ゼネテギア上陸編

第40話

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ちなみにあの有名な大陸は『ゼテギネア』である。ネットで『ゼネテギア』とよく間違えられているのを、パロディしたものである。

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グランパニア王都で最後かもしれない買い物をした。衣類や食品類、酒からタオル歯ブラシなど、何から何までだ。幸い、風呂やベッドなどは、アリサにあげたログハウスでまかなえる。消耗品関連などを中心に買い上げた。

道中、ニッコニコな奴がいる。そいつはジンに肩車をされ、短い脚をブンブンと遊ぶように振りながら、ジンの頭上でチョコがかかったソフトクリームを食べている。


「……、おい、頭に垂らすなよ」

「あたちを無下に扱う罰なのよ。これからはあたちも一緒に旅をするなのよ」

「へーへー」


ジンのアイテムボックスのようなものは空間魔法だ。別に執事服の内ポケットを出入り口ときめたわけではないのだが、剣化して空間に収納されたブリュンヒルドは、ジンの内ポケットから漏れるほどの光量を発し続けた。

ジンは空間を超えてくるほどの光を放つとは、さすが元神かと思った。あんまりしつこく光ってくるので、仕方なくブリュンヒルドを内ポケットから出して人化してやると、ジンの脚にしがみつきワンワンと泣き始めた。さすがに良心が痛んだので肩車してやると、まるで嘘泣きだったかのようにケロッとしてご機嫌になった。


「シャルロッテ、本当にいいのか?」

「もちろんですわ、ジン」

「……わかってるのか?」


ジンはブリュンヒルドを肩車したままシャルロッテの顔を覗き込む。シャルロッテもにこやかにジンに振り返り、


「当然ですわ。ジンは基本手出しをしない、ならば自分の命は自分で守るってことですわ。それに魔族の大陸に行くのですわよ?死んでも十分におかしくない、わかっておりますわ」

「お前は王族だろうが」

「わたくしは元々後継者にはなれません、政略結婚の駒と申しましても、既に行き遅れてますので駒にもなれません。お父様も肩の荷が降りた程度に考えてますわよ」

「……」


その通りかもしれない。ジンはアリサを見る。


「お嬢、忘れ物はないか?」


アリサは半眼でジンを見返す。


「むしろそれはジンの仕事じゃないの?……言っとくけど、ジンは私の奴隷なんだけど」

「あー、たしかに」


ジンはカラカラと笑う。


「しかしまあ、ジン坊が奴隷とはねぇ。やっぱそれも例の予言かい?」

「ああ、そうだ」


ジンの隣に歩く、真っ赤なドレスを着た女。ジンの冒険の時に、ほぼ始めからずっと共に生きたダークエルフ、セリエがジンに問いかけた。ここにいる全員が、『ジンはある目的の為に、予言者の力を借りて15歳の時にこの世界に来た』ということまでは知っている。だが、アリサを追って来たと言うのはセリエしか知らない。


何故ジンはアリサを見つけたにもかかわらず、それをアリサに言わないか。それはアリサの自我がどうなっているかわからないからだ。

占い師の話では、アリサは転移ではなく転生だと言う。なら肉体はこの世界で生まれたものだ。自我はどこに宿るのか。脳?魂?心臓?その辺はわからないが、ジンが思うにこのアリサは亜里沙では無いと思っている。体格も性格も良く似ているが、やはりどことなく違いを感じる。だがあのスタンピードでのアリサの一言は、亜里沙でなければ知り得ない。……あの一言に全てを賭けて良いものか?もし、亜里沙を思い出させてしまったら、アリサの自我はどうなってしまうのか。片方が消滅?融合?もし融合ならばそれは亜里沙と言えるのか。消滅ならば、一体どちらが消滅して、どちらが消滅ならば自分が納得出来るのか。

考え出すと頭がぐちゃぐちゃになり、一歩踏み出すことが出来ずにいた。


「ジン、このまま私の実家まで行って、そのあとウォブリ山でいいのよね?」

「あ、ああ。お嬢のパーティだ、お嬢が決めろ」

「そうね」


黙って先頭を歩いていたハンスが振り返る。


「でもよ師匠、師匠もセリエさんも空間魔法が使えるんだろ?パッと行ってパッと戻ってくれば一瞬じゃねえか、いてっ!」


合理的なことを言うハンスの頭を、セリエがチョップで黙らせる。


「だからお前は半人前なんだ。ハンス、あんたは、ジンの旅について来たいのかい?それとも自分で道を切り開きたいのかい?自分の足で歩き、考え、行動する。全部修行のうちじゃないか、よく考えな!」

「ちぇ、わかってるっての……」


ハンスが少しむくれる。


「ハンス、お嬢、シャルロッテ。お嬢のリーベルト男爵領まで歩いて3日だ。どう言う道で行くかも自分たちで考えろ。費用だって、今日渡した金だけだからな?稼ぎだって考えなきゃダメだ」

