どうでもいいと思う!」
「じゃあせめて全部平仮名で『動画のやしき』にして!」
「「「うーん」」」
「なんでよ!」
沙妓乃のはつらつとしたツッコミが炸裂した。このあと、沙妓乃は幾度となく反発を繰り返したが、とうとうその願いが叶うことはなかった。
こうして、俺たち、表向きは『占い研究部』、裏向きは動画配信団体『動画の屋敷』が結成されたのであった。
「でも、高校生なのに顔を出して動画配信はよくないんじゃ……」
優等生の沙妓乃は、そのあたりへの配慮も怠らない。
「それについても、ちゃんと考えてあるよ」
にやり、と悪い表情を浮かべながらツネが取り出したのは、お祭りや伝統芸能で見るような狐の面だった。これをかぶって配信しようとのことらしい。その他の方式についても、ツネはある程度考えをまとめていたようである。
大体このような感じだった。
高校生であることを鑑み、顔も隠し、声も加工する。せっかくなので、できる限りキャラ性も統一するが、各々自分の好きなジャンルを好きなように投稿する。
配信の方式は、俺の最も望んでいる形に落ち着いた。
「こいつはできるだけ親しみやすいキャラにしよう、名前はそうだな……」
ツネのその問いに対し、俺は口を開く。
「屋敷、狐の連想で、『コンコン』とかはどうだ」
一瞬会話が止まるくらいにはウケが悪かったが、珍しく俺が提案したということで、配信キャラの名前はそれに決まった。
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