第21話

そして2学年が始まる。ジョシュアの悲痛の叫びに、ジンとアリサは同情を感じて魔法剣科の選択授業を受けることにした。ジンもアリサも自分たちが今の時代の魔法とはかけ離れていることは理解しているからだ。

アリサは現代の詠唱を使い魔法を行使していたし、ジンも今までの経験からわかっている。まあ、ジンからしてみると、数少ない飲み仲間でもあるし、アリサにキャバクラに行ってることを内緒にしてもらうという弱みを握られてもいる。ジョシュアをこれ以上追い詰めるのは得策ではない。

そこに行くと、シャルロッテは常識を知らない。


「あの先生は怠慢ではありませんこと?」

「いいのよ、シャル。……許してあげて」


ジンはシャルロッテに対してもっと辛辣だ。


「女、余計なことをしてみろ?お前に地獄を見せてやる」


だがその程度の脅しでビビる女ではない。あの謁見の間は、充分に地獄だったのだ。言葉1つ間違えただけで、確実に無慈悲に首が飛ぶ。王族だろうが女だろうが関係ない、そんな空間を乗り越えたのだ。毅然とした態度で、自分たちの要求を通した心胆は伊達ではない。


「しませんわ。ですがわたくしが命の覚悟が出来てないと思われるのは心外ですわ。わたくしは腐っても王族、たかが命を脅されたくらい、何ともありませんわ」


シャルロッテは挑戦的な目でジンを見返す。


「…………なら、魔力の循環はもうしてやらない」


ジンも駆け引きぐらいは出来るつもりでいる。人化したブリュンヒルドをチョコで釣ったのだから。


「構いませんわ。既にわたくしは自分で魔力を練れます」

「そうか、ならお前の魔力の経路をいじってやろう。ドーパミンが分泌されないようにしてやる」

「んなっ!!」


シャルロッテも今ではアリサと一緒にジンの講義を受けている。魔力とは、物質とは、水や空気とは何かの授業だ。その中で『何故人間は快楽を感じるのか』の講義もあった。

シャルロッテは徐々に顔を青ざめさせ、すがるようにジンの肩をつかむ。


「それだけは……、どうかそれだけはお許しを……。囚われの身にはそれだけが救いなのです……」


アリサは呆れた目でシャルロッテとジンを見る。


「誰が囚われの身よ。シャルのどこが人質の態度なのよ。……ったくっ。ホントうちの奴隷と人質は、もっと心構えを改めるべきよ」

「なんだお嬢、前見たく執事っぽくしてやろうか?」


ジンは皮肉めいた顔で言った。


「はいはい、もういいから。今更すぎるわ。さっ、早く魔法剣科に行くわよ」


アリサは疲れたようなため息をつき、2人を先導するように歩き出した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「よお、久しぶりだな」


そこには1年の途中で魔法剣科に転属したハンスがいた。


「身体は大丈夫?ハンス」

「ああ、大丈夫だアリサ。それに勇者様が治してくれたんだからな?当然だろ」


と、ハンスはジンを睨むように言った。

ハンスも感謝はしている。確実に死ぬような怪我をしたのに、一切の後遺症なく治療してもらえたのだ。まさに第2の人生をもらったと言っても過言ではない。

だが同時に疎ましくも思っていた。ハンスだけしかジンに治療してもらえなかったせいで、「勇者とどんな関係だ」とか、「息子なのか」とか「自分だけ助かればいいのか」とか言われ放題言われてきた。こいつに関わったせいでと思わずにいられない。それに元々気に入らなかった。ハンスはアリサに淡い恋心を抱いていた。それがあの時に、アリサは自分には芽がないと気付いてしまった。その悔しさもある。

そのハンスが、見たことない人が居るのに気づき、大きく目を見開く。


「…………きれいだ……」


アリサの格好は、洗い替えで色々持ってはいるも、基本的にビキニアーマーの上から、帽子にシャツ、ミニスカートにマントとと言う魔法使いを意識した衣装だ。最近は金属の籠手とすね当てを付けているが、それでもあまり変わり映えはしない。多少色が変わったりする程度だ。

だがシャルロッテの格好は、街では見ることのない、とんでもない服装をしていた。

肩を露わに出し、胸は強調するかのように盛り上がる。白い手袋は二の腕の半ばまで伸び、ドレスの裾はくるぶしを隠している。ウェディングドレスのように花開くような感じではなく、もっとぴっちりとしてして、身体のラインがもろわかりな感じのドレスだ。

そして、極め付けが、大きなスリットが左右1本ずつ、骨盤あたりまで入っている。絶対に動いたらパンツが見える。

アリサの屋敷内では、シャルロッテはショーツと変わらなそうなホットパンツにTシャツといいラフな姿なのだが、外では一応王族らしい服装と言うことで、こんな服を着ているようだ。


アリサもハンスの言葉を受け、ジットリとした目でシャルロッテを見る。


「やっぱ、シャルの格好はおかしいわよ」

「あらアリサ、でもわたくしはこれでも姫なので、やはり姫としての最低限の服装と言うものがありますわ」

「でもそれはないわよ。魔法剣科だから身体を動かすのよ?……それじゃ……、見えちゃうじゃない」


アリサの呆れたような指摘に、シャルロッテは笑ってアリサのミニスカートをピラッとめくる。


「こんな短いスカートの人に言われましてもね」

「きゃっ!、何すんのよ!」

「アリサの服装よりは破廉恥ではありませんわ」

「絶対シャルのが破廉恥よ!」

「わたくしのが裾が長いですわ」


やんややんやと言いあって、結局最後には、


「ジン!どっちのがいい?!」


ジンは途中から聞いてなかった。でも言えることはある。


「どっちもイメクラのコスプレだ」

「いめ?え?」

「また意味不明なことを言ってますわ」


面倒なので、2人の矛先を変える。


「なんでもねえよ。それよりガキ、お前はどうだ?」


ハンスは耳まで真っ赤にして、ぽけーっと一点を見つめている。シャルロッテの豊満な胸だ。シャルロッテは視線に気づいても、隠すこともせずに、


「触らせることは出来ませんが、見るくらいならよろしくてよ」


ど、ドヤ顔で言い切る。

アリサは右手を振りかぶり、


「ハンスのバカーーーー!!」


バチーン!


思いっきり張り手をした。

ハンスは床に倒れ、鼻血を垂らしながらもずっとシャルロッテの胸を凝視していた。

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