Lastchapter ~黒い幻~
夕京での戦いが終わったその後。
初めの一ヶ月程は眠ったままで。
目覚めてからは適度に身体が鈍らぬよう、室内でできる程度の運動のみをして治療に専念した。
回復後は
「お帰りなさいませ、店長」
「お帰りなさいませ!」
「...ただいま」
従業員達の挨拶に軽く返答し、部屋へと入る。
そのまま自室で必要な物と不用品を整理し、書類等仕事も全て片付けた。
「帰って早々に...急がなくても良いのでは?」
「どうしても、やっておきたかったから」
「やはり、考えは変わりませんか?」
「もう陛下には伝えた。諜報部員達は皆
「そうですか...刀霊様方は?」
「
「...分かりました。では、皆にはそのように伝えておきましょう」
「今まで通り、花守希望者は
「了解しました」
副店長兼先代の右腕だった部下と話をすると、全ての荷造りを終えて
会いに行ける花守には直接話しておこうと思ってはいたが、中には各地を転々としている者も居るようだ...
書き終われば文を式神として、霊力を辿るように指示を出して飛ばす。
これで一応準備は整った。あとは次の日に挨拶をして周ることにして、その日は眠りについた。
翌日。朝から
考えを変えてくれた者、支えてくれた者。自身の秘密を、少しだが打ち明けた者。友と言ってくれた者...直接、告げた。皆一様に驚いたが、それでも変わらず接してくれた。
その優しさに再び考えが揺らぐが、ぐっと堪える......
その足で、今度は墓地へと向かった。
「......全て、全て。終わったよ。父さん、母さん」
墓に手を合わせ、色々と報告をする。
ここに眠るのは〈霊境崩壊〉時に犠牲になった義両親やかつての仲間達。
綺麗に掃除をして、線香や花を手向けて
「...ありがとうございました」
深く一礼すると、今度こそ踵を返して帰路に着く。
自分の今後については、花守達には一切話さぬままで......
慶永八年五月中旬の早朝。
黒衣を着て帯刀した者が、そっと夕京から姿を消した......
{良いのか?童との契約である〝願い〟を叶えてしまっても...}
「構わない。お前に任せるよ、鳳」
『結局、このままなんですね...』
[これが、きっと一番良いと思う]
〔にゃあはずっと一緒にいるって決めたのにゃ!!〕
それぞれの言葉を聞いて頷く赤黒い
「さいですか...それじゃ、どこにいるかもわからねぇけど、探してみますか...!」
見つからなければそれはそれでも良い。
見つかったなら、文句の一つでも言ってやろうと思っていた。
死んでいるなら、それでも仕方ないと思った。
「“人として生きてゆく”にはまだ少しかかりそうだ...」
ぽつりと呟き、黒い紐に通した黒針水晶の飾りにそっと触れる。以前加工した物の残りで作った物なので、少し小さいが。
{この先に人気の無い小屋があったぞ}
「そうか。それじゃ、今日はそこを使わせてもらおうか...」
黒蝶の言葉に頷いて手を離すと、再び歩き出す......
慶永八年五月末
夕京内でよろず屋を営んでいた花守を見る事はなくなった。それを気にかける者はきっと誰も居ないだろう...
万が一、居たとすればそれは〝願い〟が使われる事が無かった証。
鴒黎が鳳に託した〝願い〟
それは自身が関わった花守達の記憶から自らの記憶を消し去る事。
発動は鳳に委ねられた。
そして関わった花守達に話した“秘密”
それは自身が半妖であり、不死では無いが人よりも長く生きてしまう事。
また、この姿から老いることが一切無い事。
その二つだった。
だからこそ夕京を出て各地で陛下の命を実行しつつ、転々とする事を決めた。
生きているのかも、所在すらも分からぬ本当の父親である
この後、花守達の記憶からは黒衣の花守が消えたのか。
妖は見つかったのか、死んでいたのか?
今はどこで何をしているのか...
全ての真相—それは、誰にも分からない..........
『禱れや謡え花守よ•異聞』---万屋奇譚
これにて終幕。
『禱れや謡え花守よ•異聞』---万屋奇譚 夜季星 鬽影 @Micage
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