伍ツ目〜或ル日ノ子供達〜

これはもしもの話。

霊魔れいまが人に危害を加える事無く、人と共存出来ている、平和な世界でのお話......






幽世かくりよ–––それは人間の魂が向かう先の世界。現世うつしよとは隣合わせの彼岸。そこには霊魔と呼ばれる者達が住んでいた。

ここでの霊魔とは、転生を待つ魂が一時的に実体を持った者達の事。

瘴気を出す事も、空蝉うつせみ(現世の人間の事)に危害を加える事もない、無害な存在。


そんな霊魔の子供達の、ある一日をここに綴ろう...




「お兄ぃ!!」「待って!」


ぱたぱたと通りを走る幼い子供達。瓜二つの男女で、日本の生まれではなさそうな金色の短い髪に洋装。


有紀ゆき幸樹こうき。走ると危ないよ?」


その双子の名を呼び振返る少年。黒髪に赤目、着流しのような着物を着ている。


「一緒に行くって」「言ったのに」

「「先に行っちゃうんだもん!」」

「はいはい、悪かった。ほら、手、繋ご?」

「「わーい!!」」


三人は仲良く手を繋ぎ、たくさんの店が立ち並ぶ通りを歩いた。


「駄菓子屋!」「文具屋!」

「今日は八百屋と肉屋に寄って帰るからね?」

「「おやつは??」」

「仕方ないなぁ...一人一つだよ?」

「いいの?」「ほんと?」

「今日は特別だ。ほら、お金あげるから買っておいで」

「「はーい!やったぁ!」」


双子は兄と呼ばれた少年—榴希るきからお小遣いを貰うと、嬉しそうに駄菓子屋へと走って行った。


「ふふ...たまにはお菓子も食べたいよね。まだまだ子供だし」

「君も子供でしょ?」


目的の八百屋へ着くと、一人の少女が何を言ってるの?といった風に声をかけた。


「そうだよ?でもこれでも一応お兄ちゃんだ」


少し胸を張ってちょっとドヤ顔。それを見た少女ははぁと溜息...


「榴希はいつもそうやって...まあいいや。今日は何買うの?」

「いつものだよ。今日は割引品ある?」

「はぁい!ちょっと待ってね...」


奥に入り、何やらごそごそと探す音。その間に双子が榴希の側へと戻って来た。


「榴希兄!」「おばあちゃんが!」

「「おまけしてくれた!!」」

「そうか、良かったね。お礼はちゃんと言えたかな?」

「「勿論!しっかり“ありがとう”って言った!」」

「よく出来ました!」


榴希は双子の頭をわしゃわしゃと撫でると、双子は嬉しそうに笑った。


「...あったわよ。はい、いつもの野菜と少し痛んで売り物にならない果物」

「いつもありがとう。助かるよ」

「「ありがと!おねーちゃん!!」」

「今日も双子ちゃんは可愛いねぇ〜!」


双子の頭を強引に撫でて、抱きつく少女。双子も少女も楽しそうに笑いあった。


「じゃ、肉屋に寄って帰るから」

「今日はコロッケ作るんでしょ?」

「当たり。それじゃ、また」

「「またね〜!!」」


少女と双子は手を振り合い、別れの挨拶。榴希は片手を上げて肉屋へ向かう。



少年達は食材を買って家へと帰って来た。

家の中からは楽しげな歌声が聴こえてくる...


「今日も」「こーろっけ!」

「明日も」「こーろっけ!」

「「ふふふ...」」


こうして何気ない、けれどささやかな幸せが営まれるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る