第14話 新型ハンマー作成
小柄な少女の実力を見ることにした俺とレオナは、クエストも受けずにメタルハーピーと戦った草原まで来ていた。
用事がない日は仕事をサボると心が痛むが、やることがあるならクエスト受けなくても割と気が楽っていう理論だ。
幸いお金には当分困らなくなったし、下手にきついクエストを受けるよりは仲間を得ることを優先すべきだろう。先ほどの素材鑑定でメタルハーピーを倒した事が確定したので、冒険者ギルドの事後調査が終わり次第クエスト報酬も貰える筈だ。
「じゃあ早速、今から新型のハンマーを作るぞ。素材があまり売れなかったら翼も売るつもりだったから、売らずに済んで助かった」
「ハンマーなのに、メタルハーピーの翼を使うんですか?」
「あぁ。翼と言うよりは、翼の中に隠されていた鋼鉄ファンだな」
草原に来る途中で話を聞いたところ、ギルドで声を掛けてきた少女はフィラという名前らしい。
俺はフィラに説明してから、荷車に載せて持ってきた素材を組み合わせ始める。金属を組み替える時は〈成型手〉を使ってても音が大きくなる時があるから、街の中だとやりづらいんだよな。
「ハーピーやメタルハーピーは小さな竜巻を作って攻撃してくるけど、あれは体に風を生み出す器官があるからなんだよ。特にメタルハーピーの鋼鉄ファンは構造が単純だから真似しようと思えばできるけど、動かすエネルギーとか考えたら魔物の素材を利用した方が早いよね」
「うわぁ。調合師って、魔物の素材をこんな簡単に武器に改造できるんですね……」
隣にいたフィラが武器の製造工程を見て、感嘆の声を上げる。ここに来るまではずっと遠慮し続けていたようだったが、武器作りの光景を見てようやく警戒心のない声を聞いた気がする。武器製造の魅力が分かるとは、なかなかセンスあるじゃないか。
「ライアの製造技術は普通じゃないにゃわんけどね。あと何より、武器のアイデアが一番普通じゃないにゃわん。素材からは想像できないような武器作ってくるし、これを普通だと思わない方がいいにゃわんよ?」
「あ、やっぱりそうなんですね……」
やっぱりってなんだ、やっぱりって。
「あまり異常者みたいに言わないでくれよ……」
「心配しなくても大丈夫にゃわんよ、褒めの要素が七割にゃわんから」
「残り三割はなんなんだ!?」
製造技術に関しても、最近驚かれることが多いがそんなに凄くないだろ。思春期をずっと製造技術の鍛錬に注ぎ込めば自ずとそうなります。
俺は12歳の頃から冒険者稼業を始めているので、七年経った今では19歳だ。
レオナは16歳でフィラは13歳だと言っていたので、まぁ今から調合師の道を歩んだとしても数年経てば良い調合師になれるだろう。個人的には、レオナには剣士を続けてもらいたいものだが……。
「と、そんな話をしてる内にハンマーのヘッド部分が出来たな」
「えっ!? いくらなんでも早すぎにゃわん……。話に集中してたらいつの間にか完成してて、何が起こったのか全く分からなかったにゃわん……」
「もう少し中がどうなってるか見たかったです」
製造風景を見逃したレオナが犬耳を垂らし、フィラが悔しそうに呟いた。武器に興味を持ってくれるのは嬉しいけど、製造スピードの速さに文句つけられても困る。
「中身がどうなってるかはともかく、どういう構造かは説明するよ。ヘッドの片側がメタルハーピーの鋼鉄ファンで出来てるから、これを起動すればハンマーの勢いが強くなるんだ」
「成る程。それは強そう……ですけど、難しそうですね」
「メタルハーピーの竜巻は凄かったから、ハンマーの勢いは凄いことになるにゃわんねぇ。でも、ちょっと勢いをつけるためにハンマーを重くしすぎたら本末転倒じゃないにゃわんか?」
俺が今作ってるハンマーの強みを説明すると、レオナが少しだけ心配そうに尋ねてきた。
確かに、普通のハンマーであれば下手に重くして振り上げ辛くなれば、逆に使いづらくなってしまうだろう。だが。
「それなら、普通のハンマーじゃなくせばいいだけの話だよなぁ!」
言いながら、俺は柄の製作に取り掛かった。しかし取り出した素材は、頑丈な鉄ではなくアシッドスパイダーの……糸。
糸を何重にも重ねた後、触れたものが溶けないように酸性蜘蛛の糸袋を巻き付ける。それから端にハンマーのヘッドを〈成型手〉で繋ぎ合わせて……。
「うし、これで完成だ。レオナ、持ってみ?」
「嘘だろにゃわん……。私が想像してたものと全然違うにゃわん……」
レオナは驚愕しながら、俺が手渡した糸を手に取った。
この武器を簡単に説明するなら、柄が長い糸で出来た、頭でっかちにも程があるハンマーだ。攻撃力を優先したのでヘッドは一般男性を二人積み重ねたくらいの大きさがあるし、それならハンマーを持ち上げるという概念自体なくしちゃえという構想のもと作りました。
ヘッドから生えた糸を強く握りしめると、メタルハーピーの鋼鉄ファンに刺激が伝わってヘッドの片側から竜巻が発生するようになっている。
レオナが糸を握ると、ファンが作動して糸の先端にあるヘッドが勝手に動き始めた。ヘッドは竜巻によって空中へと浮かび、彼女が糸を揺らすだけでその向きに動いたヘッドがバカンボコンと地面を抉る。
「うみゃああああああっ! これ絶対扱いが難しいやつにゃわんっ! というかどうやって止めるにゃわんかぁ!!」
「怖いですっ! 武器の試用を見てただけなのに、何故か死の危険を感じてますっ!!」
「手に込める力を緩めていけば勝手に止まるぞー」
「それ吹っ飛ばないにゃわんか!?」
柄が糸で出来たハンマーが好き勝手動き始めて、レオナとフィラが慌てふためく。やがてなんとかレオナが止めることに成功したが、二人ともゼェゼェ荒い息を吐いていた。あ、ハンマー避けてた俺も虫の息だけどね。死にそう。
うーむ。レオナなら難なく操れるものと思い込んでいたが、流石にすぐは難しいか。
少し落ち着いてきてから、俺はネーミングを考え始めた。
「【圧殺する鯉のぼり】……。いや、素直に【糸槌サドゥンプレス】でいいか」
「待つにゃわん、最初の名前案が物騒すぎてめっちゃ気になるにゃわんっ! 私は何を持たされてたにゃわんか!?」
レオナのツッコミを華麗に無視して、俺は放心しかかっていたフィラに向かって微笑みかけた。
「じゃあフィラ、この武器使ってみるかい?」
尋ねると、フィラは今にも泣きそうな表情を浮かべ、俺と長いこと見つめ合っていた。流石に断られるかなと思ったが……彼女は覚悟を決めて、とうとうコクリと頷く。良いね、そうこなくっちゃ。
覚悟を決めたフィラは涙目で俺の方へと歩み寄ってきて、糸槌を持ってから小さく呟いた。
「声を掛ける人、間違えたかもしれない……」
糸槌を改良した武器がフィラの愛用武器となるのだが、それはまた、後のお話である……。
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