四ツ目〜鳳との邂逅•邂逅編〜
「っく...!」
落ちた衝撃で身体を強打。
どこかしら骨が折れたようだ...
転がり、這いつくばって辺りを見回すと、霊魔犬が土砂に埋もれて気絶。男の姿はなかった。
「い、行かない、と...」
『
「奴も、あの霊魔犬も放っておく訳には...」
その時。
{おや?珍しいのぅ。ここまで人が来るとは...}
声。鈴を転がしたような綺麗な声が聞こえた。
「誰か、居るのか...?」
警戒しつつ、声をかける。
{ほぅ...落ちて来たか。お主、花守じゃな?}
目の前に現れたのは、黒い蝶。
ひらひらと周りを飛んでいる。
「...刀霊、か...?」
{そうじゃ。
「...なんで、こんな地下に祭壇?」
{昔、埋もれてしまったのじゃよ。あの犬めが気を失っとるうちに話しておこう...}
刀霊だと言う黒蝶•
なんでもここには昔、平安の頃より代々続く花守一族が暮らしていたそうだ。
ある時、同じように代々続く別の花守一族がこの花守一族を妬み、兵を使って奇襲をかけ、一族を葬り去った。
その時に
{...元々は別の刀霊が
鳳の話を
ゆっくりと身体を起こし、座る。
...霊魔犬はまだ気を失ったままだ。
「...って事は、鳳は元々は...」
{妖じゃ。お主の
自己紹介とこちらの状況を掻い摘んで鳳に説明。
ふむふむと聞いていた鳳は、自身は霊魔などの探査が得意だと言った。
{...近くに気配はない。先にあの犬っころに止めを刺し、童の本体の場所へと移動しようぞ}
鳳の言葉に頷き、立ち上がる。
気絶している霊魔犬に近づき、首を斬り落として祓うと祭壇へと向かった。
暫く歩くと、開けた場所に出た。そこには小さく清らかな祭壇。少し寂れてはいたが、立派なものだった。瘴気に呑み込まれず、神聖な気を保っている。
「これだな?」
祭壇中央にあった黒塗りの短刀を手に取る...すると、その役目を終えたかのように祭壇は崩れ落ちた。
「......」
一先ず黒塗りの短刀を
どこも壊れておらず、埃も被っていない。
刃の状態を確認しようと柄に手をかけ、抜こうとした...が。
{待て。抜くでない}
「え?」
鳳に止められ、柄から手を離す。
{童と契約すると誓った時でないと、
「は!?危なっ!そういう事は早く言っておけよ...」
{ふふふ...すまぬなぁ。久しく人が来なかったもので、忠告を忘れるところだった}
悪びれる様子もなく言う鳳。
取り敢えず、短刀を背に差して持っていく事に。
「ここからどうやって地上へ出るか...」
{それなら安心せい。こっちに道があるでの}
鳳の案内で地下を歩く事数分。先程の屋敷の傍に出てきた。
親子の安否も気になるが、
{さて。案内もしたわけじゃが...契約はどうする?}
「...しようと思う。今はもっと力が必要だ」
これから先も、奴...燕尾服の男以上の力を持った霊魔と対峙する事になるだろう。その為の力や技術は多いに越したことはない。
「
『ふん。我に聞く必要などあるのか?どうせお前はこうと決めたら曲げんだろうが』
「ああ。そうだな...鳳。契約する」
焔の言葉に苦笑しつつ、鳳へと向き直る。
{良かろう。では、お主は何を童に差し出す?童はお主のその身体—血が欲しい}
『虫けらめ。この身体は我のモノだ』
{ほぅ。先客がおったか...なら血だ。血と、そうじゃのぅ...契約の証として身体の一部を差し出せ}
「一部?」
{そうじゃ。童との契約は代償を支払う代わりに、その者の願いを叶えるのじゃ。今すぐに願いは決められんと思うから、モノだけ先に寄越せ、という事じゃ}
そうしないと契約が進められない、と鳳は言う。
しかしこの元妖の刀霊達...ひとの身体を何だと思ってるんだ?勝手に奪い合いが始まったし...
