第26話 無意識と企み

 前情報通り、お化け屋敷は好評だった。とりあえず全学年のアトラクション系を片っ端から回るような奴もいるらしい。

 やはり文化祭と言えば、こういったアトラクション系が華のようで、飲食や縁日はその羽休めに訪れるのが大概だった。

 昼に差し掛かると、今度は飲食店が賑わい始めていた。俺はツネと武山、畑中という四人で外の出店や縁日を回って腹を満たしていた。このメンバーとは入学以来クラス内でよくつるんでいる。もともとツネを中心として会話が回るようなグループだったが、最近は一対一でも気兼ねなく話せるようになっていた。

 昼下がり、飲食店がある程度落ち着いてきたころに、廊下で小冬を含む女子グループと遭遇した。

「あ、ケンちゃんとツネくん。沙妓乃ちゃんのところには行った?」

「約束はしたが、まだ行ってないな」

 同じ部活のよしみとはいえ、一定の条件がそろわないとメイドカフェは少しハードルが高い。俺みたいな小心者は、何かいい感じで占い研究部のメンバーで集まった時にそれを建前にして行きたいな、くらいに思ってしまうのだ。それが今だった。

「じゃ、俺らは三年生のほう行ってから教室戻るわ。またあとでな」

 武山と畑中は約束があるらしく、ちょうどいいタイミングだったのでひとまず解散することになった。

 気を遣ってくれたのか、小冬と一緒にいた女子たちもその場から離れ、こちらもまた見慣れた三人組が出来上がった。


 *   *   *


 A組の教室に入るのは、四月以来だった。あの日は時間帯も季節も、そしてシチュエーションも違ったため、かなり新鮮な気分で落ち着かなかった。知り合いも沙妓乃と、同じ中学の数人しかいない。

 沙妓乃とは待ち合わせしていなかったため教室にいるか不安だったが、店員がツネの顔を確認すると「能さーん、占い研の人来てるよー」と奥から呼びつけてくれた。さすが有名人だな、ちくしょう。

「来てくれたのね。いらっしゃい」

 沙妓乃は三人それぞれにメニューを手渡すと、スカートの裾をつまんで軽く持ち上げた。やはりよく似合っている。

「今日は『何か新しい経験を』だからな」

 冗談で言ったつもりだったのだが、沙妓乃は少し寂しそうな顔をした。俺は慌ててフォローする。

「というか、約束したからな。……似合ってるよ」

 朝に言ってやれなかった一言を、照れながら言う。こういうところに来たらまず言うであろう常套句ではあったが、本心だった。

「うんうん! 沙妓乃ちゃんグッド! かっこいいお姫さまって感じ!! ぐへへ……」

 瞬時におっさんを憑依させるのやめろ。

「メイドというより、それを取り仕切ってる人っていう方がしっくりくるね」

 ツネは俺と同じ感想を持ったようだった。一応、褒めているのだろう。

「ありがとう。頑張って準備したから、楽しんでいってね」

 俺は受け取ったメニューを見る。SNSで映えそうな今どきのドリンクたちは、一般のカフェ顔負けだった。さすが現役のJKたちが考えたさいきょうのカフェ。

 なんだこれ、『タピオカ味噌汁』……?

 あからさまに後付けで貼られたシールを指差し、恐る恐る店員さんの方を見る。

「沙妓乃さん……? これは……」

「ご注文、ありがとうございます」

 沙妓乃は全部お見通しだったようだ。店に入ってから俺が言い訳がましいことを言うことも、それを叶えなくてはいけない体質であることも。

『新しい経験を』とか言うんじゃなかったと、俺は頭を抱えた。

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