第29話 異物
「柴くん、ちょい、いい?」
昼下がり。シフトを終えて廊下に出ると、声をかけてきたのは予想外の人物だった。
「え、ああ、いいけど……」
「お昼食べよ」
特に表情を変えることなく誘う海田に、俺はどう反応していいかわからなかった。
* * *
言われるがままやってきた二年C組のレストランで、俺と海田は二人席に座った。なんだこれ、なんだこれ。
「柴くんは小冬と幼馴染なんだよね?」
「ああ、うん、そうだけど」
その口から出てきたのは、いかにも相性の悪そうな幼馴染の名前だった。
「アタシ、同中なんだけどさ、中学のときに行った風鈴祭のお化け屋敷で、小冬って一回すごく怖い目に合ってるの」
「え……?」
驚いた。そのエピソードについてもどうだが、山根小冬と海田千夏が、それほど仲のいい関係だとは思いもしなかったからである。
「アタシも陸上部でさ、中一からクラスもずっと一緒なんだ。小冬って無邪気そうに見えるけど、結構神経質なところもあってね……って、知ってるか」
知っていた。四月から、いろいろな小冬を見てきたが、あいつの天真爛漫は半分くらいファッションだ。もちろんすべてが演技なわけではないが、小さい頃から知っている俺や、小冬をよく見ている海田は騙しきれていないようだった。
「去年の風鈴祭にはすごいクオリティのお化け屋敷があってさ。どうしても一人で入りたいっていうから、アタシは廊下で待ってたんだ。そしたら教室から出てきたとき、信じられないくらい震えて、泣いてた。あの小冬がだよ?」
小冬が、お化け屋敷で泣く? いくら出来がいいとはいえ、高校の文化祭だぞ?
「で、そのあと、アタシも入ってみたんだ。確かにすごく立派で、怖かったけど、それだけだった。一緒にホラー映画とかも見たことあるけど、小冬があんな風になったことなんてなかったからすごく意外だったんだ」
たしかに、ホラーが苦手だなんて聞いたことがなかった。昔の小冬はむしろ、心霊で有名な廃墟とかがあれば大喜びで行くような奴だった。なぜか、俺を連れて。
「入りたい理由があったとすれば、アトラクションを楽しむことそれ自体ではないと思う」
俺は一つの可能性を述べる。
「そういえばあの日の小冬、何か落ち着かない様子だった。誰かを探しているみたいな……」
それを聞き、気づけば俺は立ち上がっていた。
驚く海田の前で、俺は息を整える。
「それって、何年生のお化け屋敷だった?」
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