第陸話~過去と万屋~
カラン...
帰宅した
「いら...あ!お帰りなさいませ!」
「あぁ、ただいま」
店員の一人と挨拶を交わし、特殊な扉を開けてよろず屋へ。
そこまで来て、ようやく刀霊達との会話を再開する。
〔れい~!!続きぃ~〕
「分かったから、ちょっと待ってろよ...」
足にすり寄ってくる猫又を避けつつ、着替え開始。
〔はにゃくぅ~〕
「もう少しだから、待てって」
着流しを着つつ、
[…]
「…
刀霊一匹と一人に見つめられつつ、引き出しから
「…さて、どこまで話したんだっけ...」
**********
あの泉から帰った後、子供は何事もなかったかのように寺で生活していた。
言えば誰かがまた自分をいじめてくる。だから、誰にも言わないと決めて...
そんなある日。
寺に若い夫婦が現れた。
「おや、珍しいお客さんだ。この辺りじゃ見ない顔だねぇ?」
「えぇ、こちらで孤児を育てていると聞きまして…」
「一人、引き取りたいと思いましてね」
「ねぇ、だれかいなくなるの?」
「俺達、もらってくれる人がいるのか?」
ざわつく寺の中、一人その輪に入って行かない子供が居た。
「…」
その子は、まるで周りを気にすることなく読み書きの練習をしていた。
その様子が気になった夫婦が近づいてくる。
「ねぇ、君...」
「!?」
「あら、ごめんなさいね?驚かせちゃったかしら...」
それが
**********
「...で、その後も毎日のように俺の事を見てたり、喋りかけてきたりするもんだから、寺の住職が養子に出した」
[鴒黎、そのままこの家に?]
「あぁ」
そこまで言うと、煙管を吸って煙を吐き出す。
「...で、ここへ来てから苗字と名前貰って、色々勉強させられたなぁ…」
『苗字も?“靭”というのは、ご両親の苗字ではないのですか?』
「あぁ、たぶん違う。ここではみんな名前なんか名乗っちゃいなかったし、最後まで
別に悲しむでもなく、嘆くでもなく淡々と語る。
どこか、他人事のように...
[それで。続きは?]
〔にゃあもお前様の事もっと知りたいにゃ!!〕
「ふぅ...分かったよ...」
もう一度煙を吐き出しながら、葉を詰め替える。
そして、続きを語り出す......
**********
寺からこの喫茶店へやってきた子供は、まず部屋と着物を与えられた。
その後は風呂へ入れられ散髪し、与えられた着物を着せられる。
「…」
「ずっと黙っているのねぇ...」
「そうやって下ばかり見ないで、ちゃんとこっちを向いてごらん?」
言われて恐る恐るを上げると、笑った男女の顔が目に入る。
びっくりした顔をしていると、男の方が笑いかけてきた。
「今日から君は“靭 鴒黎”と名乗りなさい」
「じん、れい、り…?」
「そうよ、あなたの名前よ」
「なまえ...ぼくの?」
「そう。そうだよ」
子供は嬉しそうに微笑む。
その顔を見て、夫婦も一緒に笑う。
「れいり...ぼく、じんれいり!!」
嬉しそうに名前を連呼する鴒黎と名付けられた子供。
「これからは、私達があなたのお母さんとお父さんよ」
「おかあさんとおとうさん?」
「そうだよ、鴒黎」
この日から、鴒黎はこの喫茶店で暮らし始めた。
---------
月日は流れ、鴒黎十二歳頃。
この日もいつも通り色々な武器を使った対人訓練や術の練習をしていた。
「はぁ!!」
「ちがう!詰めが甘い!!もう一回!」
「はい!」
その様子を笑顔で見守る
「そのくらいにして、お昼にしましょう」
「はい、
「...はい!母上!」
この喫茶店は母上が、父上が少しでも情報を手に入れ易いようにと始めたもので、人々の噂から霊魔の情報を集めていた。
父上は諜報活動で全国を飛び回っており、今日は
「...おいしい?」
「...はい!」
「そうかそうか...」
皆で昼食を食べながら、父上は頭を撫でる。
その手は大きく、温かかった。
これが幸せというものなのだろうかと考えながら、昼食を平らげる。
「ごちそうさまでした!!」
「さぁ、次は霊符の使い方をおさらいしような」
「はい!師匠」
竹刀から紙と筆に持ち替えて、霊符を書き始める。
それが終われば、今度は使い方。
「それを持って...そう。それを教えた通りに...」
「はい!...急急如律令!」
「そうだ!覚えがいいな」
「ありがとうございます!!」
人型の紙が空中をくるくると回る。
これが式神だと、師匠と父上は教えてくれる。
式神は連絡手段や追跡に使ったりするもので、人型の紙に自分の霊力を込めて動かす。霊子通信が使えない場所でも使えるので重宝する。
「じゃあ、今度はこの術を...」
「はい!!」
その日の稽古は日が暮れるまで続いた......
**********
「…
一度言葉を切り、続ける。
「毎日、霊力の使い方や制御方法、太刀や苦無なんかのありとあらゆる武器を使った対人戦や霊魔撃退術も叩きこまれたな...」
ふぅ、と煙を吐き出す。
「初めて諜報活動をしたのは、それから二年後くらいだったな...」
[仕事内容は?]
「他の諜報員達に付いて行くだけ」
[…それだけ?]
「そう。見て覚えろ」
『...厳しい指導方法なのですね...』
「基礎基本や作法礼儀は言葉や指導で、実戦や術の応用は他人を見て身に付けろってのがここの教育方針」
『では、いつからこの場所によろず屋が?』
焔が問う。
鴒黎がここへ来た時には、喫茶店も今のようなモダンな感じではなく食堂のような感じだったし、よろず屋のある場所は訓練場だったり勉強の場だったりで店は無かった。
それは、と鴒黎は焔の質問に答える。
「十六、七位の頃だったかなぁ...父親に“諜報以外の仕事もしてはどうか”って言われたのがきっかけで、それなら母親のように人と接する仕事の方が効率よく情報収集できるな、と」
それからここを改装し、色々な悩みや困り事を解決する仕事を始めた。
それも主に視える人向けで。
「改築の時に陛下に無理言って、
それからここに“よろず屋”を開く事になった。
許可を取りに行った事で、最初は陛下や花守の相談や依頼が多くあったが、そのうち一般人にも広まるようになり、喫茶店も現在のかたちに落ち着いた。
〔じゃあ、お前様が喫茶店の主人してるのは...〕
「
〔今の副店長に任せなかったのかにゃ?〕
「それも考えたけど『あなたがやるのがふさわしい』って言われてな」
[断れなかった?]
「まあ、そんなところだよ」
メニューの開発や仕入れなどは鴒黎自身が行う事もあるが、経営自体は副店長が行っている。
この副店長は鴒黎の師匠でもあり、父親の右腕でもある人だった。
「このくらいかな、過去については」
煙管の灰を捨てて、片付ける。
『ではあの空き部屋は、ご両親の...』
「そうだよ...あぁ、忘れるところだった」
遺品整理しないと、と立ち上がり空き部屋へと移動した...
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