第39話 元旦

 今朝の話だ。

 僕は予定より早く家を出た。沙妓乃ちゃんを誘ってしまった手前、遅れるわけにはいかないからだ。神社は僕らの家の中間地点だったけれど、格好つけて少し沙妓乃ちゃんの家寄りに集合場所を設定した。

 横目で見る鳥居の前には、たくさんの人の姿があった。

 その中に一つ、僕は見慣れた制服を見つけた。

 ケンと女子生徒の姿だった。ケンは文化祭終わりくらいから、同じクラスの海田うみたさんとよく一緒にいる。もうひとりは彼女で間違いないだろう。

 正直、想像もつかない組み合わせだ。

 いや、ある意味似たところもある。

 何を考えているのかわからないところ。優しすぎるところ。そして、小冬ちゃんと深い関わりがあるというところだ。

 周囲から見れば高校デビューに成功した勝ち組に見えるかもしれない。でも僕には、彼らがそんな風には見えなかった。小冬ちゃんというひとりの友人をめぐって起きた、様々な出来事。詳しいことはわからないけれど、あの二人はきっと最後まで奔走したのだ。

 だから、僕は彼らを責める気にはなれなかった。

 でも、それは「いつもだったら」の話だ。

 今からここに沙妓乃ちゃんが来る。そうなったら僕は、多分全部が許せなくなる。沙妓乃ちゃんは理性の化け物だ。自らの殻を破って、思いの丈を口にするようなことは絶対にない。でも、彼女にだって耐えられないものもある。いや、きっと僕が耐えられない。

 ケンと海田さんが二人で行動をともにしているところに、僕と彼女が一緒にいてはいけないんだ。

 こんな寒い中、待たせたくはない。でもどうしたって今この場に沙妓乃ちゃんを配置するわけにはいかない。幸い集合場所に指定したところはここから少し離れている。

 彼らがこの場を去るまで、しばらくかかりそうだった。


 そうして僕は、寝坊をきめた。

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