第32話 原点回帰の割に人多いですね
テンペベロを撃退して以来【夜明けの剣】の名は街に少し広まり、こっそり品物を買いに来る隠れファンが増えた。
まだ大手を振るって【夜明けの剣】を応援してくれる人は少ないが、レオナの実演販売のお陰もあって滑り出しは順調だ。
そして今日。俺達は久しぶりに単純なクエストを受け、ダンジョンまでやって来ていた。
「久し振りにクエスト受けたのは良いにゃわんけど、今日は何も売らなくて良いにゃわん?」
「あぁ、日中に買いに来てくれるお客様は少ないからな。今日はこの前助けた荒くれ冒険者に販売を任せてきたんだよ」
「完全に下僕になってるにゃわん」
苦戦していたメタルハーピーを代わりに倒してやった荒くれ冒険者達は、俺の頼みを素直に聞いてくれた。
それどころか会った途端に捧げ物とか言って皆新しい鎧を脱いで俺にくれたので、あいつら何だかんだいい奴なのかもしれない。……ただの変態か。
「それに何より、武器を売ろうにも素材が足りなくなってんだよ。我ながら、よくここまでマグネットモンキーの素材とアームドリザードマンの素材だけでやりくり出来たと思うわ」
「あー。そういえば素材の調達とか最近全く出来てませんでしたね」
【鍛冶嵐】に対抗するには、引き続きお客様を増やして【鍛冶嵐】と信用度で張り合うしかない。そしてそのためには、武器を作るだけじゃなくて良い素材を仕入れることも重要なのだ。
フィラは納得したように頷き、そのすぐ後に俺をジト目で見た。
「そこまではまぁ分かるんですが、結局後ろにいる人達は誰なんです?」
「誰って、お客様に決まってるだろ」
やはりどうしても納得出来ないとばかりに尋ねられたのは、俺達のあとをついてくる冒険者集団だ。
「レオナの実演販売は凄く良い案だったけど、武器を売る時は流石にお客様を斬りつけるわけにもいかないしな。素材集めと並行して、こうして「ワクワクドキドキ武器見学ツアー」を開いたわけだ」
「ネーミングセンス絶望的っすね」
「これは俺達が商品を使ってクエストを攻略するところを、お客様がひたすら見るっていう体験型ツアーになっている」
「ワクワク要素皆無じゃないですか。攻撃に巻き込まれるかもっていうドキドキはやたらありそうですが……」
何が不満なのか、メイとフィラが俺の企画に対してめっちゃ厳しい。良いじゃん体験ツアー……。
「むー……。最近ライアさん武器作ってばっかりでしたから、ダンジョンでは久し振りに優しくしてもらえるかと思ったのに……」
「さっきから何を怒ってるんだ? あ、あれだぞ。ちゃんと「このツアーで負傷したり命を失っても我々は責任を負いません」って誓約書にはサインしてもらったぞ?」
「それはそれで用意周到過ぎて怖いにゃわん」
とうとうレオナにまで突っ込まれた。まぁともかく、俺らは【鍛冶嵐】との本格的な市場シェア争奪戦に備えて下作りをしに来たというわけである。
これも【夜明けの剣】の知名度が少しだけ上がって、ここで売られる武器を見たいという人が増えたから出来ることだ。
そうしてツアーの趣旨を皆に説明していた俺は、ちょうど遠くに魔物の群れがいるのを見つけた。
「あの影、多分目当ての魔物だな。フィラ、あいつは出会ってからなるべく速く倒すことが肝心なんだ。先陣を切るのは任せて良いか?」
「ラ、ライアさんが私を頼ってくれた……!? はいっ、もちろんです! 死ぬ気で頑張ります!」
俺がフィラに頼むと、さっきまで少し不機嫌そうだった彼女はいきなり満面の笑顔を見せた。
ちょっと気持ちの変化についていけないのだが、いつの間にか狂戦士モードに入ったのかな?
