第39話 幕間(後編)
あれからちょっと場が落ち着いた。ジンが、
「セリエ、いい加減にしろ……」
と結構マジな顔で言うと、セリエは、
「ここは本命の顔を立てとくかね」
と、外人のように肩をすくめてソファに座った。
そして、セリエの説明が入る。ジンは地球という所から来た異世界人だと言うこと、ムスタファとジンが修行していたウォブリ山に、ムスタファに用事があって来たセリエがジンを見つけ、3人で話し合いその後はセリエが面倒みることになったこと、ロウバメニー王国南東にある『聖地』と言われる湖のほとりでジンが神剣を抜いたこと、元々小競り合いだった人間と魔族が本格的に戦争に入った頃、ジンをマーリンの元へと連れてったこと、狂気に己を染めたマーリンを殺害した事、その後一年で人間と魔族を扇動していた自称神をブリュンヒルドと共に倒し、ジンが人魔大戦を終結させたこと。その際、セリエ、ジン、ジクムンドと言う魔族の3人の大転移魔法で、あらかじめ調べておいたゼネテギアと言う大陸に魔族を移したこと、そこで法律を作り、ジンを魔王として国を立ち上げた事、その後ジンは書き置きだけ置いて何処かへ消えた事などだ。
アリサたちからしてみたら、まだ物心もつくかどうかの歳だったこともあり、まるで物語を聞かされてるようだった。
そしてセリエがここに来た3つ目の目的を言う。
「ジン坊、《ランスロットの奇跡》を貸しておくれ」
ジンの眉がピクリと動く。
「……セリエになら渡してもいい、が、すまん。もう焼いた」
「あら、それじゃ仕方ないね」
「……理由を聞かないのか?」
「んぁ〜、だいたい想像つくよ。アレはなくてもいい物さ」
「なら何で取りに来た」
「もちろん、転生の秘術さ。……オリビアが10年殺しの呪いにかかった」
「何っ!!」
オリビアとはセリエの妹だと言う。10年殺しとは確殺の呪いで解除方法は無いらしい。だが、死ぬまで10年は存命することから10年殺しと呼ばれている。
「まさか……」
「そう、あたしとシェリーを生贄にして、シスにオリビアを産んで貰うつもりだった」
「ふざけるなっ!!」
ジンが激昂して立ち上がる。
「まあ、ジンはそう言うだろうと思ったよ。でもあたしとシェリーはもう長く生きた、オリビアはまだ100にも届かない」
「……」
「でも、ないんじゃ仕方ないね。秘術を覚えてるかい?ジン坊」
「覚えてても死んでも教えない」
「そうかい」
セリエとジンはキツく睨み合う。
「よろしくて?10年殺しとはもしや、カトブレパスの呪いのことですか?」
セリエとジンが同時にシャルロッテを見る。
「知っているのか?シャルロッテ」
「はい、確か王宮の文献に記述がありましてよ。解除方法も載ってたと────」
「本当かい?!!」
セリエは見えない速度でシャルロッテの肩を掴んだ。
「は、はい、内容まで覚えてはおりませんが、王宮に帰れば調べられますわ」
セリエは床に土下座した。
「頼む!人間よ!あたしたちに、魔族に知恵を!頼む!!」
「っ、あ、頭をあげてください」
「頼む!」
シャルロッテは王族だ、頭を下げる人は見慣れている。だが元魔王にここまでされると流石に恐縮する。
「なんでもする!あたしは何でも捧げるから!!」
だが、ここで「どうぞどうぞ」と言わないのがシャルロッテだ。シャルロッテはしたたかなのだから。
「……、なら取引があります」
セリエはガバッと頭をあげた。
「何でも言え!私の命でも!」
「いえ、1つ約束してくれるだけでいいのです」
「なんだ!」
するとシャルロッテはセリエに耳打ちした。ジンにもアリサにも聞こえない。
セリエは急に目を見開き、苦々しい顔をしたと思ったら、片側の口角をあげた。シャルロッテがセリエから離れる。
「シャルロッテとか言ったかい…?、あんた悪魔のような女だねぇ」
「魔族に言われたくありませんわ」
「あんたも女ならわかるだろう?それを我慢しろと?」
「あなたの妹の命はその程度ですの?」
「もうあたしを殺してくれないかい?それなら死んだ方がマシだよ」
「ダメですわ。あなたが私の約束を守りながら生きるのも、契約のうちですわ」
「……、本当悪魔だね……」
「何?なんなのよ!!」
シャルロッテはアリサにも耳打ちする。仲間はずれはジンとハンスだけだ。
