役に立たないからと追放された武器職人、魔物の素材から武器を作りまくって無双する！

第42話 冒険者のやり方で

　ようやく倒す目処が経ったと思った途端、エレメントドラゴンは火を纏って鎧すら溶かしそうな熱を帯びた。

　暗くなりかけていた空は一瞬で不穏な赤に染まり、竜の威圧感も一気に増す。

「メイ、一旦退くんだっ！」

「わ、分かったっす！」

　本格的な炎を使い始めたエレメントドラゴンは、すぐに倒せるような相手じゃない。

　最も竜の近くにいるメイを慌ててアームドデストロイアの腕に収納し、中に入れていた金属で覆いながら退避させた。

「グルォォォオオオオオオオ！」

　だがエレメントドラゴンがそれをみすみす逃す筈もなく、上から二番目の膜が連なったような翼で暴風を生み出す。

　その風は自然には有り得ない動きを見せながら、体の炎を俺達の方へと吹き飛ばした。

「ぐぅ……っ！　ジャイアントアームドリンカー！」

　俺はメイが中に入った腕を必死に隠しながら、風で飛んできた火の玉を巨大な盾で防いだ。

　しかし竜の発する炎は想像以上の高熱を発しており、磁力で呼びつけた盾も一瞬で炎に呑まれてしまった。

　メイを鎧の中に入れていなければ彼女までこの炎に焼かれていたかと思うと、俺の首筋を嫌な汗が伝う。

「ミズヨ、ヤイバヲナシテミチヲキリヒラケ」

「がほっ……！」

　盾を燃やしただけでは満足せず、エレメントドラゴンは追撃の手を緩めない。

　奴は管状の翼をこちらに向けると、呪文詠唱も乗っけて水の刃を生み出した。

　メイの入っていない鎧腕で防ぐも、また十本以上の腕が千切られてしまう。〈成型手〉で最低限必要な腕は繋ぎなおしたが、そこで俺は口から血を吐いた。

「ライア殿っ！」

「ライアさん！？」

　〈成型手〉でずっと鎧を動かし続けていた俺は、既に体力の限界が来ていたのだ。多重武器庫はまだ健在だが、それを動かす俺が限界ならもう動かせない。

　エレメントドラゴンは地面から土の壁をいくつも作り出し、俺を鎧ごと挟み込む。

　……こちらが用意していた対抗手段の殆どを使っても、倒しきることが出来なかった。

　やはり俺達は、今までレオナに頼りすぎていたのだ。レオナが戦えなくなっただけで、ここまでピンチに対応できなくなるものなのかっ！

　俺が失意の念に襲われていると、地上から張り裂けるような叫び声が聞こえてくる。

「やめるにゃわん……！　ライアを……離すにゃわんっ！」

　眼下を見遣ると、さっきまで動けなかったレオナがレンジコンクエスタを持ちながら竜に近付いていた。

　毒針砲を扱う手際も相変わらず才気に溢れていたが、彼女の震える足が本調子じゃないことを示している。

　あれでは、レオナと言えども竜と戦うのは無茶だ。今の彼女では、エレメントドラゴンに勝てないっ！

「レオナッ、駄目だ！　それ以上行くのは危ない！」

　叫んでも、彼女は止まらなかった。戦うのが怖いと言っていたのに、俺達のために必死で前へと進む。新たな獲物の接近を見て、エレメントドラゴンの目が細められたように感じた。

　もし叶うなら……彼女は冒険者になどならず、戦う事すらなく人生を謳歌したかったのだろう。思えばこれまで、彼女が自分の剣技を誇ったことなど全然なかった。

　でも魔物の蔓延る世の中では、冒険者としてしか生きていけない人がどうしても存在してしまう。命を懸け、まるで人類の捨て駒であるかのように魔物と戦う下賤の狩人。誰でも金を稼げるが、誰にも平穏は訪れない職。

　本調子でないレオナが竜に突っ込む絶望的な光景を眺めながら、俺は呆然と呟く。

「冒険者になった時点で、俺達は失う事しか出来ないってのかよ……」

　何かを失う事に慣れすぎた俺達冒険者は、平穏に浸る術なんてもともと持ち合わせていないのだ。

　レオナが学院から竜を見て取り乱したのも、それが分かっていたからだろう。レオナも俺も、たとえ竜が現れなくても平穏な日々はすぐに失われてしまうのだと漠然と感じていた。

