ラッキーガールが従者を買ってみたら、とんでもないのが買えました!
はがき
王都 グランパニア編
第1話
「おい、起きろ!」
薄暗い牢屋で横になる一人の男。
その男に牢の外側から荒々しく声をかけるものがいる。
男は、仕方なしと言うように、ワラのベットからのっそりと起き上がる。
「んあ?」
「姿勢を正せ!お前をお買い求めになるお客様だ!」
そう、ここは奴隷商だ。
更に長いこと売れない奴隷や、素行の良くない奴隷は、この牢屋にて客を待つことになる。
男は奴隷商の隣に立つ客を見る。
どうやら子供のようだ。140cmあるかないかの身長に、起伏の薄い身体、髪は金色で緩やかなウェーブがかかり、身なりの良い格好をしている。白いシャツに紺色のミニスカート、魔法使い然とした黒いマントと紺の三角帽子を被っている女だ。
女は帽子を取り、男の顔をマジマジと見る。
「ねえ、本当にこんなのしか残ってないの?」
「はい、女の奴隷なら居るのですが、男でご予算内となると、こいつしか……」
「ふぅ……、仕方ないわね」
女の顔は子供っぽくはあるが、抜群に可愛らしい顔をしている。相当モテるだろう。
「あなた、今日から私の奴隷よ?良いかしら?」
腰に手を当て見下ろしてくる女を、男はダルそうに見上げる。
「買うのか。俺に選択肢なんてねぇだろ」
女は軽くため息をつき、
「いくら奴隷って言ってもね、いちいち命令しなきゃ動けないようじゃ使い物にならないのよ。きちんと、丁寧に、自ら率先して奴隷をしてくれるやつが欲しいの」
男の態度を見て、奴隷商の男が叫ぶ。
「てめえ!しゃきんとしねえか!!お客様だぞ!」
女は奴隷商を手で制止し、話を続ける。
「私はアリサ。アリサ=リーベルトよ。魔法使いをしてるわ。あなたは?」
「……ジンだ」
「そう、ジン。あなた何が出来るの?」
「あー、剣なら少しばかりは」
アリサはやや傲慢そうに見える態度で、変わらずジンを見下ろしている。
「衣食住は保証するわ、それもあなたでは到底着れなそうな服や、見たことない食べ物も用意しましょう。さっきも言ったけど、命令しないと動かないようなやる気のない奴隷はダメよ。……あなた、出来る?」
ジンは何日洗ってないかわからない頭をポリポリと掻き毟る。それを見たアリサはあからさまな嫌悪を示す。
「……まあ、やれと言うなら?」
「そんな言葉遣いではダメ。執事のような態度も必要になるわ」
ジンは無茶を言うなと思った。
だが、そろそろタバコが恋しくなってきた。
ジンはすくっと立ち上がり、背筋をピンと伸ばし、顎を引き、両かかとを揃え、綺麗な直立をすると、右手を腹の前に添え、45度のお辞儀を見せる。
「かしこまりました、お嬢様」
アリサは少し目を見開き、ふぅんと声を漏らした。
「やれば出来そうね、良いわ、これを買うわ」
奴隷商は顔をほころばせ、
「はい!ありがとうございます!」
と言ったが、ジンは牢の中でさっきの姿勢のまま片膝をついてアリサに頭を下げた。
「お嬢様、お願いがございます」
アリサは片眉をあげて、
「奴隷の分際でいきなりお願いはどうなのかしら?……、まあ、良いわ。聞いてあげる」
「お嬢様の望みに応えられるよう努力致します。ですから、私にタバコをお与えください。それさえ貰えるならただの言いなり奴隷は卒業しましょう」
「……」
アリサは目を細めたが、
「あなたも良い歳そうだしね、タバコぐらいは知ってるか。良いわ。でも時と場所は考えて嗜みなさい」
「かしこまりました」
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