第24話

「おい、どうすんだよこの空気」

「私に言うわけ?むしろあんたのせいじゃない。責任とりなさいよ、ジン」

「なら、殺すか」

「っ!なんですぐそんなこと言うのよ!」


ここは学校の魔法の練習する、校庭のような屋外修練場。

リカルドは呆然とし、とても決闘がどうとか言う雰囲気ではなくなってしまった。

ジンは呆然としているリカルドの目の前に立ち、リカルドに認識させるように、リカルドの目の前で手を振る。


「おい、見えてるか?帰っていいか?」

「っ!なっ!」


リカルドはまるでいきなりジンが目の前に現れたかのようにびっくりし、よろよろと数歩後ずさり、そのまま尻餅をついた。

あの剣聖が、この世に右に並ぶほどが居ないと言われている剣聖が、自分が100人居ても勝てないと言ったのだ。

元々リカルドもジンが弱いと思っていない。王都をスタンピードから救ったとも聞いた。それが原因からか国王は姫を献上し、ジンだけでなくリーベルト家に手出し無用の、国王の印綬が押された通達も来た。

だからこそ、剣聖を用意したのだ。父の全てのコネを使い、大金を用いて世界に数人しか居ないランク50の冒険者を雇い、古から血を連ねるドラゴンが棲みつく山に剣聖を迎えに行ったのだ。

それが、剣聖に勝てないと言われ、ジンが本物の勇者なんじゃないかと、やっと考えがそこに行き着いた。

その勇者に決闘を申し込んでいる。勝てるわけない、だが幸いなことに決闘はジンにではなくアリサに申し込んでいるのだ。

まだ、やりようはある。

もうアリサなどどうでもいい、この決闘に勝ち、勇者を奴隷として手に入れてやる。リカルドの頭はそれで一杯になった。


「まだだ!まだ終わってない!」

「やる気かよ……、もう面倒だからやるなら殺すぞ?」

「条件を変える!」


アリサは呆れ顔で、


「なんでも受けるとは言ったけど……」

「厚顔無恥とはこのことですわ……」

「うるさい!そいつは無しだ!僕とアリサで決闘だ!」


アリサはそれを聞き、平然とした顔で答える。


「あら、それでいいの。なら────」

「待った!違う!2人ずつで勝負だ!もちろんそいつは無しだ!」


アリサとジンは『なんだかなぁ』という顔をする。まるで子供を相手にしている気分になる。

リカルドはアリサとなら勝てると思っていた。だが、アリサの余裕の態度にビビった。スタンピードをジンとアリサで倒したという噂も後押しをしている。もしかしたらアリサもそこそこは強いかもと保険を打ったのだ。


「2人って、私以外はシャルしか居ないわよ?」

「うっ」


リカルドもシャルロッテが誰だかわかっている。王族に決闘を申し込む。それは勝ち負けに関わらず国への反逆とも取れる行為だ。

リカルドはすでに冷静な判断力を失っていた。


「そこの女は学園の生徒だろ!ならば身分などここにはない!」

「もうあんたがそれでいいならいいわよ……」

「わたくしもまさか、決闘を申し込まれる未来があるとは思いませんでしたわ……」


きっともうホースラック家は終わりだ。この事実を国王が知ったら、お家取りつぶしどころか一族打ち首は避けられないだろう。


「もういいわよ、やるわよ。何を賭けて決闘するの?」

「そいつだ!奴隷の所有権をかける!」


子供を相手にしているような雰囲気だったアリサが、一気に真顔になった。


「それを言われたら、もう遊びじゃ終わらせられないわよ?」

「アリサ、決闘は遊びじゃありませんわ」

「うるさいうるさい!!こっちは僕とこのギリアムだ!」


3人いたリカルドの従者、メイドの女と剣聖ムスタファ、もう1人のメガネをかけた優男、そいつがギリアムだ。


「……、リカルド、手加減出来ないかもしれないわよ?」

「元よりそのつもりだ!」


リカルドは白い手袋をアリサに投げつける。アリサはそれを落とさずに受けとった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「な、なんなのよこれぇ!」

「キリがないですわ!」


ジンは魔法の打ち合いになるだろうと思っていた。それならばアリサとシャルロッテが負ける要素がない。

だが、いざ始まってみればギリアムという奴が土魔法を唱え、わんさかゴーレムを生み出した。土魔法でゴーレムを生み出すのは、かなり魔力を使う。それがアイアンゴーレムまで混ざっていると言うことは、ギリアムもそれなりの力量だ。