「そうだよ、ジン坊から装備や亜空間バッグを貰ってるんだろ?それだけあるだけでも大きなアドバンテージさ。贅沢に慣れたら強くはなれないからね」


アリサは両手を胸の前でガッツポーズを取り、


「そうよね!こんだけ色々貰って修行までしてもらってるんだもん!充分ラッキーよね!」

「ああ、お嬢。お前はラッキーだ」

「私、頑張るわ!」


ジンも自分の心に戒めた。

過保護にならないようにしなければと。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



アリサたちは出発前に冒険者ギルドから依頼を受けて来た。それはここから東のリーベルト男爵領の最西の村、カバラ村までの護衛依頼だった。通り道で尚且つ、リーベルト男爵領への物資の輸送だと言うことで、快く引き受けたそうだ。それならば男爵が住むリーベルト男爵領の中心町まで受ければ良いと思うのだが、商人はカバラ村の商人に物資を売り、その商人がその先に売ると言うことになっているようだった。


そして、大量の物資を積んだ荷馬車二台と、アリサたち風ぐるまは東門に集合する。


「あのー、勇者、様、ですよね?」

「いやいや、ワシは越後のちりめん問屋のジン右衛門と申す」

「どこの誰よそれは……」

「師匠、つまんねえぜ……」

「……ガキどもは黙ってろ……」


商人は『安全は保証されたようなもの』だと大喜びをした。


1日目の野営時、アリサたちとジン、セリエ、ブリュンヒルドの6人は、アリサにあげたログハウスに泊まったが、それを見た商人たちは度肝を抜かし、売ってくれとせがんだ。

が、ジンが一言、


「なら売っても良いが、どうやって運ぶんだ?まさか亜空間バッグごと買い取るのか?金あるか?」


と言われると商人たちは黙り込んだ。家が入るバッグなど、自分らが生涯働いても稼げる額ではない。ぐうの音も出なかった。

そしてジンたちは、三人ずつに別れて夜間の警戒をした。ログハウス事態は警戒機能が付いているので問題ないが、今回は護衛依頼だ。商人たちや荷馬車も守らなくてはならない。数度狼の魔物の襲撃があったが、ジンたちはもちろん、アリサたちも楽々と処理をした。


2日目の昼間、街道が森に近いところを通る時事件は起こった。


「ハンス!シャル!」

「わかっておりますわ!アリサ!」


アリサとシャルロッテが敵の気配を魔力で捉える。もちろんジンたちも気づいていたが、これからはアリサたちの冒険だ、気づかないふりをしていた。


荷馬車の前に10人ほどの盗賊が現れ、荷馬車は止まった。


「へへっ、荷馬車と女は置いていけ。そうすりゃ命は助けてやるよ」

「ひぃぃ!ゆ、勇者様!お願いします!!」


商人たちはアリサたちを見ずに、いきなりジンに懇願した。


「お前らの依頼人はアリサたちだろ?」

「っ!そ、そんなっ!」

「ひっどいわね……、私たちだってこのくらい対処出来るわ」

「そうだぜ、俺たちは師匠の弟子だ、任せてくれよ」


ジンの物言いに商人が絶望し、アリサとハンスが憤る。


「アリサ、どうやら10人ではありませんわよ」

「わかってるわ。48人でしょ?」

「っ!!や、勇者様!!弟子の修行のために私たちをダシにするのですか?!なんかあったら責任を取ってもらいますよ!!」


商人から見たらそう見えてもおかしくないかもしれない。荷馬車を包囲している盗賊は48人、いや正確には森にまだあと10人弓矢隊がいる。アリサたちが負けることはなくても、商人隊の誰かが死ぬかもしれない。

ジンはため息をつき、


「仕方ねえ……」


荷馬車を囲む盗賊たちの前に一歩出る、ブリュンヒルドを肩車したままだ。

ジンは肩に座るブリュンヒルドにボソボソと話をすると、


「ええええい!控えおろーーーなのよー!」


子供の甲高い声が草原に響き渡る。

ブリュンヒルドは自身の右手を剣に変化させて前に突き出す。


「ここのおわすなのよ、どこのどなたかがなのよ?……えーっと、ジンなんだっけ?」


ジンはボソボソと呟き、ブリュンヒルドは「そっか!間違えた!」とパァと破顔させる。


「ええい!しずまれえ、しずまれなのよお!」


その心配はいらない。全員が言われなくても静まり返っている。

盗賊たちは、幼女の叫びに訳がわからずぽかーんとしている。

盗賊だけではない、アリサたちもだ。


「この神剣が目に入らぬかぁ!なのよお!!」


そんな幼女の手に剣のおもちゃを被せたようなのを、肩車されながら振り回されても全く恐ろしくない。


「ここにいる方がどなたと心得るなのよ!!恐れ多くも神剣の寵愛を受けし者、勇者カザマツリなのよ!頭が高い!控えるなのよ!」


盗賊たちが先に我に帰る。


「いや、頭が高いって……、俺たち盗賊だし……」

「可愛い……」

「そこは危ないからおじちゃんと向こういこうか?」


ジンは商人を見る。


「……遊んでるんですか?」

「……絶対違約金とりますからね」


仕方なくアリサたちを見る。


「なげえよ、師匠」

「あんたねえ、言われなくたってみんな勇者って知ってるわよ」

「王都には演劇学校もありましてよ?王都へ戻りますか?」

「……、すけさん、かくさん、はちべえ、後は任せた……」


ジンはトボトボとセリエの元へも戻ると、「ならあたしはお銀だなっ!」と喜んでいた。

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ラッキーガールが従者を買ってみたら、とんでもないのが買えました! はがき @bird919

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