決着と服従の覇王



 

「「ごめんなさい」」

「…ったく、喧嘩するなとは言わないけど、もっと静かにやってくれ。洞窟が崩壊したら、俺たちの住む場所なんて無いんだからな」

「「はい……」」


 結論から言うなら、決闘は引き分けだった。

 と、いうのも、目の前で困り果てた顔をしている男性――龍人族の長であるクドニルさんによるものだった。

 

 洞窟の壁に俺とレナが激突し過ぎたせいで、洞窟を支えている本柱の1つにヒビが入ってしまったのだ。

 洞窟こそが生活の全てである俺たちにとって、それは死活問題どころではなかった。正直、俺たち同士で謝るだけで済んだのは、主に俺が誠心誠意込めて修復したからだ。


「にしても、龍神水晶柱ドラゴ・アルトロースは魔法にも物理にも有り得ない程の耐性があったはずなんだがな……。やはり、覇王とはそれ程なのか?」

「抵抗力は半端なく強かったけど、直せない程でもなかったかな」

「恐ろしいもんだな……」


 綺麗に元通りになった本柱を見て、クドニルさんは感心したように頷いた。

 普通なら、怯えたり警戒したりするものだが、この種族に限ってそれは無い。なぜなら――


「やっぱり、リアス君から見ても皆は強いの?」

「うん……俺の全力じゃあ、全員は無理だと思う」


 【幻想魔法ニア・マジック】の本領を出して、魔法も全開、【龍化】を使用すれば、《龍化を使用しない龍人族全員なら相手にできる》。

 しかし、龍化したならば無理だろう。しかもしれは、圧倒的なまでの差で。


 元より、俺たち龍人族の力の根源となる龍力は、成長とともに増加、増強、成長していくものだ。

 そして、遥かに長い生命力を持つ俺たちの大人となれば、それは下手をすれば数千ねんの年を数えた者までいるのだ。


 そうなれば、俺とその人との龍力の差は俺が1とすれば相手は200ほど。


 龍力1が国1個分を軽く補える力だと考えれば、その力の差は歴然だ。しかもそれが、大勢となれば話にならない。

 なによりも、俺の隣で微笑む彼女――レナが敵になれば龍化してなくても厳しいだろう。


「ふふっ。《私の》リアス君っ」

「……」


 うん、可愛いな。

 

 ってそうじゃなくて、この状況になった理由に納得がいかない。生活の根本となる本柱を傷つけたとして、即種族全体の会議となった時に、俺たちの決闘理由をレナが説明したのだが……。


(なんでか、女性陣は皆して俺に残念そうな目をしてきたんだよな……)


 本当に。悲しいくらいに残念そうな目で見られた。……俺、つらい。


 っと、そんな茶番はどうでもよくて、それよりも本当にこの状況はつらい。何がつらいって? レナが可愛いことが辛い。

 この可愛いという言葉、俺個人の意見ではあるけれど、種族としても抜きんでて彼女は可愛い。

 

 それに対して、俺は平々凡々だ。普通の少年、どこにでもいる少年。

 そんな顔立ちである俺が、隣に種族トップの美少女を連れ立って歩けばどうなるのか。


 恋愛小説を読まない皆さんでも、もうこのテンプレ展開は予想できたでしょう。さん、はい!


「おいガキ。隣のレナさんを俺たちに貸してもらおうか?」


(……はぁ)


 めんどい。ただでさえ、人物評価得点謎のポイントが減らされてこんな状況になっているのだ。

 このポイントという奴、仕組みは謎過ぎるのに種族全体に共通の掟として認識されていて、絶対強制が課せられている。


 ほとんど、というよりも俺以外の全員が等しく同じポイントだが、今回のように特別な事件が起きて、問題のある人物だと判断されたりした場合、ポイントが減点される。

 約、《10年》ほどで1ポイント溜まるのだが、それまでは一生そのままだ。ポイントの低い者は、そのまま身分に繋がる。


 ポイントの高い者への指図は不可能。ポイントの低い者は、ポイントの高い者の言う事をある程度聞かなくてはならないのだ。


(……はぁ)


 しかし今回、それは少しばかり特別な条件でポイントは下がっている。


(レナに対してのみ、服従管下に置かれる……何でだ……)


 なぜか女性陣の強い(強過ぎる)要望(命令)により、特別(強制的)にそう言われた。

 これから10年間、俺はレナに対してのみ服従の義務を持ち、レナは俺に対してのみ、権限を持つ。


 そんな、レナに縛られる状況になって、彼女は――


「ふんふっふーん♪」


(上機嫌だな……それもかなり)


 目の前に屈強な男が3人もいるというのに、彼女はさらに笑みを濃くするだけ。

 その姿を見て、男たちが下劣な笑みを深めていることに気付いているのだろうか。


 その上で、彼女は少し考えて――


「ひっ、リ、リアス君……私、怖い……」


(いやレナの演技が俺には怖いんだが……)


 完璧に本物そっくりだ。演技だと見破られようはずがない。なにせ、彼女は俺の腕に抱きつくようにして背中へと隠れたのだから。

 その上で、震え声で《囁かれれば》、それはもう一種の暗示にも近い。


(……はぁ。ほんとに……)


 どうしてこうなったんだ。


「【純極木刀】」


 気乗りしない思いが増える中、俺は凶器を振るった。


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