第19話 冒険者式仲直り

「はい、ということでね。先ほどの勝負は1対10でこっちの勝利でーす」

「にゃわーん!」


 【白亜の洗礼】の方々は一人が気絶し、残りは意気消沈してしまったので話を進めるべく俺は競争の結果をまとめて元気に教えてあげた。横からレオナも元気に合いの手を打ってくれる。


 まぁ十匹倒した後もフィラは残党を狩ってくれたので、正確には1対19くらいなんだけどね。


「おいリリー。これでちゃんと、フィラを追い出した事を後悔してくれたか?」

「エモノ、ドコダ……? イナイ? ナゼ?」

「……。いや、正直あんなヤバい奴をギルドに置いときたくはないかな……」


 俺は一番聞きたかったことをリリーに尋ねたが、彼女は未だに暴走しているフィラを見て首を振った。うん、確かに今の姿は見せたかったものと少し違う感あるね……。


 自分が全部倒したのにまだ敵を探してるの、ちょっとお茶目が過ぎる。


「……でも、私達がフィラを見くびってたのは認めるよ。フィラを追い出したのも、私達に見る目がなかったからだわ」

「金色ピカピカ……虫ケラ? ……って、リリーさん!?」


 リリーが敗北を悔しがりながらも、フィラに向かって深々と頭を下げる。彼女は先程の戦いで、自分の至らない部分を反省することが出来たようだ。それを目撃したフィラは、相当驚いたのか我を取り戻した。

 今リリーをクルーエルビーと見間違いかけてた気がしたけど、それは気のせいだと思いたい。


「ど、どうしたんですかリリーさん? 頭なんて下げて……」

「完敗よ。フィラを役立たずだと決めつけて追い出したのは、あんたをしっかり見られなかった私達が悪いわ。本当にごめん」

「そんな、謝らなくても……」


 フィラはいつものように相手に気を遣いかけたが、途中ではっとして口を閉じた。屈辱を噛み締めてまで自分に謝っている状況で、素直な思いを伝えない方が失礼だということに思い至ったのだろう。


 彼女は少しだけ考える素振りを見せてから、さっきの狂乱ぶりが信じられないほど穏やかに語った。


「そうですね。ギルドを追い出された時、私はとても悲しかったです」


 静かな時間が流れてから、また言葉が続く。


「自分なんて役立たずで、もう誰にも必要とされないんじゃないかって思っちゃいました。実際色々なギルドに入れてもらおうとしても、誰も相手にしてくれませんでしたし。それだけでどんどん自信がなくなって……」

「分かるにゃわんっ! 私もライアに会うまでは誰にも相手にされなくて悲しかったにゃわん!」


 ソロ冒険者時代を思い出して感極まったのか、普段は空気を読むレオナがフィラの話に横から割って入った。おい。


「いくらなんでも皆が冷たすぎるから、もしかして犬の堅物なイメージがいけないんじゃないかって思って……。犬派の人にも猫派の人にも好かれるように、語尾に猫要素を入れたりして……」

「君の語尾にはそんな悲しい思いが詰まってたのかよ」


 涙目で過去を振り返るレオナを見て、雰囲気が余計にカオスになってしまった。

 そもそも「にゃわん」って「にゃ」と「わん」の複合だったのか。ひょっとしてそれのせいで仲間できなかったんじゃないの?


 俺が可哀想すぎるレオナの茶髪を撫でて彼女を慰めていると、ようやくフィラ達の会話は再開された。


「でも、もしギルドを追い出されなければ私は変われなかったと思います。自分の臆病さを治そうともせず、皆さんに甘えてたのは確かですから」

「あんたは変わりすぎだと思うけど」


 フィラの反省に、リリーが呆れたような声を出す。

 確かに彼女が自分の力を引き出せたのは、ギルドに追放されたことと俺が無茶ぶりさせ過ぎたことがどちらも理由として大きいのだろう。


 そんな事を思っていると、フィラもリリーに向かって頭を下げた。


「リリーさん、【白亜の洗礼】の皆さん……これまでありがとうございましたっ! これからは私、ライアさん達と一緒に冒険します!」

「……それが、フィラにとっては良い事なんだろうね」


 成長したギルドメンバーの姿を見て、リリーは穏やかに笑う。

 彼女はあまり性格が良いとは言えないが、実力のある冒険者を認められるだけの度量はあるようだ。やはり、ギルドをまとめているだけあって実力のある冒険者なのだろう。


 フィラが自分の意思でこちらのギルドを選んでくれたのが嬉しくて、俺とレオナは微笑み合った。そして、ずっと話していた二人に声をかける。


「よし。話は一段落したようだし、とうとうお待ちかねの罰ゲームタイムだな」

「そうにゃわんね! 何を頼もうか悩むにゃわん」

「えっ」


 笑顔のまま和気あいあいと喋り出した俺達を見て、リリーと【白亜の洗礼】の男達が同時に目を丸くする。


「どうした? 競走に負けた方が言うこと聞くって言ったのはそっちだろ?」

「いや、そうだけど……」

「あれ? もしかして良い感じの話に持っていけば忘れてくれると思ってました? 冒険者界隈にそんな甘い話はないですよリリーさん」

「フィラまでっ!」


 完全に失念していたようで、【白亜の洗礼】メンバーが詰め寄ってくる俺達を見て慌てふためく。


「そうだな、フィラの防具を馬鹿にしてたことだし、折角だから防具一式もらっていくか」

「良いにゃわんね。私もフィラの装備を大きくしただけのやつだと少し不安だしにゃわん」

「えっ? ちょっ、それ本気で言ってる!?」


 俺達の容赦ない要求に、リリーが動揺を露にする。そんな彼女を励ますように、フィラがポンと肩に手を置いた。


「大丈夫ですよ、鎧がなくてもレオナさん達がいれば街まで安全に辿り着けますから」

「そういう問題じゃ……っていうか今脱がす必要なくない!? うわっ、無言で近づいてくるなぁーっ!」


 約束を反故にして逃げられては困るので、俺達はリリーや気絶している男からも容赦なく鎧をひん剥き、下着姿にした。この追い剥ぎ行為、定番になってきたな。


 こうして俺達と半裸の【白亜の洗礼】は、それぞれ対照的な表情を浮かべて森を抜けたのであった。

 装備も整ってきて大規模な戦闘も行えるようになってきたし、そろそろもっと難易度の高いクエストも受けられそうだな。




仮登録ギルド財産

・?ゴールド

・肥大槌ソイルハンマー×1

・回転鋸ライトニングソー×1

・伸縮糸槍アサルトブリッジ×1

・眼前暗殺剣アサシンズハート(修理中)×1

・糸槌サドゥンプレス×1

・跳躍槍エアスラッシャー(毒針換装)×1

・布の服×1

・触手装甲×1

・蜘蛛天脚×1

・戦士の鎧×1


・影蝙蝠の死骸×1

・残忍蜂の死骸×6

・磁力猿の死骸×13

・荒くれ冒険者の抜け殻×6

・【白亜の洗礼】の抜け殻×4

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