　そして今、レイナが死んだ日のように、俺は彼女の背中を見つめる事しか出来ずにいる。

「また俺は……大切な人を、失うのか……？」

「諦めてんじゃないわよっ、ライア！」

　だが。レオナが水の刃にさらされる直前、叫び声と同時に雷が走った。

　空からではなく、地上から走る雷。それはレオナを狙っていた翼の管を、見事に斬り刻んだ。

「なっ……！？」

　いきなり飛んできた攻撃に目を剥き、俺が攻撃の出所に目をやる。

　そこには俺の渡した凝縮杖を持つアネータだけでなく……他の人も大勢立っていた。

「ライア様！　我々だけで店を警備するのは無理がありすぎたので、助っ人を呼んできましたよ！」

「フィラ……。あんたとうとう、空飛んじゃったのね……」

「おまっ、たった数人で竜に立ち向かうとか武器に自信持ちすぎだろエセ師匠！」

　アネータの後ろに続くのは魔術学院の生徒が数人と、荒くれ冒険者と【白亜の洗礼】の面々。……そしてハルクを筆頭とした、【鍛冶嵐】のメンバーまで見えた。

「どうして……」

「どうしてじゃねぇ！　【夜明けの剣】本店が潰れたら、俺達【鍛冶嵐】まで潰れるじゃねぇか。こんな危ないとこに飛び出してきてんじゃねぇぞ全く！」

　俺が呆然と呟くと、ハルクが吐き捨てるように言った。

　しかし自分のギルドの事しか考えていないという割にはレオナへと近づき、彼女への攻撃を〈遠隔成型手〉で防ごうとしている。他の皆も各々竜に攻撃を加え、【夜明けの剣】のメンバーを助けてくれていた。

　目の前の光景が信じられずにいると、アネータが鎧ごと倒れている俺に近づいてくる。

「ライア、魔術師用の新しい武器が出来ているんでしょう？　この街のために戦いたいって生徒も数人連れてこれたわ」

「こらアネータ！　あんな物騒なものと戦うなど、私は許しとらんぞ！」

　ずっとアネータを追ってきたのか、娘を案ずるミーガンが息を切らせながら叫ぶ。

　だがさっきまで逡巡していたアネータはしっかりと俺だけを見据え、言った。

「私はレイナさんに助けられたから、今があるの。だから私も、誰かを守るために戦いたい」

　――それが、彼女の決断なのだ。ミーガンは尚も喚いていたが、アネータは聞く耳を持たなかった。

　俺は自分から冒険者になりたいという少女の気迫に圧され、自分でも意識しないままに頷く。

「ああ、店の中にパーツをたくさん用意してある。今すぐ組み立てるからちょっと待っててくれ！」

「分かったわ！」

「私は分かっとらんぞ！」

　俺は頭痛を堪えながらアームドデストロイアの腕を店の中へと突っ込み、新たな武器のパーツを店の外に出す。そのまま〈成型手〉を使い、同じ武器を七つ作り出した。

　だが完成品を見た魔術学院の生徒七人は、使い方が分からないとでも言うように困惑を見せる。

「こ、これは……？」

「大杖アポカリプス……大きい杖だ！」

「そのまま過ぎるっ！！！」

　俺が作ったのは、なんとか魔術の効率を高めようと苦心して作った大きな杖であった。

　簡単に言えば、大砲の杖バージョン。台座は一応動くようになっているが、基本的には固定砲台のように使うしかないだろう。外見の簡易さに反して、そこには高度な製造技術と魔術勉強の成果が詰め込まれている。