{なんじゃ?不満か?}
「...いや、なんでもない。目とか髪でいいのか?」
{それだと霊力は高いが、小さい。内臓でもいいが、それだと契約したかどうか疑問が残るじゃろ?そうさなぁ...}
鳳は
{...よし。その動かぬ左腕にしようぞ。今から童の作る呪入りの包帯で巻いておけば、痛みは無くなる。傷を癒す効果は無いが}
傷が癒えない代わりにそこから鳳へと血を与える事もでき、尚且つ今すぐに動かせるようになる、と説明し、自身は長い間地下に居た所為で本来の力が出せないのだと言う。
本来の力を取り戻すには鴒黎の血を
「...今すぐに動かせるようになるなら、それでいい」
自身の左腕を見る...
喰い千切られていた肉は復活していたが、引っ掻かれた傷が無数に残っていた。
感覚自体はあるが、まだ動かせる程に神経が回復していない。
{相分かった。では契約といこうかの}
鳳は鴒黎の左腕に止まり、そこから出ていた血を啜った。
{...短刀を抜け}
指示されるままに黒塗りの短刀を背から外し、その刃を抜いた。
一瞬刀身に違う世界の風景が視えたが、すぐに消え...
{よし。ではそのまま左腕へと突き立てよ}
「...は?突き立てるって...こう、か?」
訳が分からぬまま、自身の傷だらけの左腕へと刃を突き立てる。
「っ!」
{それで良い...“我名は鳳。ここに童と
「“我は靭鴒黎。ここに『——』神の鳳と血の契約を結ぶ”......って『『——』神』!?」
契約の言葉をお互い交わして短刀を引き抜くと、その短刀は血を吸った。
それよりも。鳳は妖などではなく、『——』の神だったと言う事に驚きすぎて痛みを忘れた。
『ほぅ...主があの神とな?では呼び方を変えねば失礼だな』
{ふふ...そう身構えんでもとって喰うたりせんよ}
「......」
気が付けば左腕には呪の書かれた包帯が巻いてあった。
試しに握ったり、腕を曲げ伸ばししてみる。大丈夫、動く...
「色々と聞きたいけど...先に奴を片付けよう」
色々ありすぎて混乱しているが、今は先に燕尾服の男を祓わないと...
《私をお探しですか?よろず屋殿...霊魔犬は全て祓ったようですね》
お見事です、と拍手をしつつ屋敷の方から現れた燕尾服の男。
咄嗟に抜刀し、距離を取った。
《おやおや。そんなに警戒せずとも良いではありませんか...おや?新しい刀霊かな?》
{お前が霊魔犬の親玉か...成る程なぁ}
ふふっと笑う鳳に男はそうですよ、と答えて微笑んだ。
《勝負は貴方の勝ち...ですが私はこの通り生きてますからね。最後は正々堂々と戦いましょう?》
にやりと嗤う男。
「そうしてくれると有難いね...」
奴の実力はよく分からない...相手の出方を伺うように、太刀を構えた。
《では、行きますか...!》
「!!」
瞬間。キィィン!っと甲高い、硬いものがぶつかり合う音。
男は蹴り上げた姿勢で、鴒黎は太刀を構えた姿勢。
《やはり、受け止めて頂けましたか》
(なんだこいつ...脚が金属?)
一度離れて両者立て直す。
《ふふ...私は片脚が硬いのですよ。そして鋭い...こんな事も出来ますっ!》
ヒュン!
「!?」
顔を掠めた何か。頬が切れ、後ろの大木が倒れる音...振返ると数本の木が綺麗に切り倒されていた。
《どうです?すごいでしょう?》
ああでもズボンが破れてしまうのはいけない、などと自身のズボンを見ながら余裕そうに話す。
(あの脚が厄介だな...)
頬から伝う黒血は既に乾き、傷は塞がった。
《素敵ですね、その回復力。その血、とても
じゅるり、と舌舐めずり。気味の悪い男だ...
《...私の兄もあの血を舐めたのかと思うと羨ましすぎてつい行儀のなっていない事を...失礼》
突然興奮気味に、一気に喋り出した男は胸元からハンカチを取り出して丁寧に口を拭き、戻す。
《...さぁて!愉しみましょう?
瞬間。脚を振り上げ、鎌鼬のような瘴気の刃を放つ。横に躱し、袈裟斬り。躱される。
蹴り。斬撃。躱し躱される事数度...
