七ツ目〜鉠弌と鴒黎〜

......はぁ?俺と鴒黎れいりの出会いが知りたい?珍しい事聞いてくるな...

俺と彼奴あいつが出会ったのは...多分彼奴が養子に来てすぐの時だったと思う。まだその時は名前が無かったから『坊主』って呼んでたっけ...



— — — — — — —



ある日、友人の元に養子が来る事が決まった。子宝に恵まれず、養子を決意したそうだ。

孤児院と呼べる程の大きなものではなく、こじんまりとした寺で育てられていた男の子。自分達よりも霊力が高く出生も分からず全く身寄りのない子が良い、という夫婦の条件を満たしていた。が、信じられずに思わず聞いてしまった...


「...いや、こんな条件、今時無理じゃねぇか?そんな子供居たら即花守の家系行きだろ?」

「ああ。でも、迫間はざまの山奥に古い寺があって、なんでもそこには老夫婦と数人の子供達が居るらしい」

「孤児院ができ始めたってのに、珍しいな?」

「そうなんだよ!でね?そこに居る子供の一人が“化け物”とか“霊魔じゃないか”って言われているんだそうだ」


その子が条件に該当するんだ!と喜びを爆発させて、迫って来る。

いつも冷静な此奴こいつがこんなに興奮するなんて珍しい...


「で、だ!俺ら夫婦で今から会いに行ってみようと思って」

「今からぁ?急過ぎねぇか?」

「あれ?知らない?そこであったの事」

「ん?...あぁ、子供が数十人単位で誘拐されて、一人しか助からなかったやつか...」


数年前。数件の孤児院やこの寺のように孤児を預かる場所に誘拐犯が現れ、騒ぎになった事があった。

それは霊魔に脅された人間の行いだった事が判明し、その霊魔は花守達の手で祓われた...しかし。


「確か...子供が一人助かったけど、手下の人間達はみなごろしだったって...」


運良くどこかに隠れていて助かったらしいとだけ、人伝に聞いた事がある。


「そうなんだよ!そういう風に伝わってるが、本当は違うんだ...」


こいつは諜報活動しているだけあって、そういった事件の真相に詳しい。

だからと言って俺にこうやってバラして、巻き込まんで欲しいのだが。


「...とまぁそんな感じでさ、その子がみーんな倒したらしいんだよね!」

「はぁ?三、四歳くらいの子供だろ?どうやって...」

「だから“化け物”って呼ばれてるんだよ、きっと。ああ、どんな子なんだろうな...見た目は普通らしいけど、そんなに強い力を持ってるなんて...」


あ、駄目だこれ。目がもう現実を見ていない...


「分かったから、そう興奮すんなって...その事気にしてるかもしれないだろ?あんまり言うなよ?」

「あ!?そうか...そうだったね、うん」


怪しい。絶対に言いそうだ...

こいつは根はかなりいい奴だが、好奇心を抑えられないタチだった。

心配だ...


「ほら、もう行かなくていいのか?」

「あ!!本当だ、もうこんな時間!?じゃ、行ってくるから!」


慌ただしく出て行く姿を見て、久し振りにあいつの笑顔と慌てようを見たな、と一人くすりと笑うのであった...



その後暫くして、夫婦は帰宅。用事ついでに寄ってみれば、養子の姿はない...


「お?帰ってたのか...で?その養子君とやらは?」

「それが、今すぐって訳にはいかないって住職に言われてね...数日通って意地でも引取るって言ったら笑われたよ『そんな物好き珍しい』ってね」


肩をすくめて見せるが、表情は明るい。


「その子が嫌がったのか?」

「それもあるけど...住職が話してくれないから、分からなかった。ただ、数日通ってそれでもその子が嫌がったら、諦めてくれって」

「ふぅん?そんなに人見知りなのか?」

「どうなんだろうね...?物静かで髪の長い、女の子みたいな子だったよ。妻が大層気に入ってね、すぐに連れて来たかったなぁ...」


相当気に入ったようで、はぁと深い溜息。



......そして数日間本当に通い詰め、見事養子に迎える事に成功したのだった。


「お前のその執念、ほんと尊敬するわ...」

「すごいだろ?ああ、名前はどうしようかな...?私の性を継がせる訳にはいかないから...」


既に俺の事は眼中になく、名前決めに専念し始めた。


「...さあ、お風呂も入ってすっきりしたし、着替えも出来たわ。ほら、お義父さんと先生よ」


奥さんに連れてこられた少年は、言われなければ女の子だと思うほどに長い髪に綺麗に整った容姿だった。


「へぇ...女の子かと思ったよ」

「......」


その言葉に養子君はむっと一瞬睨み、視線を下に戻してしまった。


「おっと、早速嫌われたかな?」

「ふふふ。恥ずかしがり屋さんなだけよ。ね?」

「......」


その問いかけにも無言で一言も喋らない。いや、もしかして喋れないのか?


「この子、喋れない訳じゃないよな?」

「ええ、平気な筈よ?」


名前決めを諦めたのか決まったのか...義父となった俺の友も養子君の側に寄って来て、


「!?......な、にするの!?」


突然頭をくしゃっと撫でた。


「喋れんじゃん。なんだ、声も可愛いじゃねぇの」

「ふふ、ほんと可愛いわね...」

「うわっ!?な、なに?」


夫婦ふたりに撫でられ紅くなる養子君。まだ名は決まってないうえに女の子に間違われるのが嫌なようなので「坊主」と呼ぶ事にした。嫌がってもする。


「良かったな、

「へ?ぼうず...??」

「女の子に間違われるのが嫌なんだろ?だったら名前決まるまでな?」

「...むぅ」


ぶすっと膨れっ面になる養子君。

なんだか甥っ子ができた気分だなぁなんて思いながら、この子をからかい続ける事にした。反応が面白いし。



— — — — — — —



...こうして俺と鴒黎は出会った訳である。え?義両親の名前?それは絶対に言わない約束だからな。内緒だ。

「あいつを揶揄からかうのはやめたのか」って?やめる訳ないじゃん?いつまで経っても反応が面白いからな...

質問は終わりか?一応これでも花霞邸かすみていの医者だからな、色々と忙しいんだ。

最後に一つ?なんだ?......『俺の正体が知りたい』?俺は何者でもないぞ?しがない花霞邸の医者だ。それ以上でも以下でもない、医者さ。それじゃ、またどこかでな...



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る