　機動力もなく発動に時間もかかるため、今回のように図体の大きな相手にしか使えない。だがその代わり、大砲とは比べ物にならないほど絶大な威力を誇る。

　魔術師の冒険者としての強みを活かすのであれば、やはり時間をかけてでも高威力を追求すべきだと考えたのである。

「確かに、これなら魔術の発動が遅くてもそれに見合うだけの威力が出せるわ……」

　アネータは俺の意図を理解してくれたようで、大杖を眺めるとゴクリと喉を鳴らした。それから連れてきた魔術師達をそれぞれの大杖に配備させ、魔法の起動準備をし始める。

　父の妨害を物ともせずに準備を終えると、彼女は他の魔術師にも叫んだ。

「魔術砲撃部隊、撃てぇ！」

　彼女の掛け声を合図に、七門の大杖がそれぞれ火や雷を吹いた。轟音と共に放たれたそれらの魔術は本来の射程を優に十倍は超え、エレメントドラゴンに直撃する。

　四つの属性を持つ竜は、逆に言えば弱点が多いということでもある。

　無慈悲に繰り返される爆撃は、時間をかけただけあって命中するたびに竜の体を壊していった。そのあまりの威力を見て、ミーガンは腰を抜かして尻もちをつく。

「ああ、そうか……」

　この状況でも冒険者になろうと決めたアネータの鋭い視線を見て、俺は最近抱いていた胸のざわつきの正体にようやく気が付いた。

　炎竜を倒せたレイナでさえ、武装龍によって儚く散った。この世界はとても厳しくて、平穏な日常なんて簡単には手に入らない。たとえ竜が来なくても、俺達が手にした平穏は何者かに脅かされ続けるのだろう。

　でもレイナが昔助けた少女は、貴族にも関わらず冒険者を志している。

　レイナは確かに死んでしまったが、彼女の戦いは、決して無駄じゃなかったのだ。戦いのない魔術の世界にまで、影響を及ぼしていた。

「ああ、そうだよな。奪われてばかりじゃ、レオナの居場所を作る事なんて出来ない」

　胸のざわつきは、今のままでは俺達の得た平穏を守り切ることが出来ないと感じていたからだ。冒険者だった俺達に、そうでない人の真似事など不可能だと。平穏なんて、冒険者が得られるものではないと。

　だが……そもそも前提が間違っていた。俺達は人の真似なんてせず、冒険者流のやり方で平穏を守れば良かったんだ。

　店を諦めて逃げようなんて、確かにギルドのリーダーとして覚悟が足りなかった。ギルドの長になったからには、もう誰にも、何一つ奪わせるわけにはいけない。

　命も、店も……そして少女達の笑顔だって、守り切って見せる！

「だから【夜明けの剣】は、もう普通の生産ギルドじゃいけない。戦う生産ギルド……それが、俺の目指すギルドだっ！」

　こちらに向かってくるエレメントドラゴンを、多重武器庫の多腕で辛うじて押さえつける。

　そして最後の気力を振り絞り、俺は鎧の中から大量の武器を外に出した。

「大感謝セールだ！　今出てる武器は好きにとっていい、なんとしてもエレメントドラゴンを倒すぞ！」

「おおおおおおおおおっ！」

　駆けつけてくれた仲間達に俺が叫ぶと、彼らは威勢の良い声で応えた。攻撃がなかなか届かない相手にも、俺の武器を使ってめげずに攻撃を仕掛けてくれる。

　そしてエレメントドラゴンが前線の冒険者達を振り払おうとすると、遠くから七門の大杖から長威力の攻撃がバンバン飛んできてその攻撃は妨げられた。

「糸槍アサルトブリッジ、斉射！」

　俺は仲間達をサポートするために糸槍アサルトブリッジを腕から何本も発射し、エレメントドラゴンと地上を繋ぐ橋を作り出す。

　鎧腕を通して皆に蜘蛛天脚を渡していき、彼らの攻撃はより通りやすくなった。

　以前は敵同士だった冒険者達が団結し、一緒に戦ってくれる。その光景は、さっきまで抱いていた絶望を押し流して余りあるものだった。

「レオナ、見てるか？　俺達の繋いだ輪は、ここまで広がっていたんだ！」

「にゃわん……！」

　思わず泣きそうになりながら、俺はレオナに叫ぶ。

　するとレオナも俺と同じ感動を抱いていたのか、先程とは違う震えを見せながら叫んだ。

「そうにゃわん……。ごめんライア、私、いつの間にか忘れちゃってたのにゃわん！　冒険者だって失ってばかりじゃない。こんなに、こんなにたくさん、得られるものがあるにゃわん……！」

　失う恐怖ばかりが先行していたレオナだが、俺達が戦いで成してきた成果を見て笑顔を取り戻してくれた。先程まで遠くを見つめていた眼は、目の前の仲間達に向けられている。

　俺は安心して、視線を少し下げる。

　レオナの足の震えは……止まっていた。

「その意気だ。レオナ、これをっ――！」

　俺は前線の冒険者達によって切り落とされたエレメントドラゴンの腕翼から、急いで新たな武器を作り出す。これが今回の戦いで、調合師として一番の大仕事だ。

　アームドデストロイアの中にある金属から硬度に優れたものを選りすぐり、それを精密に一本の棒に作り替える。それから先ほどの腕翼を、効果が最大限発揮されるように広めに合成した。

