第6話 どちら様ですか

「何回来ても無駄よ。あたしは」

「亜美先輩に会ってきました」

「……っ!」

 小冬と俺が森野彩夜先輩のもとに訪れたのは、翌日の早朝だった。生徒会室の扉を開くと、生徒会長の東ヶ崎とうがさき先輩と副会長の森野先輩が文化祭についての話し合いをしていた。ホワイトボードには昨日の放課後にはなかった日程表がびっしりと書き込まれている。

 下に添え書きで『寝ぼけて書いたので、間違いがあったら直しておいてください。書記 崎本』とある。なんだかんだで、しっかりやるべき仕事はこなしているようだった。

 そして、開口一番小冬が放った一言に、森野先輩は血相を変えた。

「なんで……」

 先輩は一度大きく足踏みをし、威嚇する。

「なんでそんな勝手なことするのよ! あたしにとって、どれほどあの子が大切かも知らないくせに!」

「その大切な亜美先輩をほったらかしにすることが、いいことなんですか!?」

 小冬は一歩も引かず、対立の色を見せる。

 しかし、森野先輩は怒号を止めようとはしない。

「そんなの、とっくにやってるわよ! あの子が、あの子のタイミングで心をひらいてくれるように毎日ポストに手紙を入れたりだって……。でも、全く返事がない。もう、どうでもいいのよ、あたしのことなんて!」

 何だって……?

「ちょっと、待って、ください」

「何よ! もう、出てってよ……!」

 俺と小冬は顔を見合わせる。

「先輩、今……何て?」

「だから、こっちから連絡するのなんてとっくにやってるって言ってるの!」

 俺と小冬の中に、おそらく同じじりじりとした気持ちが生まれていた。

 この事件、おそらくこれで終わりではない。

 俺たちはもう、自身の感情を止められない気がしていた。

「森野先輩、動画の屋敷のコンコンって知ってます?」

「コンコン……」

 彼女は涙目で、戸惑った様子で言った。


「誰、それ?」

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