Lastchapter ~黒い幻~

夕京での戦いが終わったその後。

鴒黎れいりは魂に深い傷を負って瘴気を体内に溜め込み過ぎた事により、半年の療養を余儀なくされた。


初めの一ヶ月程は眠ったままで。

目覚めてからは適度に身体が鈍らぬよう、室内でできる程度の運動のみをして治療に専念した。

回復後は依花よるか陛下と花守を束ねるかこい 麗華れいかと話をし、今後の事を告げるとよろず屋へと戻る。


「お帰りなさいませ、店長」

「お帰りなさいませ!」

「...ただいま」


従業員達の挨拶に軽く返答し、部屋へと入る。

そのまま自室で必要な物と不用品を整理し、書類等仕事も全て片付けた。


「帰って早々に...急がなくても良いのでは?」

「どうしても、やっておきたかったから」

「やはり、考えは変わりませんか?」

「もう陛下には伝えた。諜報部員達は皆羽瀬はせ参謀の元へ行くことになったし、ここは普通の生活雑貨屋にでもしてくれ。誰ソ彼喫茶たそがれきっさは任せるよ」

「そうですか...刀霊様方は?」

あげはほむらは〝契約〟があるから持って行くし、せきも元々俺に託されたものだからな...そうりょくも海外に行かないなら持っていても良いと許しを得た。花守は続けるつもりだと伝えたら、驚かれたよ」

「...分かりました。では、皆にはそのように伝えておきましょう」

「今まで通り、花守希望者は花霞邸かすみていに案内してやってくれ」

「了解しました」


副店長兼先代の右腕だった部下と話をすると、全ての荷造りを終えてふみを書く。

会いに行ける花守には直接話しておこうと思ってはいたが、中には各地を転々としている者も居るようだ...


書き終われば文を式神として、霊力を辿るように指示を出して飛ばす。

これで一応準備は整った。あとは次の日に挨拶をして周ることにして、その日は眠りについた。



翌日。朝から夕京ゆうきょう内を歩き回った。既に秘密を打ち明ける相手は決めてあったので、それ以外の花守には世話になった礼をして周った。

考えを変えてくれた者、支えてくれた者。自身の秘密を、少しだが打ち明けた者。友と言ってくれた者...直接、告げた。皆一様に驚いたが、それでも変わらず接してくれた。

その優しさに再び考えが揺らぐが、ぐっと堪える......


その足で、今度は墓地へと向かった。


「......全て、全て。終わったよ。父さん、母さん」


墓に手を合わせ、色々と報告をする。

ここに眠るのは〈霊境崩壊〉時に犠牲になった義両親やかつての仲間達。

綺麗に掃除をして、線香や花を手向けてきびすを返すと、一度振り返って


「...ありがとうございました」


深く一礼すると、今度こそ踵を返して帰路に着く。




自分の今後については、花守達には一切話さぬままで......





慶永八年五月中旬の早朝。

黒衣を着て帯刀した者が、そっと夕京から姿を消した......





























{良いのか?童との契約である〝願い〟を叶えてしまっても...}

「構わない。お前に任せるよ、鳳」

『結局、このままなんですね...』

[これが、きっと一番良いと思う]

〔にゃあはずっと一緒にいるって決めたのにゃ!!〕


それぞれの言葉を聞いて頷く赤黒い蜥蜴とかげ


「さいですか...それじゃ、どこにいるかもわからねぇけど、探してみますか...!」


見つからなければそれはそれでも良い。

見つかったなら、文句の一つでも言ってやろうと思っていた。

死んでいるなら、それでも仕方ないと思った。


「“人として生きてゆく”にはまだ少しかかりそうだ...」


ぽつりと呟き、黒い紐に通した黒針水晶の飾りにそっと触れる。以前加工した物の残りで作った物なので、少し小さいが。


{この先に人気の無い小屋があったぞ}

「そうか。それじゃ、今日はそこを使わせてもらおうか...」


黒蝶の言葉に頷いて手を離すと、再び歩き出す......







慶永八年五月末

夕京内でよろず屋を営んでいた花守を見る事はなくなった。それを気にかける者はきっと誰も居ないだろう...

万が一、居たとすればそれは〝願い〟が使われる事が無かった証。




鴒黎が鳳に託した〝願い〟

それは事。

発動は鳳に委ねられた。


そして関わった花守達に話した“秘密”

それは自身が半妖であり、不死では無いが人よりも長く生きてしまう事。

また、この姿から老いることが一切無い事。

その二つだった。


だからこそ夕京を出て各地で陛下の命を実行しつつ、転々とする事を決めた。

生きているのかも、所在すらも分からぬ本当の父親であるあやかしを探しながら......





この後、花守達の記憶からは黒衣の花守が消えたのか。

妖は見つかったのか、死んでいたのか?

今はどこで何をしているのか...










全ての真相—それは、誰にも分からない..........












『禱れや謡え花守よ•異聞』---万屋奇譚

これにて終幕。

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『禱れや謡え花守よ•異聞』---万屋奇譚 夜季星 鬽影 @Micage

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