第28話 何も知らない
二日目。風鈴祭は一般公開日を迎え、より一層の賑わいを見せていた。
昇降口で靴を履き替えていると、昨日の事故の噂が徐々に広まっていることを知った。
「一年のお化け屋敷、誰かが電気つけちまったんだってさ」
「えー、それは萎えるな……」
「ま、しょせん高校の文化祭なんてそんなもんでしょ。出来はいいらしいし、昼前くらいに行ってみようぜ」
そんな声がちらほらと耳に入ってくる。幸い、先生たちのおかげで噂は悪い方向には向かっていないようである。そもそも、あれは本当に事故だったのだろうか。明るくなった部屋で、何かが起こっていた気がしなくもない。
それを知るまでに、時間はかからなかった。
教室に入ると、体感人数の少ない教室で隠す気のない噂話が蔓延していたのだ。
「あー、やっぱり謹慎だったか」
「さすがにお酒はね……」
状況を察するのは容易だった。どうやらあのとき、数人の男子生徒が飲酒をしていたらしいのだ。今日は自宅謹慎で、学校には来ていないという。
聞けば段ボール裏の暗がりで明かりを囲い、酒を嗜んでいたという。まったくどの世界にも、こういうことをする連中がいるものだ。
となると、それを文字通り明るみに出すため誰かが意図的に照明を点けたと考えるのが妥当だろうか。
――ガラガラッ!
考え耽っていると、強く扉を開く音がした。見ると、汗だくのツネがすごい剣幕でそこに立っていた。
「おい、大変だケン! 飲酒してたんだ」
「知ってるよ、さすがにこれだけ噂になってればな」
「その中に、タケとハタもいたんだよ!」
「……!」
ツネは飲酒していた男子グループの中に武山と畑中がいたこと、それは最初から計画されていたということ、小冬と合流した際に俺たちと別れたのはその準備が近かったからだということを俺に報せた。
文化祭二日目は、波乱の幕開けとなった。
* * *
朝の準備をしていると、お化け屋敷の入り口にある文字を見つけた。
(【K=rope】。今度は縄か……)
これは一体何の暗号なのだろう? まさか、変な呪術とかじゃあるまいな。
それを眺めていると、傍らからあまり聞きたくない会話が耳に入ってきてしまった。
「ねえねえ、昨日電気つけたのって
聞こえてきたのは女子の声。冬ちんとは一部の女子の間で用いられている小冬のあだ名だった。
「あー、多分ね……。スイッチから一番近くにいたし」
「わざとやったのかな? もしお化け屋敷失敗させようと思ってやったなら、ちょっとひどくない?」
「さすがにないっしょ。Tシャツのデザインのときも、監修として協力してくれたし」
点灯時、スイッチから一番近くにいたのが小冬だというのは本当だ。あのタイミングで多くの人間がスイッチに目を向けていたから間違いないだろう。
それにしても、Tシャツがまともになったのって、小冬のおかげだったのか……。
「クラス委員の立場使って、最後まで縁日やろうとしてたよね。あれ、なんだったんだろ?」
「E組ではワンワンベーカリーのパン売ってるみたいだし、本当はそういうのがやりたかったんじゃない? 冬ちんいっつもパン食べてるし」
「さすがに食欲旺盛すぎっしょ。あははは!」
聞いていて気持ちのいい類の会話ではなかった。憶測でモノを言いすぎではないだろうか。小冬が腹いせに照明をつけた……? まさかそんな。あいつは楽しいことを真っ向から楽しもうとするタイプだぞ。
だが、小冬の様子が最初からおかしかったというのも事実だ。慣れないクラス委員に立候補し、みんなが望まない縁日を希望し続けた。
その理由を悶々と考えながら昨日と同じ配置に着くと、ある変化に気づいた。
墓碑の前に、提灯が設置されている。
そうだ。昨日の午後、やけに暗く感じたのは、午前中にあったはずの提灯がなくなっていたからだ。それにしてもあの提灯、なかなかクオリティが高い。あれを海田が作ったとなると、見た目に合わず丁寧な仕事をするものだと思った。
加えて、もう一つ変化があった。墓碑に書かれていた文字列も黒塗りで消されていたのだ。確かアルファベット一文字に、graveだっただろうか。墓碑に書かれたあの文字がなくなっていた。
あれはいったい何だったのだろう?
この数日の出来事を思い返しながら、俺は心のないお化けとして今日も段ボールを叩き続けた。
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