第参話〜仕事と花守〜

じん 鴒黎れいり:家業は諜報員。本職はよろず屋。副業にて喫茶店経営。そして、公務で花守。刀霊は今のところ三体(二匹と一人)だが、太刀と脇差の二本持ち。他武器多数所持。

〈霊境崩落〉後、よろず屋と諜報員の仕事の合間に霊魔退治するようになった。刀を振るう腕も日々上がり、霊魔の急所も大半覚えた。

毎日の武器類•道具の手入れも欠かさない。


最近のよろず屋仕事のほとんどが花守志願者への花守家系紹介か、傷ついた者達の救護や薬の調達•調合、病院の手配。

あとは、花守達の武器の修理と霊魔討伐の斡旋あっせん



戦跡地いくさあとちは後一箇所でしたね? 主人あるじ。』

「あぁ、そうだな...ほむら。今日もの情報は無かったな...」


自身の刀霊•焔と会話しつつ、鴒黎は周囲を見渡し状況確認。

、これは何かしらの能力を持った霊魔の亜種。鴒黎の義父母両親や仲間をほふった霊魔もこのだった。

最近はもっぱら、の情報を追う日々を送っている。


野郎、何処に居やがる?」

『...そう焦らずに。このまま情報を集める他、我らには成す術が無いかと。』


このままが出て来ない事は絶対にないと思いつつ、舌打ちする。


“先に見つけて隙を突く”


