第24話 一匹と出会う

 部誌の原稿を仕上げ、お化け屋敷の準備もあと少し。本番はすぐそこまで迫っていた。

「じゃーん! クラスTシャツが届きましたー!」

 前日になると、デザイン係からTシャツのお披露目があった。クラスで統一して着用するあれである。

 ろくなものを作りそうにない連中がデザイン係に名乗りを上げたので、俺は内心不安だった。しかし、出来上がったのは思いの外無難なデザインだった。数週間前のドラフト版では見るに堪えないようなフォントが使われていたが、業者がいい感じに落とし込んでくれたのかもしれない。

 それを受けとって眺めていると、少し気になるものが目についた。

 背中側の右肩付近に虎のようなネコ科の生物が小さく描かれている。【S=panther】という文字が添えられているから、小さな豹だろうか。よくわからんアート性だ。

 一通りの印刷を確認し、シャツを袋に戻す。それをバッグに詰めて、俺は帰宅の準備をする。

 風鈴祭に前夜祭や後夜祭は存在しない。しかし、前日ともなれば全体的に意気盛んになっているのは間違いなかった。今日は学校や友人の家に泊まる生徒も多いようである。

「羽目を外さないように」という取って付けたような指導があったが、その注意喚起にどれほどの効力があるかはわからなかった。

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