(3)
この日、俺と村崎さんは放課後に部活があったから、そのまま話はそこで終わった。
帰ってからネットでメリーさんを調べてみたが、『SNSのメリーさん』はまだネット上にそんなに広がってはいない。せいぜい同じ学校のやつだろうと思われる書き込みがいくつか見つかったくらいだ。
「うむ。これは事件の匂いがしますね」
「そうだな」
「え?」
「え?」
「びっくりです。いつもだったらシュートは『そんな訳ないだろ』とか言いますし。熱でもあるのかと心配になりました」
ソウは俺の膝の上によじ登って立ち上がり、でこをペチペチ叩いてきた。
余計な心配はしなくていいよ。だいたい、叩いても体温は測れないだろ。
重たいのでさっさと膝から降ろす。
「事件かどうかは分からないけど、俺もメリーさんの正体は突き止めておいた方がいいと思う。他人の写真を次々とSNSに上げるって、悪意があったら大変だからなー。悪意がなくてもまずいか」
「井上さんも巻き込まれていますからね。きゅい」
「まあね。友達だから。とはいうものの、女子限定のSNSだから調べにくいよ」
「そうですねえ。全員に当たってみると言っても、百人以上いるとなると少し大変そうです」
そもそも、同じクラスならまだしも、他のクラスの話したこともない女子に聞き込みとか、無理ゲー。いや、数人ならできないこともない?
ないない。下手したら、俺が変態扱いされる事案だよ……。
「まあ、村崎さんも調べてくれるって言ってたし、経過を聞きながらしばらく様子を見るか」
「それが良いかもしれませんね。ではシュートの代わりに私が少し調査してみましょう」
「いいけど……うっかり捕まるなよ」
大抵俺の傍にいるんだが、時々フラっと外に出かけるソウ。本人は見つからないように用心しているというけれど、野良カワウソとして捕獲されたらマジで困る。もちろん念のため今は首に迷子札を下げてはいる。けど外で独り歩きしていて誰かに捕まったら、俺が怒られること間違いなしだから。
するとソウは、おもむろに二本足で立ち上がった。腰に短い手を当てると、鼻を上に向けてぴくぴくと動かす。
「そんな、誰かに見つかるようなドジな真似はしませんとも」
言い切ったな。でも実際あっちこっちで目撃されてるよね?
「ソンナコトナイヨ」
「小さいおっさんにも間違えられるなよ」
「……失礼ですね。この可愛い私のどこがおっさんに見えるんでしょう」
遠目に一瞬だけみたら、小さくて黒っぽくて坊主頭のおっさんに見えるのかもよ。見つかっても困るんだけど、逆にこのままソウが学校で一般生徒に見つからないまま過ごしたなら……。
その姿は小さいおっさんとして長く語り継がれるんだろうな。
こっそりそんなことを考える。
ソウには黙っておくけど。
◆◆◆
翌日の昼休みは、村崎さんや井上さんから話を聞いたり、SNSのメリーさんのやり取りを見せてもらったりして過ごした。メンバーは昨日と同じで、俺と小池は相変わらず聞き役に徹している。
山口は『俺、七不思議には詳しいから!』と意気込んで参加したが、案の定、何ひとつ役に立つことは言わない。
まあいい。それが山口だ。
夜、晩御飯の後に部屋に戻ってからソウと情報交換した。
「それで、メリーさんはどんな人でした?」
「ああ、ソウが公園に戻ってきたのは、村崎さんのスマホを見た後だっけ」
ソウは学校に着くとすぐに、俺のバッグから抜け出してどこかへと姿を消した。草むらの中に姿を消したソウを見送りながら、あー、また小さなおっさんがどこかに出没するのかなって思う。
そして昼休みに公園で話をしてる時に、ひょこっと俺たちの居る場所へ戻ってきた。散歩に出かける時は、大抵こんな感じなので、もう小池たちは慣れたものだ。きゅいきゅいと鳴くソウを見て、喜んでお弁当のおかずを分けてやってる。
最近、ソウにはお弁当を作る必要ないんじゃないかなと思い始めた。
いや、そんなことはさておき。
午前中は、ソウなりに情報収集をしてきたらしい。今日は目撃されなかったはずだと、胸を張って言う。
本当かな。とはいえ勝手に歩き回るのを心配しないわけじゃないが、授業中にバッグの中から声を出されるよりはまあ、ある意味安心だ。
「一応、先週から今週にかけて書かれてたことはメモってきたけど、メリーさんがだれか分かるような情報はなかったよ」
メモ用紙を取り出して見せた。
――――――
O-Yu
9/3(火) 10:52「私も!」
17:38「そうだね」
9/5(木) 10:55「へえ」
9/10(火) 12:35「ありがとう」
17:46「良く写ってる写真があるから送るね」
続けて写真×3
9/12(木) 18:31「ここにいるよ」
続けて写真
その直後に退室(アカウント削除)
――――――
「この十日に送られた三枚の写真が、井上さんが疑われてたやつ。俺たちが話を聞いたのが昨日で十二日だから、その日の夕方にメリーさんは消えたってことだ」
「この『O-Yu』って言うのは何ですか?」
「『O-Yu』ってのはメリーさんの名前だけど、お湯かな? 小崎ユタカとかかな? その前は『let』で、もっと前は『I’m』だったみたいだから大した意味はないのかも」
「ほうほう。その
「名前を変えるのはすぐにできるよ。でも単に名前を変えただけだと、友達登録してる人には分かるんだ。『O-Yu』と『let』と『I’m』はアカウント自体が違うみたいだから、同一人物かどうかは分からない。でも行動パターンはすごく似てると思う」
フムフムと、ソウがお腹に手を当てて頷いた。
腕組みしたかったんだ? 組めてないよ。
「私も聞き込みをしたんですが、隣のクラスでちょっと問題発生のようでした」
聞き込みというか、多分盗み聞きな、それ。
「クラスの女子のうち一名が、メリーさんじゃないかと言われて仲間外れになっているようなのですよ。その子のスマホを他の子が取り上げて中を確認したところ、『SOMEのログは見つからなかったけど、メリーさんが送ったのと同じ写真がフォルダに!』と言って責められている現場を見たんです。危機的状況かと思ったのですが、私が出て行く訳にもいかず、非常に悔しい思いをしました」
「出ていかないでね」
ソウには重々念を押しておいた。とは言うものの、この話は思ったよりも深刻な問題になりそうだ。
憂鬱な気持ちで眠りについた。
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