第拾壱話~花守と霊魔~
その後、霊魔化した子供の遺体を丁寧に埋葬する。
日頃行っている作業だが、今日は少し違っていた。
無事だった二人の子供達が、一緒にやりたいと申し出て来た。
「「...ちゃんと成仏できますように...」」
手を合わせて祈る子供達を横目に、道具類を片付けていく。
普段なら子供なんて戦場には居ないし、ましてや誰かと一緒にやることなど絶対にありえなかった。
霊魔との戦闘が起こった場所では、戦闘終了後にその地を清める役割も兼ねる。その為最後まで残り、亡骸を埋葬する事も仕事の一環だった。
「ちゃんとおいのりすれば、てんごくいけるよね?」
「...そうだな、きっと行けるさ」
子供達は最初こそ怖くて墓に近づく事をしなかったが、鴒黎が何事もなく作業をしているのを見て手伝い、手を合わせた。
聞けば、三人とも孤児らしい。近くに孤児院があるので、そこから肝試しに来たと教えてくれた。
「孤児院の大人達はどうしてるんだ?」
「大人は昼間、働きに行ってたりしてあまりいないの」
「ぼくたち、ひるまはこどもだけのがおおいの!」
そうか...と呟き思案する。このご時世、孤児院を経営するだけでも大変だろうに。
経営難でどこも軒並み潰れていっているのだから...後で寄付でもしておかないと...
「...おね、違った...お兄ちゃん?どうしたの?」
「ん?いや、なんでもないよ」
「ぼくたち、かえっていいの?」
「ああ、いいよ。そろそろ孤児院から迎えが来る頃だろうから」
迎えが来るという言葉を聞いて、ばつが悪そうに互いに目を合わせる。
抜け出してきた事に関して怒られることはないよと、子供達に告げるとそうではないと言う。
「ちがうの...ぼくたち、でてきたことじゃなくて...」
「一緒に居たのに守れなかったから...」
それには鴒黎の方が言葉を失った。こんなに小さな子供達がそこまで考えていたとは...
「...そうか」
項垂れている子供達の頭をそっと撫でる。
「自分を責めちゃいけないよ?大丈夫、君達なら強くなってたくさんの人を守れるようになるさ」
その気持ちを忘れずに持っているんだよ、と微笑んで告げる。
子供達は元気良く頷いた。そこへ、孤児院からの迎えが来て、子供達は去って行った。
「バイバイ!おね...お兄ちゃん!」
「またね~!」
「気を付けて帰れよ」
その小さな二つの背中を見送って、鴒黎は廃墟内を探索し始める。
子供達から聞いた話によれば、一度三人でいるときに霊魔らしき人影と遭遇したそうだ。
だが、その人影が襲ってくる事はなく、霊魔化した子供が転びそうになるのを手を掴んで助けただけだったらしい。
『...では、その時にあの傷を?』
「おそらくそうだろうな...」
しかし、廃墟内に霊魔の気配はない。
念のため、色々と見て周ったが痕跡も見当たらなかった。
「一度帰って出直すか...」
『それがよろしいかと』
廃墟の入り口までもう少しのところまで戻ってきたその時。
屋根から何かが落ちて来た。
「!?」
咄嗟に飛び退き回避する。
落ちて来たのは、霊魔の伸びた腕だった。
≪ヤット来タカ...待チ
粉塵の中から顔を出す能もち。相変わらず耳障りな奇妙な声で喋る。
「...待たせて悪かったな。こっちも色々と準備が必要だったものでね」
流れる冷や汗。太刀の柄に手をかけたまま、一歩後ずさる。
[...鴒黎...]
