1-3 みんなのオネエ?ミラちゃん登場!

 三上魅羅。この学校でオカマやオネエと呼ばれている有名人が、唐突に俺の前に現れた。いや、別段不思議ではないか。彼は基本的に玲司君と一緒にいる。この場にいたとしても、不思議ではない……かもしれない。


「えっと、困ってます」


「ん? ああ、貴方が玲司きゅんの言ってた巽君ね? ヨロシク♪」


「ああうん。よろしく、三上さん」


「ノンノン、魅羅って呼んで?」


 この手の人種は名前を呼び捨てにされないと生きてけないの?何か面倒な体質だな。


「じゃあよろしく、魅羅」


「ええ、ええっと、巽だから……たっつんでいいかしら?」


「ああうん、構わないよ」


「ありがと。それで玲司きゅんなんだけど」


「ああ忘れてた」


「ちょっと酷くない!? 巽君!」


「あ、生きてた。ごめんね」


「軽い! 何か軽い!」


 くわっと上体を起こしてわーわーと訴えてくる玲司君。あれほど騒げるのなら大丈夫か。


「玲司君の背中を押したのは魅羅?」


「ええ、そうよ。でもどうして?」


「玲司君と仲がいい人で真っ先に浮かぶのが魅羅だから。それだけだよ。ねえ、何で背中を押したの? もし俺がホモが、ゲイが嫌いだって言ったらどうするつもりだったの?」


 可能性として、ないことではないはずだ。実際に玲司君は俺に思いを伝えないつまりでいたように思えた。それはそのことを危惧していたから。


「そうね。普通はその可能性があるわ。でも、状況が状況だったから」


「……どういうこと?」


「……あ、待って魅羅、それ以上巽君に言うのは……」


 玲司君は突然慌てだした。でも言葉でしか止めないあたり敵わないとわかっているらしい。俺にすら倒されるくらいだもんな。仕方ない仕方ない。

 魅羅はそんな玲司を無視して俺を見る。どうやら言っちゃうようだ。


「玲司きゅんはたっつんのことストーキングしてたの。それ以外にもいろいろやって、たっつんは少なくとも拒絶はしないと思ったわ。私の感は良く当たるし」


「おい?」


 俺は思わず玲司君を睨む。するとさっきの怖い雰囲気が真っ赤な嘘だと思うほど弱々しく首を振る。


「違うんだ巽君。違うんだ」


「どう違うか説明よろしくね?」


「……好きな人のことは知りたいものだよね」


「確かにそうだけど説明になってないし、知り方がアウトだろ!?」


「正論ね」


 玲司、精神にダメージ。僕だってこんなことしたくなかったんだ……と泣き出す始末である(嘘泣きかもだが)。

 俺の青春ここからどうなるんだろ。いや元々何もない灰色でしたがね?まさかある意味薔薇色になるとは。BLの方の薔薇色は要らないんだよなあ。今すぐ灰色に塗り潰したい。


「魅羅、僕は君が味方だと思っていたんだが」


「勝負をするのなら、たっつんが不利じゃいけないじゃない?」


「いやだからって好感度落とすことないと思うんだ。……仕方ないこの手だけは使うまいとしていたが」


 そう言って、玲司君はファイティングポーズを取る。まさか、本当は強かったりするのだろうかこのイケメン。

 玲司君は魅羅を見据え、駆け出した。この時俺はあんな結末になるなんて、思いもしなかった。

 玲司君は自分の足に自分の足を引っ掛けて転んだのだ。えぇ、それはかなりダサい……


「……さてと、アタシは玲司きゅんを保健室に連れてくわ」


「ああ、わかった。俺は女の子と付き合う手立てでも考えようかな」


「勝負にかなり前向きね? アタシ、たっつんみたいな人好きよ?」


 と、魅羅が俺にウインクを決めながら言ってくる。妙に様になってるのはなんでだろう。


「……こんなのの何処が」


「総受け顔なところ」


「わりかしくそったれ過ぎる理由言うね!?」


「ふふっ、ごめんなさいね。アタシが玲司きゅんの背中を押した以上、たっつんにも協力するわ。上手くいかないようなら他の子紹介するってこともできなくないし」


「他?」


「ええ、そこで伸びてる子とか」


「自分で派手にずっこけた野郎じゃねえか! 女の子紹介しろよ。よって却下」


「ぷっ、あはははっ!」


 いきなり笑い出す魅羅。俺のツッコミに対してそう返されると思ってなかった。


「な、何?」


「ああごめんなさい? たっつん、貴方は少し口が悪い方が素敵よ?」


「口悪くて素敵とか初耳だぞ」


「そうね、確かに。じゃあ今朝はこの辺で。また会えると思うわ」


「だろうね」


 俺は半ばやけくそで言って、ため息をつく。天変地異が起きた後のよう、疲れがどっと出たからかもしれない。


「じゃあね、総受けのたっつん」


「おいヤメロォ! 不名誉過ぎるわ!」


「次玲司きゅんと会ったら呼び捨てにしてあげてね」


「スルーかよ!」


 天変地異の後の嵐が去った。そう形容してもいいくらいの出来事に感じ、俺は疲れたサラリーマンみたいなため息をついた。


 ***


 あの後、教室に入って席に着いた俺は速攻で爆睡した。そして気付いた時には既に三時間目。まあ一睡もしていなかったし、仕方ない。

 三時間目が終わった後、スマホを見るとメールが一通届いていた。小説投稿サイトからだろうか?


『件名:巽君。玲司です』


 見るのをやめた。待てよ。何で知ってるの? 本当に全部知ってるの? 流石に怖過ぎる。しかも俺、メアドは名前とか誕生日とか一切入れてないんだぞ? フィッシングメールなの? いや今時のフィッシングメールもここまでハイクオリティではないだろ。ピンポイント過ぎるわ。

 俺は一旦心を落ち着けてから、再度メールを見る。


『件名:巽君。玲司です

 *****24

 これは僕のチャットアプリのIDだよ、話したいことがあるから追加したら連絡してね』


 ……無視していいかな。でもそれを逃げたと判定されたら困る。これは追加しないとか……普通に嫌。嫌だが仕方ない。


『追加したぞ』


『ありがとう!』


『いや返事早いよ。びびるわ』


 こいつ、ずっと待機してたのか? 学校にいるんだから直接言いに来たらいいものを。


『それで、何?』


『今日の放課後予定はあるかい?』


 ……いきなりデートとかか? いやそれは急過ぎる気がする。


『ないけど、何すんの?』


『巽君に僕と同じ部に入って欲しくて』


 玲司君と? そう打ってから魅羅の言葉を思い出した。会ったらとは言ってたが、まあいっか。俺は君を消して送信する。


『玲司と?』


 ガッシャーンと、遠くの教室で大きな音が響いた。確か玲司は五組だっけ。そこら辺からだが、偶然か? 何か返事も遅いし。もしかして……

 ……いやいや、流石に喜び過ぎてガシャーンとかないだろ。ないよね? そんなことを考えてるうちに返信がくる。


『僕も呼び捨てでいい?』


『いいよ。いいから何部か言って。運動部は流石にパス』


『文化部だから心配しないで。何部かは、お楽しみってことで。ゆるい部活だから! 放課後になったら迎えに行くから待ってて』


 迎えに来るのか。まあ学校一の美女と冴えない野郎が会うのと学校一のイケメンと冴えない野郎が会うのでは……注目度は同じだな。きつそう。

 若干憂鬱を感じながら、わかったと返事して寝直すことに決めた。これから絶対疲れるもん……

 放課後になって、俺は教室前の廊下の壁に寄っかかって玲司を待つ。当たり前だが、今の段階で見られることは少ない。いつも速攻帰るのを見たことある人が何待ってるんだろ? みたいな目線を送ってくる程度だ。

 でも少しずつ、周囲がざわつき始めた。簡単だ、玲司が近づいてきてる。ざわつきの方を見ていると、玲司を見つけることができた。あの金髪目立ち過ぎだろ。

 そんなことを考えていると、玲司も俺を見つけ、凄く嬉しそうな顔をする。あんな風に笑えるのって、羨ましいな。


「お待たせ、……た、巽」


「うん。案内よろしく、玲司」


「やばい鼻血出そう」


「人前だよ? やめてね?」


「うん! よし行こう」


 何というか、散歩に行きたがってる犬みたいだな。そう思うことで周りの目を気にしないようにして、玲司についていった。


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