其の弐〜悪夢〜

---誰かが呼ぶ声がする。誰かがすすり泣く声がする。命乞いに罵詈雑言、骨の折れる音や臓腑ぞうふすする音。身体を引き裂かれて出た耳をつんざく悲鳴。狂った人々の嘆きの声...聞きたくない音や声の数々が一気に押し寄せる。


「あ、あぁあぁぁ...やめろ止めろやめろ...!!!」


暗闇の中に居た鴒黎れいりうずくまり、頭を振って耳を塞ぐ。それでも音や声は脳内に入ってくる。


『どうして?なんで?ぼくは確かにあの時、力は無かった...それでも助けようと立ち向かった!必死で霊魔を食い止めようとした!!』

『仲間や両親は死んだ。それはお前の所為だ!他の住人だって見殺しにしたんじゃないのか?自分が生き残るために!!』

『助けられると思ったのか!?花守でもないお前が霊魔を祓える訳が無いのに!!足止めした?笑わせるな!自惚れるな!!』


幼き自分と嫌悪や罪悪感情が言い争うがそのまま動く事が出来ず、ただただ言い争うのを聞くしかなかった...

やがて幼き自分は消え去り、そこには後悔と罪悪感、自己嫌悪だけが残った。


「...何故...なんで俺だけ生きてる?俺が居なくなればよかったんじゃないのか?」


何度も何度も繰り返す自問自答。

バケモノ、いらない子、出来損ない、ひとでなし...幼い頃から浴びせられ続けた罵詈雑言や悪口雑言の数々。今更思い出し、更に自己嫌悪が強くなる。


答えは、出ない...



ほむらと出会うきっかけになった出来事とは違う、

それは幼少期の記憶と今の記憶を混ぜ合わせた、最悪の夢。

連日連夜続いて、精神的なダメージは想像を超えつつあった。


「はぁ、はぁ...」

主人あるじ。一度清めておいた方がいいのでは?』

「...そうだな」


焔に言われ、一度身を清める事にする。

清めておけば多少の穢れが落ちるので、精神的にも少し楽になるのだ。

流石に真夜中に滝行するのははばかられるので、朝を待って鴒黎と刀霊達は滝行に出向いた。


まずは白装束に着替え、霊符を持つ。

滝に入り、霊符に言霊を込める。


「六根清浄、急急如律令!」


すると、鴒黎を包み込むように周りが蒼く輝き出す...


「......」


しばらくすると光は消え、辺りは清浄な空気と水が残った。


[...どう?鴒黎]

「...大分マシになった。心配かけたな、そう


滝から出て蒼のもとへ行き、頭を撫でる。

その表情は少し柔らかくなっていた。


そのまま川から上がり、髪は一度前に持っていき、絞っておく。

全身を清めの炎で乾かし、着替えて終了。


「これで何とか乗り切るしかない、か...」


このはいつまで続くのか...

自問自答の答えはいつ出るのか...先の事は何も分からない。

解決手段も分からない。

刀霊達にも言えぬまま、時間だけが過ぎていく。

こういう時、親というものや兄妹や信頼できる友人が居れば、違っていたのだろうか、とも思う...が、所詮自分には縁のない事。


今までも、これからも。独りで良い。背負うのも、後悔するのも、傷つくのも。

ただ、こんな事を経験する者が少しでも居なくなるように、刀を振るっていこう。自分の力で良くなるのなら、いくらでも使おう。そう、心に決めた...

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