第25話 青春の一頁
文化祭当日の朝は早い。B組のようにアトラクション系の準備をするクラスは当日のセッティングが特に多く、六時台に登校している生徒もいるようだった。
一日目である今日は一般公開をせず、生徒たちだけで楽しむ日となっている。にもかかわらず、校内の熱気はすさまじかった。聞き慣れない音響でアナウンスが流れ、見慣れない姿で生徒たちが闊歩している。校舎の外見は同じなのに、その空間はまるで別世界のように自由だった。風鈴祭という名前も、あながち間違いではないようだ。規律を守るべき教育機関でこのような催しをする特別感は、やはり文化祭ならではだと感じる。
八時半には一通りの準備が終わり、あとはオープニングセレモニーを待つだけになっていた。
席について開催にあたっての諸注意を受けたのち、会場である体育館に移動する。その道中ともなれば、さすがに衣装も多種多様で目を引くようなキャラクターでいっぱいだった。
「あ、けんくん。おはよう」
「おう、沙妓乃か……って、気合入ってるな」
「結局着させられた……」
「成功するといいな」
「うん、いっぱい来てもらうためには出歩かないとね……。遊びながら宣伝するの」
宣伝しながら遊ぶと言わないあたり、欲望が見え隠れしていた。
体育館に着くと、既に多くの生徒で埋め尽くされていた。いつもの全校集会ではクラスごとに整列をしているため、各々が好き勝手なところからステージを見ているこの風景もまた見慣れないものだった。
照明が落ち、熱気に包まれていた体育館から音が消える。
「レディース・アンド・ジェントルメーン!!」
お決まりの掛け声と同時に、生徒たちは地鳴りのような盛り上がりを見せる。
その瞬間、ここは現実とは違う世界に色を変えた。
おしゃれな音楽とともに、舞踏部の生徒たちによるダンスが始まる。
風鈴祭の幕開けだ。
* * *
セレモニーを終え夢見心地で教室に戻ると、さっきまでの感覚はすぐに覚めた。みな真剣に、開店に向けて黙々と準備を進めている。
お化け屋敷はシフト制だ。それも厳密なものでなく、誰か代わりを探せば持ち場を離れることができる。手のかかる衣装やメイクをしている奴は例外だが、自由が完全に奪われるようなスケジュールになっている人間は誰もいなかった。俺も申し訳程度に頬に血のりをつけたが、これでは仮装どころかサッカーのサポーターにしか見えないだろう。
「只今より、風鈴祭を開催します」
放送によるアナウンスと同時に、各教室から呼び込みが始まる。
最初の受け付け役を任された俺は、幸か不幸かこの第一声を担当することになった。
「お化け屋敷、いかがっすかー」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます