第2章 接近の夏休み編
2-1 夏休みに突入します!
体育祭が終わると、そこからは何だかんだであっという間だ。七月上旬にはテストがあり、終わってからは終業式前まで午前授業。その間に合宿のことは完璧になり、合宿の日、八月一日を待つのみだ。二泊三日だっけ、楽しみだ。
合宿には何故か咲哉もくることになっている。俺が合宿に行くことを伝えた時、自分も行きたいと言いだした。光の希望で沙和ちゃんも行くそうだし、随分と賑やかな合宿になるだろうという確信じみたものがあった。
そして今日は誰もが待ちに待ったであろう終業式。俺は、佳那芽さんに『夏休みどこか行かない?』の一言を体育祭が終わった辺りから未だに言えないでいる。流石にまずくね?
***
終業式が終わり後は帰りのホームルームが終われば帰れる。今日は部活がないのでまだ先生がきていない今、帰るの少し待ってくらい言わないと本当にまずい。
ふうっと息を吐いて、佳那芽さんの元に向かう。
「佳那芽さん、少しいい?」
「お、巽君。どうしたの?」
「あー、うん。ホームルーム後に少し時間貰っていいかな?」
「うん、おっけー」
「ありがと」
俺はじゃあよろしくと続けて席に戻った。あー、何かすげー緊張した。でもまあ、これで後は誘うだけになる。だから今から始まるホームルームは心の準備の時間だ。
先生の連絡事項くらいは聞きながらホームルームが終わるのを待ち、終わった瞬間すぐに荷物を持って立ち上がる。まあ友達と話してるみたいだからまだ行かないけど。
と思ったけど手招きされた。行くか。
「……いいの?」
俺は隣にいる一人の女の子をちらと見て佳那芽さんに問いかける。
「うん。こっちもちょっと用があったし。それで、巽君は何の用かな?」
「ああ、うん。合宿前でも後でもいいんだけど、何処かに遊びに行かない?」
「それってどこに?」
「うーん」
どこだろう。ショッピングモールくらいしか思いつかねえぞ。遊園地とかに付き合ってない男女が行くのは俺がきつい。多分付き合っててもきついだろうけど。
「ねーね、お二人さん」
佳那芽さんの隣にいる女の子がしびれを切らしたと言った感じに声をかけてくる。てかこの人、体育祭で佳那芽さんに連れていかれたみーちゃんさんだ。褐色肌が大胆に開いたカッターシャツの胸元から覗いているのがまず最初に目に入ってしまった。
慌てて視線を下げると、次は短くされたスカートから伸びる足とガーターベルトが目に入る。あっ、この人目のやり場に困る!
もう見る場所は顔しかない。思ったほどメイクは濃くないようだ。髪は白髪。所々に黄色のメッシュがちりばめられている。大人びた顔立ちにつり目。何処か妖艶さを孕んでいるよう。
「……うける」
「え、何がです?」
「うちのこと見てきょどってないから」
「あー、それは」
確かに胸大きいし太ももはいい感じにむちっとしてるけど……あ、意識するとまずいなこれ。さっきまでは佳那芽さんしか眼中になかったから何とも思わなかったけど。
「まあいいじゃないですか。それで何ですか? 瀬良さん」
無理くり話題を変えると、
「決まんないならさあ、うちと佳那芽の買い物に付き合ってよ」
何でそうなるんだと思ったが、二人っきりでどこか行かない? とは言っていないから文句の言いようがない。
「買い物に、ですか?」
「ちょ、みーちゃん!?」
「いいじゃん、水着と服見に行くだけじゃん。あ、佳那芽は水着は買うの確定だっけー?」
水着……だと……? くっ、凄い行きたい! でも露骨に行きたいオーラバンバン出して行きたいですって言うときもいよな。落ち着け、落ち着けよ天篠ォ!
「ほら、天篠も行きたそうにしてんじゃん」
あーっ、顔に出てるうぅぅ! 俺の馬鹿野郎! 佳那芽さんにもキッと睨まれてるし! ごめん可愛いです!
「ご、ごめん」
「……まあ、いいけど」
マジか。やったぜ。瀬良さんがいるとはいえ、嬉しいことに変わりない。連絡先は知っているのだから合宿後にでもまた遊びに誘うことは可能だ。
「あ、その代わりさあ、宮原呼んでくれない?」
「え、玲司?」
つい嫌そうな声が出た。それを聞いた瀬良さんはくすくすと笑う。
「とりあえず、帰りながらしゃべんない?」
「そうだね、帰りながら話そ、巽君」
「う、うん」
なんでだろ。この場で済むような気がするんだけど。と思いながらもついていく。
帰路について(俺にとっては帰路ではないが)しばらくして、人気が少なくなった所で佳那芽さんと話してた瀬良さんがいきなりこちらを向いた。
「宮原ってさ、ゲイなんだよね?」
「……え?」
なんでバレている? 考えられる可能性を考え、佳那芽さんを見る。その意図が伝わったのか、ふるふると首を横に振る。佳那芽さんがバラしたんじゃないのなら何故?
「えっと、それをどうして」
「んー、BLセンサー」
「は?」
「わ、ちょっと怖いー」
しまった。つい高圧的な返事になってしまったようだ。巽君反省。
「あ、すいません。それでそのセンサー感度良好なんですか?」
「そりゃもうビンビン感じてるよ」
何故か両腕で胸をしたから持ち上げるようにする。わあ、卑猥に聞こえるぅ。
「へえ、すごいですね」
「でしょ? 天篠はBLによくいそうだけど、宮原を性的に見てないし。だから宮原がそっちなんだと思って。それでなんで宮原呼んでほしいかというと、佳那芽が推してるカプを間近で見たいから」
佳那芽さんが推してるカプと言えば、レイ×タ――
「タツ×レイをね」
あ、そっちっすか。いやどっちでもいいけど二人共俺を入れるのやめません?