アリサは耳打ちが終わると、満面の笑顔で「ナイスシャル!」と言っていた。
「どうするんですの?」
セリエは大きくため息をつき、
「わかった。魔族の誇りにかけて約束は守るよ」
「ありがとうございますですわ」
ジンはアリサになんだと聞いたが、アリサに笑顔で絶対教えないと言われてしまった。
「では参りましょう。我が家にご案内しますわ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
この第一声を間違えてはいけない。これを間違えれば人神戦争が始まる。
「迎えに来たぞ、リュリー」
「嬉しいなのよ、嬉しいけど、1人だけ居ちゃいけない奴がいるなのよ」
メンバーは、風ぐるま全員と魔法で肌の色と耳の形の変装をしたセリエだ。
「まあ、色々あってな」
ブリュンヒルドはセリエを睨みつける。
「何しに来たなのよ」
「あんたはまだお子ちゃまかい?変わらないねぇ」
「黙れ年増、娘、あいつが誰かわかってるなのよ?」
ブリュンヒルドはシャルロッテに向かって言った。
「ええ、わかっておりますわ」
「あたちのジンを売ったなのよ?」
「まさか、それにわたくしのジンですわ」
「はあ?シャル?、そこまで言う?それは宣戦布告なの?」
「余の前で姫と喧嘩するとは……、余は王なのだが……」
「「「あんたが1番黙ってて!」ですわ」なのよ」
シャルロッテはブリュンヒルドに近寄り、ひそひそと耳打ちする。
「悪くないのよ。でもなぜそこにチビの他に娘の名前が入ってるなのよ」
「あんたのがチビでしょうが」
「わたくしが取り付けた契約です。わたくしも入るのは当たり前ですわ」
「あたちの目の黒いうちは、どっちにもやら────」
シャルロッテとアリサは同時にブリュンヒルドの口を塞いだ。
「さて、お父様。今日は王宮の文献を見に来ましたわ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
王宮の図書室で、手分けして文献を探す。すると国王がジンのところに寄ってきた。
「のう、勇者よ」
「なんだ国王」
「余はそなたの為に安くない金を払ったはずだ」
「……何が言いたい」
王宮裁判の金貨のことだろう。
「ものは相談だが、ブリュンヒルドちゃんを置いていかぬか?もちろん大切に育てる」
「……そこはシャルロッテじゃないのか?」
シャルロッテを置いていけならまだわかる。
だがいくら2年一緒に居たからといって、恐怖の対象のブリュンヒルドを置いていけと言われるとは。
「シャルロッテはもうダメだ……、そなたの色に染まってしまった……」
「言っとくが手をつけてないぞ?」
「どちらでも構わん、どの道もう嫁にも出せぬ。それよりも純真無垢で永遠の美しさを誇るブリュンヒ────」
「お父様、聞こえてましてよ?」
シャルロッテに殺意の乗った睨みをきかされ、すごすごと退散して行った。
あの様子ではリーベルト家は、守ってくれるだろう。ブリュンヒルドは置いてはいかないが、縁があったら一回ぐらいは助けてやるかとジンは思った。
「あった!ジン坊!あった!!」
セリエの叫びに全員がセリエのところに集まる。
「……賢者の石か……」
「場所は書いてありませんわね?」
「ジン、知ってる?」
アリサとシャルロッテの問いに、ジンとセリエは顔を見合う。
「「ウォブリ山だ」」
賢者の石、濃密な魔力を内包した伝説級の石だ。どこにあるか、どうやって作られるか誰もわからない。昔の学者は自然界の魔素が、長い歳月をかけて結晶化されると言う人もいた。
だが、1つだけ所在がわかっている場所がある。ウォブリ山の頂上に住む、古代の龍の筆頭格、人語を理解し、龍言語魔法を得意とする闇のエンシェントドラゴン、ヴェルザールが持っているとされている。
そして……、とても偏屈で女好きで有名だ。
「決まったな、ジン坊。手伝ってくれるな?」
「もちろんだ、だが殺すのか?ヴェルザールとは不可侵の契約があるだろ?」
「……交渉するしかないさ……」
「それが一番やっかいだ……」
2人の呟きのような会話に、アリサたちが参加する。
「取りに行くの?」
「何か今、聞いてはならない名前が出ましたわ……」