《いやはや...これ、は少し厄介、デスネ...》
霊魔の息が上がる。鴒黎も呼吸を整え、再度向かうが、硬い脚に阻まれる。
(どうする...?硬い脚...そうか!)
懐を探り、それに指が当たった。
《次ですっ!》
霊魔が脚を振り上げた時、懐から風車の折り紙を出し、放った。
「...爆!」
《!?》
風車の折り紙が爆ぜて霊魔の脚を直撃し、硬化ができない状態となった。
《やってくれましたねぇ......そんなものを隠し持っていた事は計算外でしたが......ふっ!》
再び蹴りを放つ。漆黒の太刀で防御して弾き返すと、霊魔が態勢を崩してよろめいた。
その瞬間を逃さず、霊魔に向かって更に漆黒の刃を振るう。
《ぁがっ!!》
霊魔の腹は横に斬られて、身体は仰向けに倒れた。
《こ、この私が...貴方のような“出来損ない”に負ける、なんて事が...ごふっ!あって、良い筈が、無い...》
「...悪かったな、“出来損ない”で」
感情のこもっていない声で言い放ち、冷徹な視線で霊魔を視下ろして。
「...お前はどこまで知っている?」
《あの事件の事ですか?それ、とも兄の行った実験の内容、ですか...?》
「両方」
《そう、ですね...事件の方は、貴方が知っている事以上に、知りはしません、が...実験については、色々、と。ごふっ!...貴方が真っ当な生まれではない事、とか、で、ス...》
霊魔の男は苦しそうに言うと、何度か血を吐いた。
「そうか...この身体が、回復力が何によって作られて、その所為で普通の人間になれない、という事も?」
《はい...兄から自慢話のように、聞かされ、ました、から...》
「“兄から”だと?」
あの事件の時に祓われた筈ではなかったのか?
「...まだ生きているのか?」
《それについては、なんともお答え、できま、せんね...》
にやりと嗤って見せる男に、これ以上の情報は望めないと判断して心臓を一突き。
血払い、納刀。
{もうこの辺りに霊魔の気配は無いようじゃ。お主の刀霊の気配は、この先に}
鳳は納刀した鴒黎を見、塵となった霊魔を見て、案内を開始した。
暫く歩いて雑木林の入口に到着。
「花守さん!!」
「...っと。怪我はないかい?」
「大丈夫です!僕も両親も無事です...でも、花守さんが...」
「俺の事は気にしなくていい。君達が無事なら、それで」
慌てて走り寄って抱きついた少年を優しく撫で、微笑む。
〔れいぃぃぃ!!にゃーは、にゃーはぁぁ!〕
ガシッ!
〔にゃーの扱い、酷くにゃいか??〕
「...気のせいだ」
突進するかのように走ってきた、黒い猫又の進行を遮って首根っこを掴み、宙ぶらりん状態で顔の前に持ってきた。
その状態に碌は抗議しているが、鴒黎は知らん顔で地面に下ろす。
少年から小刀を返してもらい、少年と両親は後から来た
鳳の事は伝えていないが、陥没してしまった箇所は伝えておいた。
「じゃ、帰るか...」
呟き、改めて自身の身体を見る。
服も
髪もボサボサで、戦闘の凄まじさを物語っている。
「それで来る人来る人に驚かれたのか...」
そうだよなぁ...これじゃ大怪我しててもおかしくないのに、見た目ほぼ無傷だもんなぁ...
「これは風呂が先、かな...?」
歩き始めて苦笑気味に呟く。これも洗って落ちないだろうから、新しいの買わないと...
{...鴒黎よ。願い事は決めたのか?}
不意に鳳が聞いてきた。
帰ってからやる事を考えていたので、一時中断。
「...いや、まだ。決まらなかったらどうなるんだ?」
{今までそんな契約者は居なかったからのぅ...はて、どうなるかは童も検討がつかぬ}
「そうか...色々考えてみるわ。特に期限も無いんだろ?」
{ああ、そうじゃ。好きなだけ悩むと良い}
よろず屋へ帰る道すがら、鳳とあれこれ話す。
鳳は鴒黎の血を啜った事により、記憶を共有したと言う。
それは今までの契約者も同じ事。だが、本人さえも忘れてしまっている記憶も鳳が知っているという事は、鴒黎は知らない...
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