1-4 ようこそ!ボーイズパーク!
玲司と合流した後、魅羅とも合流して俺は二人についていくように部室に向かう。どうやら魅羅も所属しているみたいだ。未だに何をやる部に連れてかれるのか知らないが、勝負はあの時始まった。だが焦りはない。
冷静になって考えれば、俺が男に恋愛感情を抱くことはない。ならば、俺はじっくりと女の子と愛を育めば良いのではと思ったのだ。
フラグに聞こえるだろうがこれはガチだ。BLの当事者だけはごめんだ。当事者でなければ何も文句もないんだけどなぁ。
「たっつん、着いたわよ。ここがアタシたちが属している部活の部室よ」
魅羅が肩越しに振り向いて知らせてくれる。
校舎の昇降口を正面とすると、右側の特別教室棟四階の一番奥。そこにある空き教室が、彼らの活動場所のようだ。
特に派手な音があるわけではなく、話し声が少し聞こえる程度だ。
「じゃあ、巽」
「たっつん」
「「男の友情部へようこそ!」」
「……は?」
ガラリと開かれるドア。いの一番に視界に入った光景は―――
筋トレをしている男だった。え、何? 筋トレ部? 違う男の友情部って言ってた。よくわからんけど。ぽかんと呆けていると、筋肉質の男と目が合った……と思う。確証が持てないのは、彼の目が細いから。多分合ってると思うけど。
「む? 新入部員かね?」
眉が若干上がり、顎に手を当てていて見たことない顔だなと言いたげな雰囲気が伝わってきた。
「あ、はい。いや違うわ、見学? ですかね」
「ああ、君がアマノ巽君か! 玲司から聞いているぞ!」
大きく口を開けてわははと笑う角刈り頭のマッチョ。誰ですか、てか名前間違えてるんだよなあ。
「天篠です」
「おっと、これは失敬! 天篠巽君! 自己紹介が遅れた! 俺は三年の剛野彰人だ! よろしくな! 天篠巽君!」
「はい、よろしくお願いします」
この人、先輩だったのか。まあそれっぽい感じがなかったわけではない。敬語使ってて正解だったな。
「時に巽君。筋トレはしてるかい?」
「え、いや特に何も」
「いけないぞ! 肉体はなあ! 男の象徴だ!」
「は、はあ、そういう考えもありますね」
「それに鍛えておけば年をとっても少しばかり安心度が増すぞ!」
「年取ったこと考えるの早過ぎません?」
これはあれか、いわゆる筋肉馬鹿という奴だろうか。凄いキャラが濃いな。玲司も魅羅も濃いけど。
さて、もう一人の部員さんはどこだろ。俺は魅羅に剛野先輩を任せたとアイコンタクトで丸投げし、部室の奥を見る。
すると、俺を睨んでいる男と目が合った。体はしゅっとしており、目つきが鋭い。茶色の髪の毛はあっちこっちはねまっくていてぼさぼさ。狼少年を連想する全体像だ。
つーか何で睨まれてんの俺。
「たっつん、あの子は一年の日野正臣よ。ちょっと口下手で目つきは悪いけど、いい子なのよ」
ふーんなるほど、と思う。この世界には元々そういう顔で実際は優しい人間がいると聞くしな。彼もその
「そっか、よろしくね。俺は天篠巽」
「俺は日野正臣です。……よろしく、お願いします」
俺が手を伸ばして握手を求めると、正臣君は握り返そうとしてくれる。思わず頑張れ、もう少しだぞって言いたくなるなあ。そんなことを思って油断していると、突然グイッと引っ張られる。そして正臣君は俺にしか聞こえないような声でい囁いた。
「玲司に手ェ出したら殺す……」
「ヒェッ……」
冷たいもので背中をなぞられたように、ぞくりという感覚に襲われる。手は出してないんだけど。手を出されてるんだけどそれはアウトですか!?
と、とにかく俺が勝たねばならない理由が増えた。玲司ルートはデッドエンドだ。
……待てよ? 冷静になれ。それってある意味味方なのでは? 訳を話して信用を勝ち取ればこれ以上ない味方になってくれるに違いない!
