ep4 七不思議の八番目(1)
「なあ、続木、お前知ってる?」
「何?」
「美野川高校の七不思議の八番目」
「はあ?」
朝、教室に一歩踏み込むなり、山口がおかしいことを聞いてきた。
何だよ、七不思議の八番目って。
「やっぱり知らないんだ。続木は情報遅いからな。今、この学年ですごく流行ってるんだぜ」
「だとしても、もし八番目があるなら八不思議だろ」
「え、七不思議なのに八番目があるのが『不思議』なんじゃねえの?」
キョトンとした顔で俺を見る山口だが、それは違うぞ。
「えー」
「おはよー! ああ、続木たちも七不思議の話してるんだ。ねえねえ、八番目の噂聞いた?」
話しに割り込んできたのは
「村崎さんまで、だから何? 七不思議の八番目って、おかしいだろ?」
「なーんだ、続木は知らないのね。最近女子の間で噂になっててさ」
「そもそも、俺は七不思議も知らないぞ?」
「ださっ」
村崎さんがボソッとつぶやいた。
いやいや、何その扱い。って言うか村崎さんってそんなキャラだっけ?
ま、まあいい。気を取り直して話を続けようか。まずは七不思議からだ。
「だからあ、学校の七不思議。ここ美野川高校にも、ちゃんと七不思議があるのよ。例えばトイレの……」
「花子さん?」
「と思うだろ、続木クン」
横から山口が口を挟んできた。
「だがしかし、美野川高校にいるのは『トイレのカオリさん』だ」
「嫌な名前だな」
「男子トイレの個室が閉まってる時にノックして『カオリさん、カオリさん、まだですか』って聞くんだよ。そのときに『うるせえな。クソぐらいゆっくりさせろよっ!』って野太い声が聞こえたら、それがカオリさんだ。その声を聞いた人は一週間くらい便秘になるらしい」
……嫌な伝説だな。
「っつうか、それ、普通に誰かがトイレ使ってただけだろ」
「マアマア」
「え? 今、誰がまあまあって言った……?」
「まあまあ。ほら、次。村崎さん、次の伝説は?」
ソウの奴め。声を出すなとあれほど言いきかせているのに、面白そうな話を聞くとすぐこれだ。
村崎さんは簡単にごまかされて、すぐに次の話を始めた。ちなみに山口は全然気が付いてもいない。山口だからな。
「二つ目は『音楽室のピアノ』ね。誰もいないはずの音楽室から、ピアノの音が流れてくるんだよ。けど、覗こうとして音楽室に近付くと音が止まってしまうの。そっとドアを開けて中を見るけど、誰もいないんだって」
学校の怪談としては、定番だな。どこにでも似たような話はあるものだ。
「しかも流れてくる曲が、全部アニソンらしい」
「アニソン!」
それ絶対、誰か弾いてるけど恥ずかしくて逃げてるパターン!
「三つ目は生物室の骸骨模型。これ、夜中に一人で踊ってるらしいのよ」
夜中に踊ってるのをどうして知ってるのかってのは、突っ込まない方がいいんだろうな。
「骨だけだから踊ってると、普通にその骨が落ちたりするだろ?」
骨だけの奴は普通踊らないからな、山口。
「だから生物室の骸骨模型って足りないパーツがいくつもあるらしいんだ」
「それ、ただ単に壊れたか紛失しただけな」
「続木は冷静だなあ」
「お前はもうちょっと深く考えろよ、山口」
「マアマア」
ソウ!
「四つ目は……」
村崎さん、動じないな。
どこからともなく聞こえるソウの『マアマア』を、サラッと流してるわ。
「四つ目は旧図書室の天井かな。第二校舎の元図書室だった部屋の天井に手形が浮き出てきたんだって。第二校舎は古い木造でしょ。十年くらい前までは図書室がそっちにあったのよ。そこで受験勉強していた三年生の女子が、やってた問題がどうしても解けなくて自棄になったらしくてね。いきなり立ち上がって両手を上げてわーって叫んだの。そのときに両手から何か念のようなものが飛んで天井に手形として残ったとか」
あー、この学校の七不思議、なんだか頑張ってるなあ。
ちなみにこれは案外よくある話。木材は施工の時とかに触った人の手の跡が、長時間かけて変質して浮き出るんだ。天井板とかはとくに、そういうのが多いらしいって聞いたことがある。
今は第二校舎も改築されて、木の天井板は残っていない……はず。
「しかも、小人の足跡まであったらしいぞ」
「それって握りこぶしの小指側の方で作る足跡スタンプじゃないのか?雪が降った時、よくやってみるよな」
「え? やんないよ?」
「そ、そうか」
ここら辺は、雪なんて滅多に振らないもんなあ。
分かりにくいよね、反省。
天井板の小人の足跡はまあ、普通に考えれば錯覚だろう。今はもう見れないから分かんないけど。
「五つ目は危険な情報だから気を付けて」
村崎が小声になって顔を寄せてきた。
山口も一緒に顔を寄せてきた。
……。
「五つ目は『校長室の写真』よ。校長室には歴代の校長先生の写真が並べられているんだけど……」
「ああ、そういえば飾ってたな」
「ここ最近の写真は、見事にツルツルとフサフサが交互に並んでいるんですって」
「たまたまじゃねえの?」
「偶然にしたって、十五代も続いた法則なら、それはもう伝説と言っていいでしょ」
なるほど、そう言われたらそんな気もしてくる。
「そして本当だったら、今の校長はツルツルの順番なんだ。ところが……」
今の校長は、フサフサだな。
不自然なほどに。
……オーケー、これは危険な情報だ。
「六つ目は『小さいおっさん』よ。これ、元々は『小人がいる』っていう、落とし物置き場にミニチュアの家具やら人形の服みたいなのがあるって話だったの。だけどつい最近目撃者が出たらしくて、その小人はおっさんだったって!」
「先週のことなんだ。授業中に窓の方を見たら、片隅に小さいおっさんの顔があって、目が合うと消えたらしい。二階の三年生の教室に出たって先輩が言ってた。色黒でクシャッとして不細工なおっさん」
「失礼な!」
「え?」
ソウが言ったんだよ。『失礼な!』って。つまりその小さなおっさん、ソウってことだな。最近は学校に慣れてきて、ちょくちょくバッグから抜け出しては探検してるから、その時に目撃されたんだろ。
ていうか、誤魔化さないと。
「失礼だよね。小人の顔とかきっとよく見えなかっただろうし。もしかしたらオバサンかも」
「まあ、オッサンもオバサンも似たようなものよね」
村崎さんは鷹揚に頷いて、また話し始めた。
「七つ目は『恋愛成就の松』よ。この学校の設立当初からある伝説で、その松の下で愛を誓うと、別れても卒業して数年後の同窓会で必ず復縁して結婚するのよ。素敵!」
「一回別れるんだな」
「それは言わないお約束」
村崎がキッと睨んできた。
へいへい。
「けど、その松の木、どこにあるか分かんないんだよなー。校庭をくまなく探しても、松の木って一本もないんだって」
「ダメじゃん」
「いいのよ。伝説なんだから!」
ここまでの話が、この学校に代々伝わる(のかどうかは謎だが)七不思議。
そしてつい最近追加されたという八番目の話は、ここまでと少し趣の違うネタだった。
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