　レオナのために最初に作った武器……肥大槌ソイルハンマーのリメイクバージョン。彼女はその外見を見ただけで、説明も受けずに武器を受け取ってくれた。

「任せるにゃわんっ！　私達が一緒なら、どんな相手も倒せるにゃわんからね！」

　彼女は涙を拭ってから、自分の身長より遥かに長い棒を天へと掲げた。

　肥大巨星ソイルインパクト。その棒はエレメントドラゴンが生み出した無数の土壁から土を浮かし、どんどん纏い始める。

　それはほぼ一瞬で土の壁を吸い上げ、いつの間にやら一軒家十個分くらいの大きさを誇るハンマーが出来上がった。下から見ると、まるで空を埋め尽くしてしまったみたいだ。

　なにあれヤバい。〈覚醒手〉使ったとはいえ、ちょっと想像より大きすぎるんだけど！？

　我ながら頭が湧いた武器を作ったもんだと思ったが、レオナはいつも、俺の想定を超えて使いこなしてくれる。

「今にゃわん！」

　レオナは棒を支えきれなくなる寸前、絶妙なタイミングで、正確な方向に力を加えていた。

　至る所に攻撃を受けていたエレメントドラゴンは、重力に従って落ちてくる大質量の土塊を避ける余力がない。

　エレメントドラゴンは土操作の能力で必死にハンマーを崩そうとしたが、レオナの覚醒技は本家のドラゴンさんよりも強力だったようだ。ハンマーは一欠片も土を零すことなく、綺麗な形を保ったままエレメントドラゴンの頭に直撃した。

　ドガアアアアアアアアアアアアアン！　と耳が潰れそうなほどの轟音がして、街全体が大きく震える。その衝撃はエレメントドラゴンが発した風より多くの家を吹き飛ばし、地面にエレメントドラゴンが開けたものより大きな穴を開けた。もちろん、竜の頭はぺちゃんこである。

　――――レオナさん、完全復活です。

「……心配、かけたにゃわんね」

「ブッ、……ブッヒャッヒャッヒャ！　本当だよまったく……。竜倒しちゃうくらい元気になったなら、もう心配してやらないけどな！」

　しょんぼりと犬耳を垂らす少女の規格外さにまたも笑わせられながら、俺は彼女の復活を祝福した。

　衛兵が来る前に本物の竜を倒しちゃったし、店どころか街まで救っちゃったけど。でもそんな事、今はどうでもよかった。

「おかえりなさい、レオナ」

「……っ！　ただいまにゃわんっ、ライア！」

　だってこの言葉を言い合えることが、俺達にとっては一番大切な事なのだから。

ギルド財産

・？ゴールド

・肥大槌ソイルハンマー×０

・肥大巨星ソイルインパクト×１

・回転鋸ライトニングソー×０

・伸縮糸槍アサルトブリッジ×１７

・眼前暗殺剣アサシンズハート×０

・永続暗殺剣アサシンズライフ×１

・糸槌サドゥンプレス×０

・豪翼サドゥンメテオ×１

・跳躍槍エアスラッシャー（毒針換装）×１０

・歪鋼メタルスネーク×１

・歪鋼メタルスネーク改×３

・追苦エイミングトライデント×１

・業炎シャープフレイム（半壊）×１

・歪剣ブレイドスネーク×０

・刀球デッドボール×１

・裏砲剣レンジコンクエスタ×３２

・投陣デスボード×５０

・凝縮杖ブレイジングマジック×１０

・大杖アポカリプス×７

・触手装甲×１

・触手服×４

・蜘蛛天脚×１７

・戦士の上質鎧×１

・隋盾腕シールドアーム×４

・装食従僕アームドリンカー×２２

・装食副口ジャイアントアームドドリンカー×２

・潜影鎧ハイドナイト（四人乗り）×１

・侵影鎧シャドウナイト×１

・多腕装甲デストロイア×０

・多重武器庫アームドデストロイア×１

・蛙式風装エアパック×７

・機動式斬月ダッシュカッター×７

・空装エアバランサー×１

・武装蜥蜴の焼死体×93

・元素竜の死骸×１