リカルドは意外にも、高度な魔力の譲渡の詠唱を使い、ギリアムの魔力タンクと化している。完全に物量作戦だ。


ジンはソファーに座り、テーブルにワインを出し、一杯ひっかけながらタバコを吸って決闘を観戦する。


「おい、これ決闘だろ?そんな寛いでて良いのか?」

「いざとなったら助けるから問題ない」

「助けるってお前、それは負けだろうが。お前はリカルドの物になるんだぞ?」


ジョシュアだ。ジンに呼んでこられ、また立会人をさせられている。


「まあ、俺をあいつが扱えるわけないからな。問題ない。それよりお前も一杯やれよ」

「いや、もらうけどよ……」


チーン


ジンとジョシュアはグラスを合わせ、軽やかな音をさせる。


「ジョシュア、こういう時は『ルネッサンス』と言うんだ」

「?、乾杯じゃないのか?」

「違う。まあ、やってみろ」


2人はグラスを高々と掲げ、笑顔で軽やかにグラスを合わせる。


「「ルネッサァ〜〜ンス!」」


「あんた絶対ぶっ殺すわ!!」

「勇者は鬼畜しかなれませんの?!!」


必死にゴーレムを処理するアリサとシャルロッテ。2人の視界の端にジンたちが寛いでいるのが見えて、怒りをあらわにする。

次々と襲いかかるゴーレム、クレイゴーレムはアリサの水球で倒せる。だがアイアンゴーレムは簡単には倒せない。

シャルロッテが光の光弾で、アイアンゴーレムを足止めし、アリサの雷で感電させる。そしてアイアンゴーレムの足が止まってる間に、余裕がある時に薄く研ぎ澄ませた水のカッターでアイアンゴーレムをぶったぎる。

アリサの負担が大きいが、2人の力量にはそれなりに差があるので仕方ないだろう。


10分後


対応は出来ている。出来ているがジリ貧だ。リカルドたちが先に魔力が切れると思ったが、リカルドたちは高級な魔力補給ポーションをがぶ飲みしている。アリサたちは用意してない。先にダウンするのがどちらかは、誰の目にも明白だった。


寛いでいたジンが叫ぶ。


「詠唱しろ!!」

「「っ!」」


アリサもシャルロッテも真の詠唱を習ってはいた。だが、恥ずかしくてやりたくない。


「吹っ切れ!死ぬぞ!」


ジンの激励が飛ぶが、アリサたちはどうしてもやりたくないようだ。

ジンは仕方ないと、どこからか何かの箱のようなものを取り出した。箱の上部に数個のボタンようなものがあり、そのうちの一つをジンはポチっと押す。


タカラカラカラカラカラカ…………

タカラカラカラカラカラカ…………、フー!!

タッタッタッ、ターラ!


軽快な音楽が流れ出した時、アリサは全てを諦めた。やるしかない。どのみちジリ貧だ。負ければジンを奪われる、勝つしかなかった。シャルロッテもアリサを後押しする。


「アリサ、アイアンゴーレムは健在、目の前に並んでいますわ」


アリサは短く目を閉じて、すぐに目を開けてシャルロッテに告げる。


「お姉様、アレを使うわ」


シャルロッテもチラリとアリサを見て、


「ええ、よくってよ……」


2人は最大の循環を促し、アリサは水色のオーラを、シャルロッテは白いオーラを吹き出す。


「「ゔあ゛あ゛ああああぁぁぁぁぁぁぁ」」


2人は腰に両手を引き、気合いを全身に込める。

そしてシャルロッテが叫ぶ。


「スーパー!!」


白いオーラが右手に集まる。

アリサも左手に水色のオーラを集めて叫ぶ。


「イナズマ!!」


2人は右手と左手を組み合わせ、オーラを合わせながら前に突き出した。


「ビィィィィーーーーム!!!」


白い極太の光線に青いイナズマがまとわりつき、一つのビームとなり、ゴーレムを襲う。2人の合わさった手の先から、ビームが発射されると、そのビームは右から左へと地平線を舐めるかのごとく、学校の修練場に走った。

数瞬、静寂が辺りを包むと、


ドオオオオォォォォォォォォン!!!!


高々と火柱をあげ、全てのゴーレムは一撃で消え去った。リカルドとギリアムも爆風で吹っ飛び、最奥の修練場の壁に激突して意識を失った。

爆風が晴れると、アリサとシャルロッテは、胸の下で腕組みをして仁王立ちをしている。アリサはシャルロッテの腕組みにより、盛り上げられた胸を苦々しく横目で見ていた。


ジョシュアは「なんてものを教えてんだ」とジンを薄目で睨んだ後、ソファーから立ち上がり、


「勝者あり!!アリサ=リーベルト!」




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既巻、2巻編集の為、1週間ほどおやすみします。

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