(2)

 先生が来て授業が始まったので、話の続きは昼休みに持ち越しになった。そして昼休みはいつものように体育館横の公園へ。


「へえ……続木にこんな秘密が」


 村崎さんがニヤニヤして俺を見る。


「大人しいだけの普通の男子かと思ってたけど、意外と大胆だね」

「内緒にしてくれよ、村崎さん」

「きゅい」

「可愛い! いいわよ。井上ちゃんの顔も立てないといけないし」


 バッグから出てきたソウを見て、目を真ん丸にしていた村崎さんだけど、すぐに慣れてもう楽しそうに頭を撫でている。

 ソウが学校についてきてることを知ってるメンバーは、いつの間にか増えてた。小池、山口、越川、三田、そして井上さん。もちろん教室では、見てみぬふりをするようにお願いしている。その代わりに天気のいい日は、こうして昼休みに外に出ることになった。公園のあたりは滅多に人も通らないのでソウもバッグの外に出たって大丈夫だ。のびのびと草むらの中に突っ込んでいったり、木に登ったり、誰かの膝の上に上がってお弁当を分けてもらったりしている。


 とはいえ、それぞれに別の用事もあったりして毎回全員はいない。

 今日のメンバーは山口と小池と井上さん、そしてソウとは初対面の村崎さんだ。

 村崎さんをここに連れてきたのは、訳がある。

 もちろんその理由の一つは、朝の話の続きをしたかったからだ。ただ不思議な噂話に興味本位でいろいろと聞き出したいんじゃない。その噂『七不思議の八番目』に、どうやら井上さんが関わっているらしい。それも、あまりよくない感じで。

 俺も小池も噂話には疎い。そして同じようにあまり女子同士で交流がない井上さんも『七不思議の八番目』についてはほとんど知らなかった。

 なので弁当を食べながら、まずは村崎さんの説明にみんなが耳を傾けることになった。


 ◆◆◆


 七不思議の八番目は、つい最近、夏休み頃から女子の間で囁かれるようになった噂話だ。


「それって最近みんなには『SNSのメリーさん』って言われているんだけど」

「『私メリーさん。今あなたの後ろにいるの』の、メリーさん?」

「うんうん、それ」


 メリーさんってのは、俺ですら聞いたことがある有名な都市伝説のこと。

 なんでもメリーさんは電話をかけてくる人形らしい。何度も電話がかかってくるたびにだんだん家に近付いて、ついに『私、メリーさん。今、あなたの家の前にいるの』と迫ってくる。そして……。

 とまあ、そんな怪談だ。もちろん実際に電話がかかって来た人など身近にいるわけがない。


「SNSのメリーさんは実在するのよ! もっとも『あなたの後ろにいるの』て直接言ってくる訳じゃないけど。SOMEサムのグループで、一年生の女子ばかりが百人以上入ってる大きいグループがあってね。そこに正体不明の女子がいつの間にか紛れ込んでるのよ」


 SOMEサムはSNSアプリで、利用者は高校生が多い。もちろん俺のスマホにも入ってる。

 誰でも簡単にグループを作ることができて、グループメンバーの誰かに招待されたらそのグループに入れる。気の合う少人数のグループもあれば、だれが入っているかもわからない全体像の見えない巨大グループもある。

 今のクラスのグループももちろんあって、俺も参加してるが、流し読みであまり自分から書き込みはしてない。それでも連絡網がSOMEで回ってきたりするので一応ざっとチェックはしてる。

 違う学校のやつが入り混じったグループだってごく普通だ。

 メリーさんがいるのは、美野川高校の一年の女子だけのグループだから、俺や小池はもちろん入っていない。山口もな。


「入れ替わりの激しいグループで、いつも誰かが脱退したり新しく招待されて入ってきたりしててさ。だから誰が参加しているのか全容が掴めてないってわけ。でもメリーさんがこの学校の一年生の女子だろうってとこまでは分かってるんだけどね」

「なんで? SOMEは名前も好きに変えられるからわかんないだろ?」

「その通称メリーさんがなんでグループの中で怪しいって言われてるかというと、時々写真を上げるのよ。それもこの高校の、教室の中とかで撮られた写真」


 そう言って村崎さんが見せてくれた何枚かの写真には、同じクラスの女子が数人、村崎さんと一緒に写っていた。


「このグループは写真を上げてくる人も多いの。だから自分が写ってたのはこうしてダウンロードしてて。だけどほら、これ見て」


 もう一度全員で村崎さんのスマホを覗く。

 もちろんソウも興味津々で、一番前で覗いてる。


「きゅい」

「カワウソ君もスマホに興味あるのね。かわいー!」

「この写真に写ってるのは、村崎さん一人だね」

「そう。この時は教室にたまたま私と井上ちゃんの二人しかいなくてさ。だからてっきり井上ちゃんが私の写真を撮って勝手に上げたんだと思って、抗議したのよ」

「でも私、そんな写真を撮った覚えがなくて。しかもそのSOMEグループに私は入ってないんです」

「それを聞いて、ああこれメリーさんだ! って思ったの」


 夏休みの途中から急に、こうして知らないうちにとられた写真を上げてくる人が出てきた。その人はいつグループの中に入ってきたのか分からない。最初は発言せずにずっと黙ってる。しばらくたってから、ぽつりぽつりと会話に参加し始めて、その時は普通にみんなと話してるんだけど、後から写真を上げ始める。


「後々考えると、メリーさんの上げる写真って隠し撮りっぽい雰囲気のが多くて気持ち悪いのよ。でも最初は誰もが、誰かの友達だと思っているから、『あー、そんな写真あげたらちょっとなー』って思いながらも見逃すというか、何も言わないんだ。メンバーが多いから自分に関係のない話はちゃんと読まないし。でもそのうち誰なのかを追求し始めると、退室して消えちゃう」


 いつの間にか入って、だんだん近づいてくる謎の人物。

 確かにメリーさんっぽいかもしれない。


「夏休みから今までそういう事が数回続いてて、一番最近のが井上ちゃんのこれなのよ」

「村崎さんに聞かれたあとで、私もいろいろと教えてもらったんです。そうしたら、村崎さん以外にも何人か、私がメリーさんだと思ってる人がいるみたいで……」

「私も最初は責めちゃったから、申し訳なくってね」


 わっはっはっと豪快に笑う村崎さんは、ただうるさいだけじゃなくて案外優しいらしい。

 それにしても、このメリーさん、このままにしておくとちょっとヤバい気がするな……。



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