第三章 激動の二学期編

3-1 ちょっぴり変わった日常

 学校に行くのが億劫だ。おかしいなあ、二学期はわっくわくで行けると思ったのになあ。

 全ての原因は正臣にあると言っても過言ではないと思う。俺への告白に近い宣言をみんなの前でかました。そのおかげで正臣→俺←玲司という構図が完成。ただただカオスになっただけなんだよな、これ。

 俺の都合関係なしにやってくる二学期が憎たらしい。隕石学校に落ちねえかな。そう考えながらも学校に行く準備を着々と進める俺の体。嫌なのに止まらないみたいなのはエロ漫画で十分なんですけど。

 そんなこんなで家を出る時間。咲哉は既に学校に行ってしまい、俺一人。


「はー、学校行きたくねー!」


 そう言いながら家を出て学校への最短ルートを進む俺の体。俺って仕事辞めたいって言いながら結局辞めずに残業たくさんしてそうだな。

 そうできる忍耐を一部つけることができる学校って素晴らしいね!?


 ***


「ぷぇー、着いちゃったよぉ」


 登校中、学校への愚痴を吐き続けていると思考回路がどんどん若返っていき、小学校低学年レベルの暴言しか出なくなり、そのテンションのまま学校近くに着いてしまった。

 どうせなら体も小学校低学年レベルになってくれればいいのに。そしたらおねショタできるのにね。

 そうこうしているうちにはい校門付近。すげえ、超帰りたい。


「巽ー!」


「天篠先輩!」


 ……帰ろうかな。

 既に憂鬱な状態だったのに、更に憂鬱になる二人が俺の元に駆け寄ってくる。彼らが女の子だったらどれだけ良かったか。このたらればに意味などないが。


「……おはようさん二人とも。魅羅はいないのか?」


「魅羅ならそこにいるよ」


「ああ、ほんとだ」


 玲司が指さす方を見ると、魅羅は校門にもたれかかっている体勢で俺にひらひらと手を振ってきていた。佳那芽さんの姿は……ないか。


「とりあえず邪魔になるだろうし行くぞ」


「はーい」


「ですね」


 二人を引きつれる形で魅羅のもとに向かう。その様子を魅羅は何故か楽しげに見ている。


「おはよう魅羅。楽しそうだな」


「おはよう。ええ、とっても」


「まあいいが、どうなろうが俺は変わんねえよ。絶対に負けない」


「それはそれで面白いから、大丈夫よ」


 どう転んでも魅羅にとっては面白いことになるようだ。なんだか癪だが、敵対しないだけマシか。


「今日から部活再開か?今日午前だけだけど」


 玲司に聞くと、ゆっくりと首を横に振った。


「今日から部活再開できるのはそう言う申請をしている部だけ。基本的に部活は明日からだよ」


「おっけ、今日は帰れるわけだ」


「何か用事あるんですか?」


「まあな。咲哉の誕生日プレゼント買いに行くんだ」


 中学の頃から去年まで、何もしてやらなかったからな。欲しい物は(俺以外で)あるか?って事前に聞いてある。それを買って置いてあとは誕生日当日を待つだけの状態にしておきたい。流石にケーキは当日買いだが。


「ねえ巽」


「なんだ?」


「ついて行っていい?」


「あっ、俺も行きたいです」


「まあいいけど。魅羅はくるか?」


 ついでと言ってはなんだが、まあとりあえず聞いてみる。魅羅は少し考えたあと、「行こうかしら」と言った。


「どうせだし、朱野さんも誘ってみたらどうかしら。喜ぶわよ」


「ないって言いたいけど、うん。喜びそうだなぁ」


 主にこの男だけの三角関係に。最悪それを餌に釣る覚悟はある。もう俺は使えるものはとことん使ってやる作戦に切り替えた。二学期は気合い入れねえと男に長い時間絡んでいる暇はない。


「こんなとこで立ち話してないで行こうぜ」


 そう言って先を行くと玲司と正臣が俺を挟むように並んで歩いてくる。これくらいなら何も言うまい。


「放課後はデートか。楽しみだね巽」


「プレゼントついでに遊びに行くだけだからな?いらん事したら普通に殴るからな?」


「わかってます。玲司には何もさせませんから安心してください、天篠先輩」


「いやお前も俺をもらうだかなんだか言ってただろ」


 ジト目で睨むと、正臣はスーッと目を逸らした。この野郎と思いつつ、深くため息を吐く。全く……順調に行く気がしねえ。


 ***


 玲司たちとは途中で分かれ、教室に向かう。欠伸を噛み締めながら教室に入ると、何故かすぐに佳那芽さんと目が合った。まあ速攻逸らされたけど。とりあえず自分の席に荷物を置こう。

