心霊
そもそもの原因は、恐らく、リアスとレナの存在だった。
本来この世界に在るべきでは無い魂が、同時期に2つも存在していることが、何かしら世界の不具合へと発展したのだと思う。
規則正しい秩序ある世界に異物が紛れ込めば、
結果として、魔王という存在が世に放たれ、世界の各地で瘴気が発生したり、災害が発生しているのだと思う。
実際、不具合から生じた時間列のズれによって、未来や過去へと流れてしまう者もいるという。そういったことを鑑みれば、異常な能力を持った生物が現れることも不思議ではない。
瘴気とは魔王の根源でもあり、不具合の結晶体でもある。世界には自我が無い。自ら選定し、進化し、行動することが出来ない。
よって、”定められた秩序”に則って善悪、有無害を判断していくのだ。それと同時に、魔力の循環や自然エネルギーの想像も行う。
その過程で生まれた、不具合や不要物、小さなキャッシュが蓄積していった。それを、”自我”と”体”を与えて物体として存在させることで、消去していっているのだ。
今回、リアスとレナが生まれた、存在することによって、世界が上手く対処出来なかった。未対処を放置すればするだけ不具合は溜まり、
例えばそこに、既存の死した魂へ瘴気を与えることで、ある種のリソース削減のような事をしていても不思議ではない。
世界とは常に、何らかの秩序に則り回っているのだ――――。
~異文書から抜粋~
――――――――――――――――――――――――――
「ふっ!」
先手は、俺からだった。心霊を見据え膠着した状態が不味いと判断して、決着を急ぐ。
右手に握った剣を真っ直ぐ空気に反るようにして無防備に持ち、そのまま加速していく。それを見た心霊が、対応するようにヒトの形へと変わっていく。
しかし、腕が4本ある。俺と少女が同時に攻めても対応できるようにか、それとも別に何か理由があるのか。
流石にそこまで推測していると攻撃に集中出来ないので、今は目前のみを見据えることにした。
幸いなことに、敵への初撃はほぼ確実に当てられる。いや、当てる。だからこそ、強いのを貰ってもらうことにしたんだ。
(【
今世で使うのは、これが2度目の技だ。簡単に説明するなら、”明日の力を借りる”技。
武器へと魔力を込めて、一振りの火力を上げるための技であり、その名の通り諸刃でもある。なぜなら、この技に込める魔力とは、未来のものだから。
少し先の未来、例えば明日にでも〝本来あるはずの魔力〟を、今へと借り受けて放つ。
それによって発生するのは、自然的な魔力回復の消失。つまりは待っても回復しなくなるのだ。しかしそれでも、一撃の火力ならば並みの攻撃力を捻じ伏せる。
「アアアアァァァアァア!!」
今にも折れそうな淡い金色を輝かせる剣に、さしもの心霊も警戒しているようだった。
前述したとおり、この技は武器への損傷も激しい。元から魔力の許容量があり、それを過剰なまでに超越してしまうからこそ、ほとんど一撃で武器が破壊されてしまうのだ。
武器も魔力も尽きる剣、だから諸刃の剣。これを避けられれば為す術が無くなる。
それを分かっているからこそ、心霊も距離をとっていく。封印状態の俺の速度では追いつけない。
――そう、《俺の力》では。
―――Bang!
音速を超えた弾丸が、下がろうとする心霊を貫く。同時に、赤色の鎖がその体に巻き付いた。
移動阻害の弾丸だ。数秒の間しか効果は無いが、しかしそれで充分。
「はぁッ!」
裂帛の声と共に、俺の右腕が霞んだ。数舜の後、風圧と共に剣の軌跡が見えた。
――――ッ!!!
「ア……? ア、アアグウワアアアアアア!!」
悲鳴か、怨讐か。どちらとも取れない叫び声と共に、心霊は薄く透けていく。
こいつらに生物としての死は無い。物理的、魔法的なダメージは全てその恨みや妬み、苦しみや怒り、悲しみといった感情を浄化させていくのだ。
そして、今の一撃でこいつの感情のほぼ全てを削り切った。思いの強さはそのまま生物としての強さに繋がる。
今の心霊は、もはや赤子にすら倒せるほどの残留だった。
「……」
ヒュンと、金切り音を残して心霊の姿が今度こそ消えていく。最後の一撃は、少女の狙撃だった。
(……さて)
沈黙が舞い降り、無言の時間が続く。やがて静寂が満ちる頃、俺は口を開く。
「攻撃してくる様子も無いみたいだし、話して大丈夫か?」
「……」
「無言は肯定だな」
「……」
「よし、まあ多分気付いてると思うが……お前、レナの知り合いか?」
「ええ」
深い溜息。嘆息とも言えるな、を吐き、どうしようも無い感覚を味わい。
いやほんと、さっきまでの真剣さを返して欲しい。
「それで、レナは?」
「……」
「……?」
嫌な予感がした。
「おい、一緒じゃないのか?」
「……違う」
「ッ!?」
(嘘だろ……いくら気配察知が使えない状況だからとはいえ油断し過ぎたな……)
一部の迷宮の中では、気配察知が働かない。正確には、迷宮内に不規則な魔力が流れているために反射されない。
そのせいで、迷宮内で気配察知を頼ることはされない。
「それで、今どこだ?」
「……」
「……ッ! おい」
「!」
苛立ちが募っていく。早くしないとダメなんだ。この迷宮は、この迷宮だけは。
かつて古の時代にも存在した、唯一の迷宮にして、最も謎多き迷宮が、此処。
その中でも最もとされる場所が、150層にある、禁断の道だった。
「どこだ?」
「……!」
少しの静寂。
後に、やがて少女は口を開いた。苦渋と後悔を感じさせる、儚い声だった。
「《370層、イケニエの間》にいる」
現在、149層。残り階層、221層。
転生した覇王は幻想魔法で無双します!―覇王英雄記― 抹茶 @bakauke16
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