「みーちゃん、私が推してるのはレイ×タツだよ」
「それは邪道っしょ。天篠がうぶに見えるけど実はこなれてる感があるから攻めっしょ」
いや見た目通りでよくない? 何であえてそうしちゃうかな? ていうかこなれてる感って何? 俺のどこからそれが分泌されてるんだよ。
「邪道なのはそっちだよ。こなれてる感があるのは同意だけど、だからこその受け。巽君が宮原君を積極的に誘うのがそそるんじゃん!」
え、こなれてる感同意なの? だから何処からそれが出てるの? 俺男も女も経験ゼロ……女はゼロではないけどまあゼロだ。あれはノーカン。
ああくそ余計なこと思い出した。とにかく今は二人を止めよう。
「……俺を置いてアクセル全開カーレースを始めないでくれない?」
「「まだアクセル踏んでない!」」
「じゃあ車から降りなさい」
冷え切った目線を向けると、流石の二人でも静かになってくれた。ああ、俺でも止められるんだぁ。
「とりあえず、いつ行くんですか?」
「二十八か二十九がいいねって佳那芽と話してたよ」
「じゃあ玲司に聞いてみるよ」
返事は速攻返ってくるだろうしと予定が開いているかどうかの確認と、買い物に行くメンバーを伝える。予想通り返事はすぐに返ってきて、二十九なら大丈夫だよ。と書いてある。
「二十九日なら空いてるって」
「おっけー決まりね」
瀬良さんは心底嬉しそうに笑う。俺は若干憂鬱なんですが?
「……そういえば佳那芽さん、なんか用があるって言ってたよね」
「あ、うん。紹介しようと思って。合宿にくる私のブレーキになってくれるみーちゃん」
「ブレーキどころか別の車に乗ってアクセル踏みそうになってなかった? 大丈夫? ブレーキとアクセル間違えてない?」
「結構失礼だね天篠って。大丈夫、合宿ではブレーキかけっから」
信用ならねえなんて口が裂けても言えないなあ。ちょっと顔に出すくらいしかできないなあ。
「顔に出てんぞ♪」
「やだなあわざとですよ♪」
「どつくぞ♡」
「二人が怖い……」
……というと感じで、合宿前に佳那芽さんとお出かけできることになりました。二人きりではないが、まあいっか。
***
夏休み初日。俺は家事以外の時間をほとんど宿題に費やしていた。一度後回しにするとギリギリまで全くやらなくなるので、早いうちに済ませようという魂胆だ。
正直つらいけど頑張る他ない。後々楽するためにも!
……数日後、俺はソファーに寝そべってくつろいでいた。もうすぐ咲哉が部活から帰ってくるな。昼飯の準備しねえと。
「ただいま」
玄関から咲哉の声がした。噂をすればなんとやら。
「お兄ちゃん?」
短くキィッと鳴った。リビングキッチンに顔だけ覗かせてるんだろう。俺の姿はソファーの背で見えないだろうからおかえりーと言いながら手を見えるようにひらひら振った。
「夏休み入ったばかりなのにもうぐうたらしてる」
「失礼な、家事はパーフェクトにこなしてるぞ」
「宿題は? もう燃え尽きた?」
「んー、ある意味ね。終わっちゃったんだよ」
「……まじか」
咲哉はあり得ないものを見る目になっている。いや、当の本人も驚いてんだよなあ。
「まあいいよ。シャワー浴びてこい、飯作っとくから」
「りょーかい。ちなみにボクの宿題を手伝ってくれたりは」
「気が向いたらな」
「それ気が向かないやつ」
「よくわかってるじゃん」
くくくっと笑いながら上体を起こし、キッチンスペースに向かった。咲哉はぶーぶーと可愛らしいブーイングをしながら脱衣所に行ったようだ。
昼飯の支度が終わる頃には咲哉が戻ってき、一緒に食ってまたソファーでぐうたらとする。
「お兄ちゃん、抜けてきたね」
「え、何が? 髪の毛? 抜け毛そんなに多い?」
ぼーっとしているところにいきなりそんなことを咲哉が言ってくるので途轍もなく焦る。その様子を見た咲哉はふふっと笑う。え、まじなの?
「違うよ。ああ、髪の毛のことであるのは間違いないけど。色だよ」
「色?」
俺は手鏡を取り出し自分の髪を見る。確かに黒だった髪がかなり黒に近いこげ茶色に戻ってる。そういえば最後に染めたのいつ? 覚えてないな。
「お兄ちゃんの髪、がみがみ言ってくる先生ってお兄ちゃんが中二の時にはいなくなったんでしょ?」
「まー、うん。なんか癖で染めてたんだろうな」
でもここ最近は染みついていたと思ってた癖を忘れてたわけだ。まあせわしいなかったし。これからもっといろんなことに巻き込まれそうだし。そうなるとまた忘れそう。
「大して黒と変わんねーし、面倒だからもう染めん」
「そもそも父さんも母さんも茶色入ってるんだから、真っ黒の方がおかしいよ」
「それ早く言えし」
きっと言われても変えなかっただろうなと思いつつ、適当に返事を返す。
夏休みに突入した。より一層騒がしくなったセミの鳴き声は、何だか俺に警告しているように聞こえた。
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