「心配すんな。無茶はしない...」
心配する
≪フフフ...ソロソロ頃合イダト思ッテイタラ、想像ヨリモ良ク仕上ガッテイル...≫
嬉しそうに口を歪める霊魔。虚ろで吸い込まれそうなその闇色の目が、こちらを同じようにじっと見ていた。
「...聞きたい事は山ほどあるが...何故、俺を狙う?」
≪...ソウカ。オ前ハ覚エテイナイノダナ...?≫
まだ赤ん坊だったから無理もないかと霊魔は嘲笑う。
それはどういう事だと霊魔に尋ねる。
≪オ前ハ人間ニ捨テラレタ、妖怪ト霊魔ノ血ノ混ザッタひとでなしナノダヨ...≫
「なっ!?何を言って...」
≪...我ノ血ヲ使ッテ実験シタ赤子ナノダカラ、我ノモノデアロウ?≫
言葉を無くす鴒黎。突然現れた霊魔だけでも衝撃的過ぎたのに、話の内容は更にその上を行った...
「...なにが、どうなって...」
≪ククク...混乱スルノモ無理ハナイ...タダ取リ込ンデ終ワリニスルトイウノモツマランカラナ...≫
混乱する鴒黎を愉しむかのように、霊魔は昔語りを始めた...
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とある村に生を授かった赤子がいた。だが、あまりに霊力が高い
それを聞いた花守の一人が、その村に滞在して霊魔を祓っていた。
花守は来る日も来る日も霊魔を狩り続けた。だがそれも限界に来ていた...
『村長よ。このままでは霊魔に押し切られてしまう...そうなる前にこの村を棄て、どこかへ避難せよ』
花守は救援が来ない事を悟り、意を決して村の長に話をした。村の長もこうなることを考えていたのだろう、頷いて皆を避難させることにした。だが、元凶となっているであろう赤子の同伴は拒んだ。
『そんな!私たちの子供を置いていくなんて!!』
『落ち着きなさい、仕方のない事なんだ!この子が居れば村人が全滅してしまうぞ!』
母親は泣く泣く子供を置いていくことにした。
聞いていた話だと、父親が子供を庇って霊魔に殺されているらしい。
花守は赤子と二人、村に残った。だがその日以降、霊魔が現れることはなく、花守と赤子は出ていった村人たちが全員霊魔に惨殺されている事を後で知らされた...
花守は激しく後悔し、原因究明に躍起になった。
『何が、何が違った!?何故、この赤子ではないのだ!?』
近隣の村などで調べて行き着いた答えは、意外なものだった。
まず、赤子の父親は人間ではなかった事。しかも霊魔に殺されたというのは真っ赤な嘘。
花守に正体を知られぬよう、ひっそり村から出ていたのだ。その事実は村人全員が知ることであり、外から来た花守の自分だけが知らなかった...ばれれば殺されると思っていたのだろう、と近隣の住民が教えてくれた。
更に父親は、村の守り手だったという。
何故、そんなモノが村から出ていってしまったのか...そこは誰も知らなかった。
村に残ったのは花守だけ。これから赤子とどう過ごしていいのかも分からない...近隣の村に赤子を預けようと村を出たところに、押し寄せて来た霊魔達。
村人全員を惨殺しただけでは足りないらしい。
花守の応戦虚しく、赤子をその手に抱いたまま、瘴気に呑まれて徐々に霊魔化していく...
『...この赤子さえ、居なければ...こんな村に、来なければ...』
何故自分なのだ!と言い残して完全に霊魔化した花守は、自我を保ったまま突然変異種として生まれた。
醜くなった身体に抱いた赤子を見て、殺してやろうかとも思ったがそれではつまらない。同じ苦しみを...そう思い急所をあえて外して赤子を刺した。
『ふえぇぇぇ~!!』
赤子は泣きじゃくる。それを見ていた元花守は、何を思ったのか傷口に自身の黒くなった血を注ぎ始めた。
≪ヒヒヒ...コレデ生キ延ビラレタラ、ドコカデ会オウ...ソシタラ喰ッテヤルカラナァ≫
泣きじゃくる赤子を置き去りにして、瘴気の中へ去っていく霊魔。
その様子を物陰で見ていた一匹の狼が居た...
『ふえぇぇぇー!!』
赤子の身体からは瘴気が出始めていた。
このまま放置すれば霊魔化してしまうだろう...
物陰から一部始終を見ていた狼は、霊魔が完全に立ち去ったのを見て、赤子の
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