第25話

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やめろ、やめてくれ。

更新もしてないのに1日1000PVとか。

更新したくなってしまう……。

ストックが……、俺のストックが消えていく……。

皆様本当にありがとう。

更新停止を取りやめ、文字数の多少関係なく、1日1話のみ更新させていただきます。

文字数が少ない日もありますが、ご了承ください。

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あれから1年が経ち、既に3学年となり、3日後からは実戦形式の野営も含めた林間学校だ。そしてアリサたちの卒業のシーズンとなる。


何?はしょりすぎ?

無理だ、この先の山盛りのイベントを消化し切れない。のほほんとした日常まで記していたら、三年はかかってしまう。

ハンスに弟子にしろと詰め寄られ、断ってもしつこいので、1年間毎日ハンスが来るたびに張り手でぶっ飛ばしていたらそれが修行になっていたり、イライザが周りに人が集まりだしたアリサに嫉妬し、王宮の食事会で毒殺を図って失敗してブリュンヒルドに殺されたり、ジョシュアの頭髪を鬼ゾリにして額に肉と書いたら、逆にキャバクラで大受けして、ジンが嫉妬してマネしたらケティちゃんに愛想尽かされたり、リコリスがジンをど直球で勧誘してきたのを断ったら、『じゃあシャルロッテをくれ』とか予想外のことを言われたり、ベラに色仕掛けをかけられ、それをシャルロッテの時ばりにジンがけちょんけちょんにしたり、ナタリーに『キャシーに謝れ』と言われて面倒だから謝りに行ったら、キャシーはレズに目覚めていたりなどを記している暇はない。

あ?昨日はほのぼの日常だと言った?リアル感想欄と物語を一緒にするんじゃねえ!リアルはリアルだ!

それに大魔王エタるが襲ってくる前に、終わらせなければならないのだ。のんびりしている暇はない!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


リカルドはあの後処刑された。

さらりと言ったが仕方のないことだ。

決闘が終わってすぐ、リカルドの父親、ホースラック伯爵がやってきて、「遅かったか」と呟いた後、シャルロッテに膝まずき、懸命に言い訳と詫びをした。そしてホースラック伯爵はリカルドを王宮に引きずっていき、国王の前で自ら息子を殺した。

その足で再度シャルロッテの前に現れ、ジン、シャルロッテ、それにアリサにも頭を下げて、なんとか許してくれないかと懇願した。ジンは「ひとつ貸しだ」と言ってそれで許した。ホースラック伯爵は命を拾ったかのような表情で帰って行った。


アリサは元々素質があったのか、メキメキと実力を伸ばしていた。今ではほぼ、ジンと同じように呼吸をするかのごとく常に魔力の循環を行い、その程度では水色のオーラが体から立ち上らないようになっている。循環を行いつつも、魔力を体内に収めて漏れ出さなくなっているのだ。魔法剣科に移動したこともあり、体力もそれなりに上がっている。アリサの場合は体力はもちろんだが、魔力を使用しての体力の補助の体得が素晴らしかった。

シャルロッテはそこまでは上達していない。ジンはシャルロッテは2年経ったらブリュンビルドを回収し、シャルロッテを返すつもりだ。シャルロッテをサボっているのを咎めても、どうせ後少しだと思って注意しなかった。


そして3日後に林間学校を控えた午後のカリキュラムの時、ジンはアリサとアリサのパーティメンバーを、校庭のような修練場に集めた。


「おい、なんだよ師匠、新しい技でも教えてくれんのか?」

「黙れガキ。俺はお前を弟子にしていない」


ハンスはカラカラと笑い、


「その割には稽古つけてくれるじゃん」

「……ハエを追っ払ってるだけだ」

「そういうのツンデレって言うんだぜ?昔の勇者が言ってたらしいぜ?」

「クソが」

「クソ度ではジンも負けてはおりませんわ」


シャルロッテが余計なことを言う。

だが、用があって全員を集めたのだ。帰らせるわけにもいかない。そう、ジンの過保護が発動したのだ。


「わかってると思うが、林間学校は従者の同行は認められていない。あくまでもお前らだけで過ごさなければならない」


アリサは腰に両手を添え、呆れ顔で首を傾げながら言う。


「そんなこと言って、どうせ隠れて着いてくるんでしょ?」

「ジョシュアにキツく止められてるからな、今回はナシだ」

「どうだか……」


ジンは雰囲気を切るように咳払いをして、


「そこでだ。万が一がないように、お前らに武器を貸してやろうと思ってる」

「っ!本当か!師匠!武器くれんのか!」


ハンスは目をキラキラさせて、ジンを見る。


「やるんじゃない、貸すんだよ」

「けちくせえこと言うなよ!くれよ!」

「お前らが武器に見合う実力を備えたら考えてやる」

「やったぜ!」


ハンスはとてもそこまでではないが、実力は伸ばしている。むしろ筋が良いとも言えた。


「まずはハンス、お前からだ」

「おう!」


ジンは執事服の内ポケットに手を入れ、ゆっくりと手を引き出すと、両刃の長剣がゆっくりと出てくる。それは白銀に輝き、無骨で実直な見た目ながらも、機能美として一級の美しさを備えていた。剣がゆっくりと内ポケットから出てくるに従い、ハンスの顔が見る見ると花開く。