相手の能力が分からない今、先手必勝に賭けるしかない。が、どうにも情報が足りない。


『やはり、戦場跡地を探して回るより、直接霊魔退治していた方が早いのでは?』

「流石は“戦闘狂”だな。殺して周りたくてうずうずしてるんだろ?」

『...否定は、しません』


なんとなく恥ずかしそうに答える焔。

一度霊魔との戦いで、鴒黎に憑依した時は凄まじい闘争本能を見せ、鴒黎が制御するのに苦労した。


「ここはもういいか。次行こう」

『そうですね。ここはもう他の者達に浄化を任せましょう』


あらかた見てまわった今回の場所から撤退する。その際、霊子通信にて場所の詳細と浄化の手配を済ませる。


「さて、次は何があるやら...」

『何かしらの痕跡が見つかるといいですね』



次の場所へ移動。

建物の残骸が残っているが、何が建っていたのかは分からないほどに崩れている。


「...ここも空振りか?」

『中々、無いですね』


突然、ガタっと右から音がする。

咄嗟とっさに音のする方を見つつ、柄へ手をかける。


瓦礫から現れたのは人の亡骸を喰らいながらこっちを見た、霊魔だった。

抜刀。両手で太刀を構えて、踏み込む。

瞬間、霊魔との距離を詰め、右斜め上から一閃。

霊魔の身体は、斜めに両断された。

他にも残りが居ないかと周囲に気を配りつつ、太刀についた霊魔の血を払って納刀。


「まだ残りが居たか…」


霊魔の骸を見下ろし、一言。

そして、手袋をしてその霊魔の骸を調べはじめる。


「...ん?」

『何か見つけましたか?主人』

「あぁ、こいつは、の配下のようだ」


鴒黎達が追っているには、ある特徴があった。

それは、他の知能の低い霊魔を手足として使い、人間えさを探させ、持ち帰る事。

手足とされた霊魔には、身体のどこかに歪な三日月形の刻印が刻まれている。

その刻印が今回の霊魔にはついていた。


はこの辺りまで、手を出してきてるって事か...」


他も何かないかと、霊魔の骸の周りを調べる。

結局、それ以外の手がかりは見つからなかった。が、花守が使っていたと思われる神聖な気をまとった刃物の残骸を回収。

喰われていた骸の埋葬の処理も忘れず、手早く行う。


『これだけでも分かったので、今日は良しとした方がいいのでは?』


焔にうながされ、頷く。

即席で作った墓に手を合わせ、きびすを返す。

そろそろ本格的に陽が落ちる。

その前にこの辺りを浄化するよう要請して、鴒黎は帰る支度を始めた。


「ここまで探して空振り続きだとなぁ…」

『他の花守に倒された、とお考えで?』

「いや、それは無い。そんな情報も受けてないしな」

『では、どこかに潜んでいる、と?』

「そう考えるのが妥当だろうなぁ...」


追っているについて考察しつつ、その日は岐路に着いた。



翌日•••



昨日行った初谷はつや地区と反対の朝霞あさか地区と羽柴はしば地区の境目にやってきた。

すると、向かう先から花霞邸の方向へ向かって走ってくる人影が見えた。


「た、助けて!!!」


人影は男だった。着物には霊魔のものと人間の血が付いているのが見える。


「何があった?」

「あ、あんた、花守さんかい?」

「ああ。霊魔か?」

「そう、そう!!人が、人がく、喰われ…」

「何人襲われた?」


わからない、と首を振る男。

男に怪我がないことを確認、花霞邸に行くように指示して走り出す。

目の前には、霊魔が数体。


『主人!』

「分かってる!!」


言いつつ、抜刀。

太刀を抜いた瞬間に一体。続けざまに二体目と三体目をほふる。

そこで一度霊魔の群れが途切れたので、太刀に付いた血を払い、深呼吸。

脇差も左で抜刀。

呼吸を整えて目をつむり、神経を集中させる。


「----

『何体で?』

「十体!!」


走り出す。

目の前に人を喰らっている霊魔を確認し、下から上へ脇差を移動。

縦に両断された骸を確認。まず一体。


「...一」


続けて向かってくる犬型霊魔を、目の前で交差させた刀で防ぎ、そのまま脇差と太刀で切り上げる。


≪----!!≫


次に来ていたヒト型霊魔を太刀で一閃。胴体と頭を切り離す。

落ちてきた犬型霊魔が事切れている事を確認。


「...二、三」


跳躍。

足元に向かってきたもう一体をやり過ごして、身体を捻り、振り向き様に首を落とす。


「...四」


残り六体。

一度、脇差と太刀に付いた血を振り落とす。

目の前に集まってきたので、脇差を納刀して太刀を構え直す。


「...来い」

≪----!!≫


霊魔達が咆哮。同時に向かってくるのを左右に避けつつ、斬っていく。


「...五、六」


後ろから来る霊魔の頭に向かって

命中。動きは一瞬止まるが、動いている。


「...!やっぱりだめか…」

『そうですね、やはり刃物でないと』


昨日拾った刃物の残骸に、実験的に焔の霊力を込めて弾丸として作ったのだが、やはり霊魔を倒すには刀霊憑きの刃物でないとだめらしい。


「上手く行けば霊魔退治も楽になるかと思ったんだが…」

『仕方ないですね』


銃を戻し、撃った霊魔の首をねる。


「七!」


続け様にもう一体。


「八」


残りは二体。

一度呼吸を整える。瘴気が少し濃くなっていた。


主人あるじ

「…問題ない」


下は霊魔の血溜まり。目の前には二体の霊魔。空気中には瘴気...

生き残った人間の気配は無し。少し遅かった。もっと自分に霊魔を退治する力があれば...

太刀を握る手に力が入る。

遠巻きにこちらを見ている霊魔に対して、ひと睨み。


「...はぁっ!!」


気合いを入れ直し、霊魔を一刀両断。


「九!」


最後の一体。動こうとしないその霊魔に向かって走る。

近づいて行くと、こちらを向いてにぃ、と嗤った。


「!?」

『主人!!』


焔が叫ぶのと同時に鴒黎も異変に気付いて飛び退く。

刹那、嗤ったカオが


りょく!!!」

〔にゃ!!〕


爆発。

霊魔は粉々になり、鴒黎は太刀を構えたまま後ろに飛ばされる。


「かはっ!!!」


木に身体が激突。

爆風で髪を纏めていた紐が切れる。


『主人!!』

「...大丈夫、だ…碌のおかげで...」

〔にゃっ〕


口に溜まった血を捨てる。

爆発の瞬間、咄嗟とっさに碌の結界を展開したおかげで助かった。


「霊魔は...?」


どうなった、と誰にでもなく問いかけつつ、太刀を地面に刺して立ち上がる。

目の前を見ると、バラバラになった霊魔の肉片が集まってきていた。


「...やってくれたな...」


集まってきていた肉片の中心に太刀を突き刺す。


「これで、十」


太刀を引き抜き、動きが止まったことを確認。

血を払い、納刀。

ここにいた霊魔はこれで全てだ。


『主人、お怪我は?』

「口の中が少し切れたのと、爆発の衝撃で背中を打ったくらいだよ」

〔にゃあは戻るのにゃ!〕

「あぁ、ありがとう、碌。助かった」


にゃあ、と一鳴きして足元に居た猫又は消えた。


さて、と周囲を見渡し、他に霊魔が居ないことを確認する。

そしてそのまま、霊魔の死骸を調べ始める。


「さっさとやらないと、花霞邸から誰か来るからな…」


ざっと全て見終えると、ふぅと息を吐き、伸びをする。


「...今日も収穫なし!実験が上手くいかなかったのは痛いな...」

『仕方ないですね。別の方法を試しましょう』


昔から死体の埋葬は何度も行ったが、今回は自分が間に合えば救えた命、と少し後悔の混ざった感情と共に作業を行う。

即席の墓に手を合わせ、一礼。

そのまま帰路に着く。

実験結果をまとめて羽瀬参謀はせさんぼうに持っていかないとなぁ、と考えつつ。

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