「では――えいっ!」
「ちょっ、いつも以上に速くないか!?」
本当に狂戦士モードだったのか、彼女はエアスラッシャーで過去最高の速さを叩きだし、一番前にいた相手を突き刺した。
しかしエアスラッシャーで体ごと移動するのはほぼ彼女の専売特許なので、偉い彼女はお客様への武器PRを意識し、腰に携帯していたライトニングソーを抜き放つ。
蛇さんが可哀想……とか言っていた少女の姿は既になく、彼女はベテラン剣士にも劣らぬライトニングソー捌きを見せた。
「あれっ! こいつらすばしっこい……です!」
だが辺りが暗いこともあり、なかなか相手の体を捉えられないようだ。
フィラが少し苦戦していると、魔物達が唐突に彼女に引っ付いた。
「ひうっ!? 何ですかこのヌメッとした奴は!」
先に前へ行きすぎた彼女から、軽い悲鳴が届いてくる。
このダンジョンにそうそう危険はないはずだが、彼女を追いかけていた俺は少し慌てながら彼女を松明で照らした。
「ふえっ? うわぁぁぁっ、何なんですかこいつらぁぁぁぁっ!」
光を照らして見えたのは、緑色の蛙にたかられまくったフィラの姿だった。彼女は元よりタコの触手に絡まれている状態だったので、なんか無性にエロい。
何ですかそいつと聞かれたので、取り敢えず俺はその魔物の説明をしてやった。
「こいつはエアフロッグ。体中についてる空気の球から空気を発射して、色々な方向に跳んで逃げるんだよ。普通はすぐ逃げるんだけど、フィラの触手装甲が棲み家に丁度良いと思ったのかもな」
「別に説明求めてませんからっ! 早く助けて下さいよぉぉぉ!」
エアフロッグは無害な魔物なのだがいつも以上のヌメヌメ感が嫌らしく、フィラが涙目で訴えてくる。端から見ると気持ち良さそうな表情をしているのたが……13歳の少女としてはそれを認めたくないのだろう。
俺は彼女に近寄って、フィラの体の上でゲコゲコ言ってる一匹ずつ殺していった。俺のせいだけど、この娘いつもエキスまみれだな。
「うひょおおあおっ! まさかこんなサービスショットまで見れるとは、流石ワクワクドキドキ武器体験ツアーだぜ!」
「あの蛙、フィラちゃんの胸を覆う触手に潜り込んでるぞ! もう少し……もう少し頑張って鎧をずらすんだ!」
「あの蛙の素材で作った武器、絶対買います! というか今あの触手装甲を買えるなら、借金でも何でもします!」
【夜明けの剣】は、ギルド自体ではなく女の子達へのファンも多い。お客様方は、武器体験とか関係なしに大盛り上がりだった。
お客様とはいえもう少し自重してほしくはあるが……。
「ほい、肌に引っ付いてたのは全部取れたぞ。」
「ううう……ありがとうございますぅ……」
蛙を剥がす都合で俺に色々と触られてしまったフィラは全然怒らなかったが、恥ずかしそうに頬を染めていた。いつも色々ごめんな……。
「くっ、なんというおいしいシチュエーション! 拙者もカエルに襲われてライア殿に触られたかったっす……!」
「ここ最近で一番真面目そうな顔やめろにゃわん」
レオナとメイも疲れの窺える事を言ってるし、今回はこいつらの素材から武器を作ってさっさとツアーのメインに移ろう。
エアフロッグの体から生えている球の中から大きなものをもぎ取り、自分の背中の後ろに幾つもつける。エアフロッグの球は色々と用途が多いが、一番簡単なのは移動の補助として使うことだ。
「そんで、足も作り変えよう」
俺は自分の靴の裏にエアフロッグの肉をくっつけ、滑りやすくする。そして脚装備の脛部分にそれぞれ刃をくっつけた。両脚を揃えると、二つの刃が合わさって三日月状になる形だ。
「これで、エアフロッグの球を作動させると――」
俺は背中から出た空気に背を押されて、つるーっとダンジョンを滑って行った。運悪く俺に目をつけられた魔物が、脚の刃に斬られて死に絶える。
「はい、この通り。初級ダンジョンなら、移動するだけで相手が死にます」
「買います」
「何にゃわんあのアホ装備……」
レオナの突っこみも虚しく、アホ装備二大巨頭である回転鋸と機動式斬月はバカ売れした。面白いしお手軽だからね。俺も好き。
帰宅時。買った武器を試しているお客様と一緒にすいーっと移動しながら魔物を殺戮していると、ゴロツキっぽい見た目の人が道を塞いできた。
「おいゴラ! ここは我々【鍛冶嵐】の縄張りだ。勝手に魔物を取ってんじゃねぇ!」
「魔物狩猟権を独占するのは冒険者ギルドの規約違反ですよ」
「あぁん!? んなこと知るかよボケがーーー」
俺が丁寧に教えてやると、【鍛冶嵐】のゴロツキはチープな怒り方をした。黒服見習いかな?
「そうですか。ではこっちも証拠を残さず押し通ります」
言って、俺らはただただすいーっと前に移動した。直撃はさせないものの、お客様の数だけ相手の脚に攻撃が刻まれる。
突然のこと過ぎて相手は何が起こったのかも分からぬまま、地面にうずくまった。
数の暴力、【鍛冶嵐】に勝利……!
利益
装食従僕アームドリンカー(8000ゴールド)×9=72000ゴールド
回転鋸ライトニングソー(1300ゴールド)×7=9100ゴールド
機動式斬月ダッシュカッター・蛙式風装エアパックセット(17000ゴールド)×8=136000ゴールド
有料ダンジョン入場費(6000ゴールド)×4=-24000ゴールド
生活費四人分(10000ゴールド)×5日=-50000ゴールド
総計 143100ゴールド
ギルド財産
・約50万ゴールド
・肥大槌ソイルハンマー×1
・回転鋸ライトニングソー×8
・伸縮糸槍アサルトブリッジ×1
・眼前暗殺剣アサシンズハート(修理中)×1
・糸槌サドゥンプレス×1
・跳躍槍エアスラッシャー(毒針換装)×1
・歪鋼メタルスネーク×1
・歪鋼メタルスネーク改×3
・追苦エイミングトライデント×1
・業炎シャープフレイム×1
・歪剣ブレイドスネーク×0
・刀球デッドボール×1
・触手装甲×1
・蜘蛛天脚×1
・戦士の上質鎧×1
・隋盾腕シールドアーム×20
・装食従僕アームドリンカー×34
・潜影鎧ハイドナイト×1
・多腕装甲デストロイア(人間サイズ)(オプション:蛙式風装)×1
・蛙式風装エアパック×7
・機動式斬月ダッシュカッター×7
・残忍蜂の死骸×3
・磁力猿の死骸×7
・武装龍の死骸×1
・武装蜥蜴の焼死体×212
・浮遊蛙の死骸×65
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