そして、剣を出し切るとハンスの前の地面に剣を突き立てて手を離した。


「名をソウルファイアと言う。材質はミスリルで1番ではないがなかなか手に入らないものだ」


ハンスは目が落ちそうなほど見開き、おずおずと剣に手を伸ばす。


「こ、こんなすげえのを、俺に……」

「やるんじゃないぞ?それだってすげえ面倒なクエストが必要なんだ。貸すだけだ」


ハンスがゆっくりと剣を抜き、両手で構える。


「魔力を通せ」


ハンスがソウルファイアに魔力を通すと、剣身から炎が噴き出した。


「おおお!!」

「お前は炎の魔法剣が得意だったろ?相性が良い筈だ」

「すげえ……すげえ!!!」


ハンスは少し離れて剣を振り回し、剣の軌道に合わせて真っ赤な螺旋を空に描く。


「ありがとう!師匠!」

「師匠じゃねえ、それに貸すだけだ」


ハンスはすっかり剣に魅せられ、ジンたちから離れてソウルファイアを振るい続ける。


「バカだな。あー、次は、……お前だ、ナタリー」

「はい!」


レズに目覚めたキャシーの主人、ナタリーだ。


「お前にはこの弓を貸そう。名をトゥルーショット、ユグドラシルを使った弓だ」

「ユグドラシル……、って世界樹じゃないですか!!世界樹はあるんですか?!」

「何を言っている、だからここにあるんだろうが」

「……」


話が噛み合わない。伝説とも言われる世界樹。天に届くほどの高さを誇る世界に一本しかない木なのだが、誰も存在を見たことが無い。その存在の真偽を聞いたのに、ジンの返答はアレだ。


「矢は普通のを使え。風が得意なお前ならなんとかなるだろ。次はお前だ、ベラ」

「あ、あたしも良いの?!」


ジンに女の尊厳をボロクソにされたベラは、ジンと一線を置いていた。それでも貰えることにびっくりしていた。


「だから貸すだけだ。お前はこれだな、これはミストウォーカーと言う。振ってみろ」


内ポケットから取り出された、小ぶりの片手剣をベラが受け取る。そして言われるままに魔力を通して剣を振ると、白と水色の毛をした狼が剣から生まれた。


「っ!な、何これ!!」

『ウォフ!』

「か、可愛いぃぃぃぃ!!!」


ベラは狼に抱きつき、もふもふと顎下や頭の毛を触る。


「そいつは一緒に戦ってくれる。存在するのにお前の魔力を食うから、まあ、お前なら持って10分だろう」

「そんなっ!こんな可愛いのに10分だけなのっ?!」

「要らないなら返せ」

「っ!いやっ!」


ベラは絶対返さないと言わんばかりに自身の双丘の間に埋めた。


「貸すだけだからな」

「お願い!なんでもするから!これちょうだい!」

「ダメだ」

「お願いよ!」


やっぱりこいつは面倒くさい。こうなるなら誰にも貸さない方がマシかとジンは思う。


「はぁ……、もういい。なら全員返────」

「お待ちください」


リコリスが前に一歩出た。


「私が責任を持ちます。きちんとお返ししますので。ベラ、あなた、自分さえよければいいのですか?もうこのパーティを抜けたらどうです?」

「うっ……、ご、ごめんなさい……」


どうやらアリサがリーダーかと思っていたら、実質的にはリコリスが仕切っているようだ。

リコリスはジンの顔を見つめ、


「私にも何か貸してもらえるのですか?」

「……、そうだな、お前は魔法剣科にいる癖に、武器は使えなそうだ」

「申し訳ありません」

「なら、これだ」


ジンは内ポケットから、2m弱はありそうな古ぼけた木の棒を取り出した。


「これはハイエロファントと言う。なんか偉そうなエロそうな龍が、後生大事に持ってたものだ」

「えら、エロ……?」

「お前は光系だろう、魔法が使いやすくなる。これを使え」


リコリスは甲斐甲斐しくそれを受け取る。


「さて、お嬢」

「わかってるわ、私は要らない」


アリサは武器を使わない。それでも魔法剣科に移動してからは身体を動かすことに重点を置いていた。アリサはオリハルコンのビキニアーマーの魔法障壁を利用して、徒手空拳の体術を修行していた。


「これをやろう」


今までもありえなかった。ただの執事服から剣やら杖やら取り出して、物理的にありえなかった。だが、これは常軌を逸脱していた。家だ、ログハウスが出てきたのだ。大きさ的にはそこまで大きくはない。それでも、家の中は3、4部屋は有りそうなくらいは大きい。