「手なんて出さねえよ。俺にそっちの方向の恋愛観はねえ」
「ふん、どうだか。玲司はかっこいいから……」
え、何で頬を赤くして、ま、まさか―――
「え、正臣は玲司のこと好きなん?」
軽く動揺し、思わず呼び捨てしてしまった。だが幸い玲司以外呼び捨てすんな! と言うような過激派ではなかったらしく、更に赤くさせながら首を縦に振った。あらやだ可愛いじゃない。
おっと、思わず魅羅が乗り移っちまった。しっかし、まじかぁ。正臣は玲司が好きで、玲司は俺が好きで、俺はある女の子が好きで、その女の子は正臣が好きみたいな四角形ができそうで怖い。完全片思いスクエア出来ちゃうよ。カオスだよ!
そうなると協力関係は尚更築いておきたい。正臣には嫌われないかつ好かれない立ち回りが必要だな。いや、好かれることはありえないか。
とりあえず優先度がやや高い。が、重要度も高いので失敗しないよう焦らず行くとしよう。
「……そういえば聞かなかったけど、ここってどんな活動してるんです?」
「俺は筋トレだな! それと雑談だ!」
「アタシはただの時間潰し」
「僕は読書が大半だね」
「……俺も本読んでます」
あっふーん、そういう系の部活ね。……なるほどね。
「玲司が俺をこの部に誘った理由は、攻略の時間の確保か」
「ぎくり。いや違うよ、巽と楽しい青春を楽しもうと思って」
「いやもうぎくりって言っちゃってるじゃん。誤魔化せてないから」
「……まあそうなります」
意外とお早い自白だことで。……昔の俺が今の現状を見たら、どうなるのかな。あり得ない! って説教してくるかな。でもさ……
「……楽しそうだからなあ」
「……! 巽、入ってくれるの!?」
あ、これは声に出てたな。俺はふっと、笑みを見せる。
「ああ、お世話になろうかな」
「た、巽ィー!」
ばっと、俺に抱きつこうとしてくる玲司。俺は咄嗟に頭を押さえてこれ以上近づけないようにする。
「流石にそれは」
「何でさ! 男と男とがハグするなんて
「
「そんな!?」
ご勘弁を~と言いながら更に抱きつこうとしてくるも、力が残念過ぎて一ミリも縮まってないように感じる。
「玲司ってさ」
「ん? 何?」
「残念イケメンだな」
「え……僕イケメン!? 巽から見ても!?」
「あー、そこだけに食いつくかー」
そのポジティブさを羨ましいと感じながらも、こいつはやっぱり残念イケメンなんだと確信した。言っちゃうとイケメンの部分だけ拾っちゃうから、もう永遠に言わないけど。
「巽」
「何? いきなり真顔になるなよ」
「ありがとう。ここに入ってくれて」
本当に、心の底から嬉しそうにそう言ってくる玲司。普段、女子が相手だとクールなのに、今は無邪気で可愛い人だと思う。
「何かむず痒いな。いいよ、礼なんて」
可愛い人だと思ってしまったからか、頭をくしゃりと撫でてしまう。すると玲司は少し、顔を赤くした。
「……絶対に僕が巽を幸せにするから」
「勝手に自分で幸せになります」
「照れ隠しはよせやい」
「本心じゃ」
「ていうか、照れ隠ししてるのは玲司きゅんの方よね?」
「ちょっと魅羅、話がある。表に行こうか」
「……転けるなよ?」
「転けないよ! 僕はドジっ子になった覚えはない!」
そう叫んで、玲司は廊下へと出て行く。
……………魅羅は行かなくてもいいのかな。魅羅一歩も動いてないけど。それどころか帰る準備してるけど。
「ちょっと魅羅! 何でついてこないの!?」
十数秒経って、ついてきていないことに気付いた玲司は、勢いよくドアを開けて叫んだ。その横を、魅羅はすっと抜ける。
「じゃ、アタシは帰るわね。お疲れ様♪」
「おう! また明日な!」
「お疲れー魅羅」
「魅羅先輩お疲れ様です」
「うんお疲れー。って、僕は無視か!?」
***
その後、残った四人で何故かトランプをした。俺は玲司だけには負けないという奇跡的な結果でトランプ勝負の幕が降り、解散となった。
家に帰ると二階からどたどたと足音が聞こえる。姿を現したのは、弟の
「兄さん今日は遅かったね」
「部活入ったからな」
「……ふーん」
まあ、弟とはいつもこんな感じだ。まあ、この時代仲いい方が珍しい。俺は晩御飯ができるまで寝ることにし、自分の部屋に向かった。
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