「いきなりかよ。師匠、修行もしないでいきなりラスボスか?」
するとセリエが3人に告げる。
「安心しな、あたしたちだけで行く────」
「それはダメ」
「許しませんわ」
「……約束は守る」
「無理ね」
「信用出来ませんわ」
「……」
「……」
「……」
3人の女が睨み合う。
折れたのはセリエだ。
「わぁーった、わぁーった!……オリビアの時間はまだ8年ある。急ぐ旅じゃあない。ならあたしも同行することにするよ」
「「「っ!」」」
「なんだい、ジンは顧問なんだろ?ならあたしも顧問さ。あんたらの冒険に手出ししないよ」
「あんた一人で行けばいいじゃない」
「そうですわ、場所はわかったのですから」
ここはジンが止める。
「それは無理だ。それにオリビアは俺にとっても妹みたいなものだ。放置は出来ない」
「「……」」
すると、アリサがパンと手を叩く。
「よし、わかったわ!まずは私の実家に行って、そのあとウォブリ山に行きましょ!そのあとは魔族の大陸探検よ!」
「はあ?!アリサ、本気かよ!」
「本気も本気よ!それにこのパーティのリーダーは私。私が決めるわ!」
ハンスは、今の力量でドラゴンは勘弁して欲しかった。シャルロッテはジンと寝たことがあるこの魔族に、さっさとどっかに行って欲しかった。
アリサは違う。アリサは喜んでいた。
正直アリサもジンを独り占め出来るとは思ってない。自分の父親でさえ妾さんが居るのだ、ジンほど力がある男を独り占めは出来ないだろうと内心覚悟は出来ている。
それにシャルロッテもいる。何だかんだ言って、なし崩し的にシャルロッテともいつかはそうなる、それも覚悟はしている。もちろん順番だけは譲るつもりがないが。
だが、アリサはもう一つの懸念があった。自分は妹枠で、結局ベッドを共にするのは永久に不可能なんじゃないかと。
それがどうだ、妹枠は他にいた。なら自分は自他共に認める本命枠。これは僥倖と言える。その子だけは死んでもらっては困る。ならば本命として、妹の命を救わなくては。
アリサのこの考えに気づいたのはシャルロッテだけだった。
セリエがアリサに言う。
「本命ちゃん、ありがとな」
「その呼び名も嫌いじゃないけど、私はアリサ。あなたが分をわきまえるなら私たちは仲間よ」
アリサは右手を差し出す。セリエはちょっとイラっとしたけど、ここは余計なことは言わないと握手した。
「シャルロッテですわ」
「これからも頼むよ」
「ハンスだ」
「セリエと呼び捨てで構わないよ」
とりあえずの方向性は決まった。いきなり魔族の大陸を目指すことになったが、アリサとシャルロッテはぶっちゃけジンと一緒ならどこでも良かった。
「待つなのよ、あたちはこいつの同行を認めてないなのよ」
「目を閉じ────」
「にゃああああああああ!!」
黙って聞いていたブリュンヒルドは、ジンが口を開こうとした途端、飛び上がってジンの顔にしがみつく。
「ジンはあたちをなんだと思ってるなのよ!1人は寂しいなのよ!いっつもいっつも────」
だがジンは、ブリュンヒルドの顔に手を当て、自分の顔から無理やりブリュンヒルドを引き剥がし、
「目を閉じろ、ブリュンヒルド」
「ふざけんじゃないなのよおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
ブリュンヒルドは光を発しながら、断末魔のような叫びをあげ、剣に戻って行った。
「シャル……、私、生まれ変わっても神剣だけにはなりたくないわ……」
「わたくしもですわ、アリサ……、あれなら犬猫のがマシですわ……」
こうしてめでたく?、新パーティ風ぐるまは結成され、旅立ちの準備を始めるのだった。
「……俺の女の子も頼むぜ、師匠……」
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この数日、1日1話とか出し惜しみをしないで、区切りの良いところまでストック開放しました。
次からは第二部ですが、3日ほどお休みを頂きます。
今度は本当に休みます。
それではまた、3日後の朝に。
よろしくお願いします。
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