「野営用の家だ。ウエストポーチに入れておけ」

「……もう野営じゃないわよ……」

「魔物よけの魔方陣も組み込まれている。これを使えば夜間の見張りも必要ない」

「……とんでもないわね」


アリサは修練場に出されたログハウスを、自分のウエストポーチに収納した。


「私も亜空間バッグを持ってますが、アリサさんのバッグの容量は……」


それを見ていたリコリスが驚愕の表情をする。家一軒入ってしまう亜空間バッグなど、一体いくら出せば買えるのか。侯爵家でも亜空間バッグは家宝レベルなのに、それを数倍上回る物を男爵家の娘が持っている。

ジンの物だと想像は出来るが、リコリスの常識からは納得しずらかった。


リコリスの従者たちは、『これのうち一つでも俺に貰えたら、俺はこいつのために命を捨てるのに』とか『どれもあるかもしれないと噂レベルの代物だよ。本当にあったとはね』とか、生徒たちから少し離れて話している。


「よしお嬢、常に命の危険を考えて動けよ?」

「やりすぎよ……、普通の生徒でも滅多に死人は出ない林間学校よ?」

「だがゼロじゃない」

「……、はあ、なんなのかしら。お父様が2人になった気分だわ……」


アリサは頭を抱えつつも、きちんと気づいていた。だが、驚愕の表情を浮かべるあの人を見たら、逆に口出ししずらかった。


「まさか……、わたくしにはありませんの?」


シャルロッテだ。


「お前は人質だろうが。必要ないだろ」

「あんまりですわ……、それはあんまりです……」


ここにいるものは皆貴族だ。ベラは貴族でなくても、この国有数の大富豪の商家の娘だ。事件から1年も経ってれば、シャルロッテが人質という情報ぐらい持っている。

だからジンの物言いに驚く者は居ないが、皆顔を曇らせている。知っていても口出し出来る問題ではないからだ。


シャルロッテは泣きそうだ、いや泣いている。こうなるとこの場で慰められるのはアリサしか居ない。

アリサはシャルロッテの肩を抱き、


「ジン、たかが貸すだけじゃない。器が小さいわね」

「あのなお嬢、間違えるなよ?こいつと仲良くしても辛い未来しかないぞ?基本的には敵なんだ」

「それでもよ。ジンが正しいかもしれないけど、本当肝っ玉が小さいわ。だからケティさんにもフラれるのよ」

「……フラれてはいない」


元々ケティとは金の付き合いなのだ、フラれるとかそういう問題ではない。と、ジンは思っている。


「とにかく、ジンがどう思おうと、私とシャルは一緒に決闘した仲よ。人1人の命を一緒に奪ってるの。他人ではないわ」

「……」


シャルロッテの涙は嘘泣きではない。ジンとグランパニアの間には、まだここまで壁があるのかと本気で悲しくなって涙をこぼした。しかしそれで終わらないのがシャルロッテだ。シャルロッテはしたたかなのだから。

シャルロッテは純白のハンカチを取り出し、目尻を抑えて涙を拭う。


「いいのですアリサ。忘れておりましたわ……、あまりに毎日が幸せすぎて……。思い出しました……、わたくしは娼婦以下、いえ、娼婦さんに失礼でしたね、わたくしは虫ケラ以下の駄肉……、ジン様には会話すらしてはいけないのに……、甘えてしまいましたわ……」


ハンスが頭をぽりぽりと掻きながら、ジンの元へとやってくる。


「師匠、そりゃあんまりだ」

「黙れ」

「……、カッコわりいよ師匠」


ベラ、ナタリー、リコリスも声にこそあげないが、軽蔑の眼差しをジンに向ける。


「契約のため自害も出来ませんわ……、そうです、アリサもジン、様、もこんな辛い思いをしていたのですね……。わたくしはグランパニアの王族の端くれとして、改めて謝罪いたします、申し訳ございません」


シャルロッテは綺麗にアリサに腰を折った。


「い、いいのよ、シャル!私たち姉妹でしょ!!もう昔のことなんだから!」

「アリサ……、ありがとう……」

「それに!ジンは私の奴隷よ?、結局はジンじゃなくて私がどう思うかなんだから!だからシャル、元気だして!」

「アリサ……」


アリサはキッとジンを睨み、


「ジン!シャルにも何か出しなさい!」


面倒だ。だがアリサがこうなったらもっと面倒だ。絶対にジョシュアとの飲み会関連のことを言ってくる。ジンはため息をついて、内ポケットからソフトボール大の透明な水晶玉を出すと、それをシャルロッテに放り投げた。


「それは魔素ストーンだ……、命の活力を魔力に変えて他人に譲渡するエルフの至宝だ。至宝同士で馬が合うだろ、変換し過ぎて死んじまえ」

「ジン!」


だがシャルロッテはそれを女神像を称えるかのように掲げて、


「ありがとうございます、ジン様。有事の際はこの命、アリサに捧げさせてもらいますわ」

「ジン!シャル、そんなこと言わないで……」

「いいのです、アリサ……。これがわたくしの宿命なのですわ……」


ジンはタバコを取り出して、ムクれるようにどっかに行った。

シャルロッテは思った。良い傾向ではないが、確実にジンの心に楔は打ち込めたと。ジンが今心に感じている極少量の罪悪感が、いつの日にか役に立つと。

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