1-8 別にデートの約束なんてしてない
朱野さんに
「あ、巽! 遅かったね、新入部員が来てるよ」
「あ、天篠君。こんにちは。小説はどうだったかな?」
そうか、出会ってしまったか……玲司と朱野さん。出来れば出会わないでほしかった。だって絶対面倒なことになりそうだもん。
俺は思わずその場にしゃがみ込み、はぁとため息をついた。どーなるんだろうか、俺の青春は。先を考えるだけで若干憂鬱になりそうだ。
そんなことを思っていると、不意に腰近くの横腹をちょんちょんと突かれる。しかし、残念ながら――
「巽が弱い所はもうちょっと上、横腹の真ん中お腹寄りだよ」
「おいちょっと待て。何で知ってんだよおい」
「なるほど、実際にした時に確かめたんだ……」
「ねえ、余計な誤解産んでるよ? ねえ玲司?」
「ちょま、いたたたたっ! ご、ごめん! だからアイアンクローやめてぇ!」
朱野さんが妄想の世界に行ってしまったので、とりあえず玲司に攻撃をする。ほんとにこいつは何でも知ってるようだな。言動に気をつけておかないと。
「あ、そうそう、天篠君。小説の感想聞いてなかった。どうだった? 実体験との差異は」
「いやだからね? その実体験がないって言ってるよね?」
本当に何度言えばよいのやら。小説? 是非次は女の子含めて3Pとか書いてほしいものだ。嘘ですそんなこと言う度胸はないです。
「文章力がまずすごかったね。引き込まれる文章ってこういうのなのかって思う。でも、若干BLを神格化し過ぎだと感じるね。非日常的に感じるだろうからこうなるのはわかるんだけど」
「ふむふむ、詳しく聞かせて。実体験も交えて」
「いやだから実体験はないんだが……」
……ん? 待て、それってどこで詳しく聞かせなきゃいけないの? もしかしてもしかするとワンチャンあるのではないか!? 家とか家とか。
「わかった、今度ゆっくりね」
本当ならば断わるところなんだけど、状況が状況だ。受けざるを得ない。ふと視線を感じてその方向を見ると、魅羅が親指を立て、ウインクを飛ばしてきた。なるほど、こうやってチャンスを掴めってことか。
「じゃあ早速ゴールデンウイーク入って最初の日曜日に私の家でどう?」
「……? んん? 日曜に、どこって?」
「ん? 私の家」
「……まずくない?」
「……? 両親いないよ?」
「それむしろアウ――むぐっ!?」
突然魅羅に口を塞がれる。一体何事だ? 大人しく魅羅が何か言うのを待つと、耳打ちしてきた。
「ここは頷いておきなさいたっつん。紳士な精神はいいことだけれど、チャンス到来なんだから日曜日に意識させるくらいまでは行きなさいな」
「た、確かに。頑張ってみる」
「それでいいわ♪」
魅羅のウインクに頷くことで応じる。できるかはわからないが、やらないと俺に勝ち筋はない。
「わかった。日曜日、朱野さんの家に行けばいいの? 道知らないけど」
「んー、なら学校に集合しよ。八時くらいに」
「いや早過ぎでしょ」
創作意欲高過ぎないですかね。いやそれ自体はいいことではあるが、なんせ題材が題材だし、インタビューされるの俺だし。昼には帰るってことならまあなくもない時間っちゃ時間だが。
「じゃあ、十時でどう?」
「ああ、それくらいならおっけーだよ」
「うん、じゃそれで」
……朱野さんの家でやるのはガチなのか。大丈夫なのか? 親が帰ってきちゃう事件が起こりそうで怖い。それがお父様だった時はさらに怖い。ボコボコにされるとかはやめてほしい。
「……いいな」
ぽつりと、小さく呟く玲司。めっちゃ見られてる。
「……何、玲司」
「デートいいなあ」
「ちょ、おま、デートではない多分きっと」
「いや、デートだろう」
「余計なことは言わないでいいですよ部長」
そろそろ玲司もデート行きたいとか言い出しちゃうでしょ! あ、待ってこれはフラグ。
「僕も巽とデート行きたい」
……うーん、これは俺と流れが悪い! 本当にすいませんっした。まじでごめんね数日先の俺。これ玲司とデート行く流れかもしれん。いやね、一緒に出掛けること自体何でもないんだけど、デートと言われると何か抵抗が生まれるんだよわかってくれこの気持ち。
ああもう、拗ねられても困るのは俺だろうし、俺の攻略時間を邪魔しないことを条件に出かけるか? てか普通に誘ってきたらいいのに。先に言われて言いずらいとか考えてるのか?
「……どっか出かけるか? 土曜。来週でも問題ないが」
「行く。今週の土曜日行きたい!」
「……つーか普通お前から誘うくね?」
「二番煎じだったからつい……」
「んなことだろうと思った。それで、どこ行くの」
「んー、ショッピングモール?」
「……意外だな、自分の家選ぶかと思った」
率直に思ったことを言うと、玲司はバツが悪そうに頬を掻いて苦笑いをした。
「ちょっと散らかってるから」
……前に料理以外はそつなくこなせるって言ってた気がするが、まあできるけどしないってパターンなんだろう。それならバツが悪そうにするなって話だけどな。
「……そうか、何時にどこのショッピングモール?」
「学校近くのところに行こ。十時に」
「おけ。その代わりに日曜邪魔するなよ?」
「わかった、約束するよ」
気になることはあるが、言わないってことは聞くなってことだと思う。それよりも、二日連続でデー……遊び約束してしまったな。昔じゃ考えられないや。
ていうか正臣に凄い睨まれてるし。俺は玲司の横腹を肘で突き、耳打ちする。
「玲司、正臣と遊んであげてるのか?」
「何そのペットと遊んであげてる?みたいな感じ」
「大体合ってるから。玲司の後ろ追っかける正臣はまさしくそれだから」
「強く否定できないな。結構な頻度で泊まりに行ったらするよ?」
俺はぐっと正直に思ったことを飲み込む。これは口にしてはいけない。
「……なるほどね。やっぱ俺から誘ったのがダメだったか。正臣に睨まれてんのよ」
「あー、うん。あれは普通に見てるだけだね。昨日泊まりに行きたてだから今日明日は機嫌がいいはずだよ」
「あ、そう……扱い慣れてるな……」
まあそういうことならいっか。それにしても、女の子の家に行くのか。何だか感慨深いな。
……本当に大丈夫かな。
「……いいね」
「今度は朱野さん? 一体何なのこのループ」
「宮原君と二人きりでデート。いいよ、いいホモだね」
「ああうん、はいはい。付いてくるとか言わないでねマジで」
「残念ながら予定があるから。残念ながら」
肩をがっくしと落としてそう言う朱野さん。マジで残念そう。ていうかなかったらこっそり付いてきてたのか? やめてほしい切実に。
「だから日曜日に宮原君とデートをした感想教えてね?」
「だからデートじゃないって」
頑なに否定するも、頑なにデートと言い張られ、これじゃイタチごっこみたいだ。でも肯定するのも違うんだよなあ。
俺はふうと息を吐いて椅子の背もたれに背を預ける。土日はいまだかつてないほど忙しくなりそうだ。
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