決闘(5)



 その拳は要塞を吹き飛ばし、

 その速度は音すら置き去り、

 その皮膚は万理から守る。


 【龍化】によって、半龍となった俺とレナは、幾重にも残像を乱しながら拳を打ち付けていた。


「ふっ!」

「ッ!」


 拳を突き出す度に小さく息をもらすレナ。それに対して、俺は未だに健全だった。

 それどころか、戦い始めの当初よりも力が漲ってきていた。


「ッ、よ…っと!」

「きゃあ!」


 可愛らしい声を残しつつ、洞窟の壁へと激突するレナ。背負い投げの要領で投げ飛ばしただけだが、上手く飛んでくれた。

 小さくその場で小刻みにステップを刻みつつ、俺は再び拳を構えた。





(強い、なぁ……)


 戦い始めた時から思ってたけど、やっぱり彼は強かった。リアス君――私の幼馴染にして、不思議な少年。

 いろいろと気になることはあるけど、気を抜いた瞬間にはこれだ。


 背中に走る痛みに、思わず龍の硬さを疑いたくなるけれど、相対するのはあのリアス君だ。

 自らを覇王と名乗り、日々鍛錬をしていた彼の力に、龍の恩恵がもたらされたから、もう私には厳しい。常時的にチートを使っていないと、まともに打ち合えない。


(しかも!)


 彼はあまつさえ、段々と活気を増してきているのだ。その瞳に宿る闘志が、未だ余裕を残していることが、私にはわかる。

 なにせ、彼は得意な魔法も剣も使わずに、ただの武術だけで私の力に拮抗、いや、勝っているのだ。


(もう、ホントに自信無くしちゃうよ……)


 ゆっくりと立ち上がりつつ、私は煙に包まれた前方を俄然と見つめた。

 ぼんやりとした視界の先に、小刻みに跳んでいる彼の姿が見えた。その瞳は、真っ直ぐに私を貫いている。


 勝てるなんて思ってない。それでも、ただ負けるだけなんて嫌だ。


(何か……って考えても、答えは1つ、だよね……)


 彼に対抗するには、チートじゃないと無意味だ。その証拠に、付け焼刃の武術では、軽くあしなわれただけだった。

 

(だったら……!)


 【転歩】を発動する。指定先は――






 

 前世の世界でも、これ程の強者はほとんど居なかった。それも、この歳で。

 俺の知識の中でも、上位に組み込まれる程の力を《魅せる》彼女に、嫉妬する。前世の俺では成れなかった。


 俺の見れなかった頂きに、彼女は昇れる力を持っているのだから。


(まだ、こんな子供みたいな感覚があるのか……)


 勝ちたい。負けたくない。何よりも、俺自身がそう叫ぶ。強い敵、賢い敵、その何よりも今、俺は彼女に勝ちたかった。


――瞬間。


(!ッ、どこだ?)


 彼女の姿が消えた。今日だけで何度も目にした、移動系統の力。察知は不可能。しかしそれも、【幻想魔法】の中では無意味。

 つまりは、唯一懸念していた《解呪方法》が見破られてしまったと考えた方が良いだろう。


 静寂が支配する中、小さく頬が撫でられた。


…………〝死〟!


 ザシュッ!


「ッ!」


 鮮血が、左の視界を埋めた。

 生暖かい感覚の次に、鋭い痛みが全身を貫く。左頬を、縦に切り裂かれた!


(……いない……!)


 そしてまた、彼女の姿は虚空へと消える。


「【耐性レイド】【解毒キュア】【治療ヒール】」


 高速で魔法を唱え、傷を癒し、毒を消し、2度目の毒へ耐性を整える。

 木刀を正面に構えて、次なる急襲へと備える。彼女の攻撃は、決闘当初の一撃離脱と同じ戦術なはずなのに、結果は目に見えて変わっている。


 戦いの最中で、彼女はさらに1段階進化したのだろう。


(落ち着け……。思い出せ。彼女は今までどうやって攻撃してきた?)


 未だ【火焔鎧の装飾フレイム・オブ・アクセ】の効果は残っている。纏われた炎のダメージは決して大きくは無いが、何度も受ければ消耗するのは向こうなはず。

 ならば、考えるのは一撃の攻撃力を上げるか、炎に最低限しか接触しないこと。


 彼女なら――


(後者だろうな。なら、必ず回避行動を一瞬で取れる選択をしてくるはず……)


 先ほどの一撃は、俺が油断していたがために必ず避けれると踏んだためか、反撃のし易い位置から攻撃してきたと思う。

 よく考えられている。前世で戦ったならば、間違いなく苦戦を強いられただろう。


 けれど、俺も転生をした。記憶も能力も知識もあって、負ける訳にはいかない!


 風の音だけが響く中、先に動いたのは――

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