 よし、あとは佳那芽さんに声をかければ……


「巽君、おはよう」


「ん?ああ、おはよう華さん」


 突然でびっくりしたが、これまでずっと挨拶しに来てくれてた。二学期になっても継続するようだ。


「雰囲気変わったね」


「まあ黒染めするのやめたからなあ。でもそんなに変わってないでしょ」


「んーん、結構変わったように見えるけどなあ。髪だけじゃなくって雰囲気そのものが」


 そんなにも変わるもんかね。まあいろいろ吹っ切れたり新たな悩みが増えたりしたしな。


「まあうん、変わったかもねぇ」


「あと、こんな風に学校じゃ話してくれなかった」


「……あー、ごめん」


「ああ、いいのいいの!ただ、嬉しいなって思ってるってのを伝えたかっただけだから!じゃ、じゃあ!」


「ああうん」


 嬉しい、か。だから何だ。それに、俺は佳那芽さん一筋。期待する必要はない。さて、朝のホームルームまでは時間あるし行ってこよう。


「佳那芽さん」


「あ、巽君おはよ。どうしたの?」


「今日玲司たちと買い物?遊び?に行くんだけ」


「行く」


「早い」


「巽君もね」


「予期はしてた。被せてくるかなって」


「あはは、予期されてたかー!」


 佳那芽さんは一頻り笑った後、ふうと息を吐いて一つの区切りをつけた。


「今日の午後に行く感じ?ってことは部活は明日からなんだ」


「そうみたい」


「お昼はどうする感じ?」


「その辺は何も。決まってるのは俺の買い物くらいだから」


「じゃあ考えとかなきゃね」


 ここで、予冷が鳴る。ちっ、もうか。体感時間短けえ。


「楽しみにしてるね、巽君」


「ああうん。何を楽しみにしているかは聞かないでおこうかな」


「その方がいいよ」


 満面の笑みで言う。

 ……あー、あぶねえ尊死するかと思ったー。普段から超可愛いのに頻繫に超絶可愛くなるから困る。なのになんでかな、BLが絡んだ途端ときめきが一時的に消えてしまうのは。

 とりあえず自分の席に戻る。授業はまあ、寝て過ごすかな。

 とか思いつつ真面目に授業を受け、気付けば放課後。お昼に関しては一限目か二限目の終わった後にフードコートで食うことを提案して、全員から了承を得た。集合場所は校門。

 俺は佳那芽さんの方をちらと見る。雅さんと話をしているようだ。先に行ってしまうか。

 教室を出て、のろのろと歩く。うちのクラスが最初にホームルームが終わったのか、廊下を歩いている生徒が少ない。


「巽君!」


 佳那芽さんかと思ったが、違う。もう一人、俺を巽君と呼ぶ女子がいる。振り向くと案の定華さんがぱたぱたと小走りでこちらに向かってくる。


「どうしたの?」


「や、えっと、この後何か予定あるかなーって思って」


「ああ、弟の誕生日プレゼントを買いに行くよ。友達と一緒に」


「そうなんだ。ちなみに誰と?」


 なぜそんなことを聞くのだろうかと思ったが別に秘密にしたからってなにかがある訳じゃない。


「玲司と魅羅と佳那芽さんと後輩一人かな」


 正臣に関しては名前を言っても伝わらない。ならばこの情報だけでも問題なかろう。華さんは俯き、少しの間口を閉ざした後俺の顔を見た。


「それ、私もついて行っちゃダメかな?」


「えっ?」


 予想外の言動に俺は驚いてしまう。何故彼女がついてこようとするのか。全くもってわからない。それの顔が華さんを不安にさせたのか、あたふたとし始める。


「別にダメならダメって言っていいよ?なんかやんわりと断る方法考えてるなら特に……」


 徐々に語尾が弱まっていく。そういう解釈をされる顔をしていたのか、とにかく誤解は解いておかなければ。


「ああ違う違う。嫌だとかそういうこっちゃなくてだな、びっくりしたんだよ。えっと、どうしてついてきたいんだ?」


「え!?やーそれはそのー……私!巽君とお友達になりたいなと!おお思っておりまして!?」


 何故かてんぱりだした華さんは腕をぶんぶん振りながら超でかい声で叫んだ。そんなに叫ばなくても聞こえる。てか廊下を歩く生徒の視線が痛い。


「落ち着いて。声大きい落ち着いて」


「ご、ごめん」


「まあ、うん。いいよ」


 懸念はある。光によると華さんはアンチBLだと言うこと。佳那芽さんの攻略を優先したいのは山々だが、場合によっちゃ後回しにしないといけないかもな。


「んじゃまあ行きましょうか。校門で集まる予定だから」


「うん!ありがと、巽君」


「いいよ、礼なんて」


 とにかく、今回ばかりは玲司には自粛してもらうしかない。俺も俺で、攻略する暇がないかもしれないからな。

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