双ツ目〜鳳との邂逅•罠編〜

慶永六年十二月〈山郷決戦〉終了後~慶永七年三月〈丸奈奪還作戦(第二次東部戦線)〉開始時まで。

その二ヶ月の間、鴒黎れいりは花守の活動を行いつつ、秘かに〈依花よるか天皇暗殺未遂事件(虎ノ門事件)〉の犯人の調査と刀霊・生駒の行方を追っていた。

刀霊・生駒については所在が判明。依花天皇陛下並びに現囲家当主・かこい 麗華れいか、参謀長官である羽瀬はぜ 斎宮いつきへ報告、〈丸奈奪還作戦〉へと移行する事となった。


暗殺未遂については調査を続行。よろず屋として依頼を聞きつつ、客である議員達や官僚などから噂話などを集めて調査を行う。また、誰ソ彼喫茶の従業員達にも噂話を収集してもらい、霊魔の情報と併せて調査を行っている。

その最中さなか。鴒黎は花守公務中に、刀霊であるあげはと出会った......




–***🦋***–




どうにか逃がせた。あとは.........




ある日。よろず屋の仕事を終え、諜報活動を行っていた時の事。少年が霊魔に襲われている、と連絡を受けて近くにいた鴒黎れいりは、諜報活動を一時中断。助けへと入る事になった。


到着したのはとある雑木林。

そこには三体の霊魔に囲まれた少年が一人。目撃者は通報の為に逃げたのか、見える範囲には少年以外に人が居ない。


瞬時に霊魔へ斬り込む。まず一体。

次いで右へ薙ぎ払い、二体目。

三体目は慌てて逃げ出そうと背を向けた。そこへ袈裟斬り。これで全部。


「...あ、ありがとう。花守さん」

「どういたしまして。怪我はないかな?」

「う、うん。大丈夫...あの...」

「ん?どうした?」

「えっと...あの...」


少年はもごもごと何か言いたそうにしている。

なんだろうと待っていると、周囲がざわついた。


「あ、あのね...ぼく、」

「しっ!...囲まれた?」


少年の言葉を制し、周りを警戒。


「...ほむら。分かるか?」

『霊魔が数体。雑木林の入口を塞いでますね』

「そうか...仕方ない。一度奥へ行こう」


少年を促し一度納刀すると、雑木林の奥へと進む。

入口にいた霊魔達は動こうとしない...


「何が目的なんだ...?」


相手の目的、意図が分からない。そもそも、霊魔が何者かの言う事を聞いて動いている感じがする。

先ずは指揮しているであろう者を探すしかない、か...


雑木林の中程まで来ると、広場のような開けた場所へ出た。


「一度ここで休憩しよう。疲れてない?」

「大丈夫...」


少年の顔色が悪い。恐怖からだろうか?


「さっき何か言おうとしてたけど...」

「うん。ぼくね、花守さんに謝らないといけないの...」

「俺に?なんで?」

「実はね、ぼく...」


少年の言葉はまたしても遮られた。

現れた霊魔によって。


(気配がしなかった...?いや、入口の方に気を取られたからか...?)


少年を庇うようにして立ち塞がり、抜刀。

周りを囲むように霊魔の気配が複数。


主人あるじ。何か変ですね...』

「ああ。色々調べたいが...先ずは片付ける!」


目の前へ飛び出て来た霊魔へ斬りかかる。

避けもせず、攻撃もしないでそいつは斬られて消えた。

その隣。そちらも同じように無抵抗、ただ立っているだけで斬られて消えた。


(何かおかしい...)


次を斬る為に振り返ろうとした、その時。


「ごめんなさいっ!!」

「...っ!?」


背後にいた少年が大声で謝り、脇腹には何かが刺さる感覚...


「!?」

「...こう、しないと...ぼくの、ぼくのお母さんとお父さんが死んじゃうの!!でも、ぼく、ぼく...」


少年は震えながら、自分が何をしたのか理解した上で訴える。

霊魔は未だ動かない...


脇腹に刺さった小刀を抜き、投げ捨てた。

少年が迷ったおかげか、傷は深くはない。


少年に向き直る。

少年はかなり迷ったようだが、霊魔が出てきたことにより焦ったのだろう。

悩んだ挙句、決行した。やってはいけない事だと分かっていても、どうしようもなかった...

震えながら泣き出した少年になるべく優しく声をかけ、目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

周りの霊魔は、やはり動かない。まるで、監視しているかのように...


「...誰が、そんな事を?」

「わ、かんないっ...こ、この先の、屋敷に、居るって、言ってた...」


少年は泣きながらも答えてくれた。

やはり何か狙いがあったようだが、俺が狙い?だとしたら誰...いや、何者が?

...考えるのは後だ。動かないとはいえ、霊魔が数体居る。

傷の具合を確認するとすでに血は止まり、表面は塞がり始めている。

...これならまだ、戦える。


少年によく話してくれたと微笑して霊魔を祓うべく立ち上がると、少年が外套インバネスコートの端を掴んだ。


「まって...動かない、でほしい、の...」

「大丈夫だよ。このくらいの傷、どうってことないから」

「そうじゃ、なくて!そのこがた...「危ない!!」


霊魔が少年を掴もうと動いたので、慌てて抱きかかえて避けた。

少年の言いたい事はまたしても霊魔によって遮られ、鴒黎に伝わることはなかった。


「ごめん、先に祓わないと危険だ。ここでじっとしてて」

「あ、でも...」


少年はその背へ手を伸ばすが、届かなかった...


少年から離れると、襲い来る霊魔を袈裟切りに。隣の首を刎ね、背後に回った霊魔を振り返りざまに横薙ぎに。

更なる気配にそちらを向こうと身体を動かした瞬間。


「な、んだ...?これ...」


視界が揺れる。


「...ごめんなさい!ごめんなさいっ!それには毒が塗ってあるの...」


少年が何度も謝る。「気にしなくていい。悪いのは君じゃないから」と言おうとしたが力が入らぬまま、膝をつく。


「っぁ...」


太刀を地面に刺し、支えにする。

急激な眩暈に吐き気。それに加えて身体の感覚が薄れ、意識も遠のき始めた。


『主人!!』


焔の声がしたが、遠い...

視界の揺れが激しくなり、感覚が消えてゆく...意識を保とうと思い切り手に力を入れて太刀を握りしめるが、背後から頭を殴られた。


「...っ!?」

《おや、この毒でここまで耐えますか...いやはや面白い。実に面白い》

「花守さん!?いや、離してっ!」


地面に倒れ、叫ぶ少年の声と先程感じた気配の、何者かの声を聞いた。

殴られたことで意識は完全に遠のき始め、最後に見たのは少年の泣き顔と、嗤った何者かの顔だった...



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