第14話 鈍感

 入学から約二週間が経ち、高校生活にも慣れてきた。

 あれ以降、ツネは部活について何も言ってこない。

 そんな、ある日のことだった。

 今日の「一日一占い」には朝のニュース番組の占いコーナーを選んだ。それが失敗だった。俺はランキングという悪魔の形式が見せた結果に肩を落としていた。

 何が『残念、今日の最下位はあなたです』だ。なぜこんなにも晴れた日に、若干の敗北感を味わいながら登校するしかないんだ。

 結果に優劣をつけるタイプの占いは嫌いではないが、確実に相対評価になるのが気に食わない。同率とか、あってもいいじゃないか。俺の血液型だって頑張って走っているし、俺の星座だって頑張って浮いているのだ。

「『できるだけ誠意を持って謝りましょう』か……」

 謝るような事態になったらどうするかではなく、事態を防ぐためのワンポイントを教えてほしかったのだが。


 *   *   *


 教室に入ると、小冬が一番に声をかけてきた。顔を赤らめて、いつもと違う様子に見える。

「ケンちゃん、あの、放課後に……その……」

 そこまで言うと、何かを思い出したようにさらに顔を赤く染める。放課後に何かあるのだろうか?

「ほ、放課後に部活見に行こうよ! あたし陸上部が気になる!」

 ……なぜ俺が。小冬の中での俺の立ち位置が見えてこない。

 俺は「は? 何言ってんだお前」と丁重にお断りし、席に着いた。


 *   *   *


 放課後のチャイムが鳴る。これといった不幸もなく授業は終わった。なぜか無性に安心し、帰りの支度をする。どうやら取り越し苦労だったようだ。

 そのときだった。


「え、そんなはずないよ。だって昨日、提出したよ……?」


 廊下から、焦りとも怒りとも取れる声が聞こえた。女子生徒の声だ。間もなくして彼女は立ち去ったが、何かあったのだろうか。

 廊下に出ると、小冬が何やら落ち着かない様子でドアの近くに立っていた。喋っていなければ、こんなにも画になるのにと、俺は幼馴染の顔立ちの良さをもったいなく思う。すると小冬はこちらに気づいた様子で、小走りで詰め寄ってきた。

「ケンちゃん、文芸部に行こう」

 文芸部……?

「陸上部は諦めたのか?」

 俺が行かないと言ったから? それなら、結構本気で説教しなくてはいけないんだが。

「今日はいい! 明日一人で行く!」

「……」

 判然としない。どうやら俺が行かないからやめたというわけでもないらしい。文芸部に気になる先輩でもいるのだろうか。

 いや、こいつに限っては、そういうことはないだろう。偏見はよくないが、仮にそうだとしても、そこに俺を誘うというのもおかしな話だ。

「入りたいのか?」

「いや、そうじゃないんだけど……」

「お前が理由を持っていないなら、俺が行く理由なんて皆無なんだが」

「いーーーの! いこ!」

 小冬はいつもと同じ手際で、俺の袖をつかむ。でもその顔からは、これまでにない焦燥感のようなものが感じられた。

「ちょっと待て。本当に、今日のお前はおかしいぞ」

「あとで、話すから」

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