第13話 乗るか作るか
放課後、購買でもみくちゃにされて疲れ切った俺を、ツネは教室の後方に手招いた。
「部活は決めた?」
「いや、特に」
「作らない?」
「……はぁ!?」
柄にもなく大声を出してしまう。戸惑う俺などいざ知らず、ツネはすぐさま説明に入る。
「表向きの活動内容はなんでもよくてね。最近高校生の間で動画配信したりするのが流行ってるじゃん? 人を集めて、ああいうのをやってみたいんだ」
確かに、昨今動画配信サイトの拡大により、配信する側の人間も増えてきた。特に中高生の間では、好きな動画配信者を聞けば一人くらい名前が挙がるほど大きな流行を見せている。加えて、自分で配信しているという若者も少なくない。
ただ正直、俺はああいうタイプの人種とは最も相性が悪い自覚があった。
「無理だ。諦めてくれ」
「えー、高校生なんだし、部活くらいやりたくない?」
「部活は諦めなくてもいい。俺を諦めてくれと言ってるんだ」
大体、どうして俺なんだ。ツネは破天荒だが、頭が回らないわけじゃない。俺がそういうのを好いていないことくらい、分かっているはずなのに。
「ケンはケンが思っている以上に、面白い人間だよ」
「だから見世物になれってか。勘弁してくれ」
ピエロでも客寄せパンダでも、なりたいなら勝手になってほしい。
「文芸部は、『恋と出会い』なんていう小っ恥ずかしいテーマの短編小説を書かせて、最初の部費と一緒に回収するらしい」
「……突然なんだよ?」
「そういうふうに他人に何かやらされるの、嫌いだろう?」
今まさにお前が何かやらせようとしてるけどな。
「そういうことをさせられるのが青春なんじゃないのか」
学生らしいことが青春なら、それは避けられない宿命というか、そういうものをこなすことが青春なのではないか。
「まあ僕も、基本的には学校ってそういうものだと思ってるよ。型にはまったことをして、そのクオリティを示せれば評価が上がるわけだし、部活の大会とかに出ればそりゃ一定の感動も得られるだろうさ。でもそんなのは、ステレオタイプ以外の何物でもない」
脳内を嫌な記憶が駆け巡り、唾を飲む。どうしてこいつはこんなにも、心を突くような言葉を持ち出してこられるのだろう。
「でもさ、そんなリスクを避けながら、僕たちも、自分で環境を作って自由に青春したいじゃないか」
つまり、自分たちで新しい青春を形成する……?
高校生らしい「レール」として出来上がった高品質なドラマ。それ以上のものを生み出す能力が自分たちにあるとでも言うのだろうか? 仮に何か楽しい催しをして、それが文化祭や体育祭、部活に受験勉強といった潜在意識に刷り込まれた青春を上書きできるとは思えない。
レールの上を走らされることを、ツネはリスクと言った。それは俺が常日頃感じていることだ。周りと同じになるのが怖くて、俺はこんな信条を掲げて生きている。
「俺はその日その日に起きるイベントを、提示された占い結果に沿って乗り越えるのが生きる楽しみなんだよ」
俺は毎日違う生活がしたいのだ。そういう意味で、どんな部活であろうと、入部によって生活をルーチン化させてしまうのには少々の抵抗がある。
「まあ、その気になったらでいいさ。ケンがやらないなら、僕もやらないし」
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