終点






 (簡易)ステータスはまとめ用で、本編に関わりは現時点では御座いません。






 ふぅ、と。静かに吐いた息が宙に霧散していく。辺りの壊滅的だった惨状も、全てが消え去っていた。残っているのは、異形の怪物が残した小さな宝珠の僅かな輝きのみ。


 《勝負》は戦う前から決まっていた。俺の魔法に魔王が呑まれた時点で、負けは揺るぎなかった。

 唯一、レナだけは例外だ。今ならわかるが、彼女の”力”はこの世界の人間では到底超えることのできない次元にある。そんな意味でも、魔王の野望は達成出来なかっただろう。


 久しぶりに多くの魔力を消費した爽快感に身を包まれながら、視線を横に向ける。


 魔王と、異界の魂。その存在は、まるで御伽噺おとぎばなしのように敵対しあう。

 魔王には、知識と魔法の叡智、何よりも極限の絶望が宿る。

 異界の魂には、神の力と、強大な仲間が宿る。


 互いが共鳴するかのような対極の存在は、近づくと同時に優劣が決まるのだ。今回、この世界に来て間もないレナの魂は大きく劣っていた。

 圧倒的な魔王の質量に対して、レナは儚く脆い。だからこそ、魂は代償という措置で延命を施していた。


 絶対的な悪夢。本人にとって、何よりも恐ろしい概念に囚われることで、彼女は生きているのだ。本来ならば、魔王が近寄るだけで消滅したであろうに、だ。



 家の中からは、禍々しい瘴気が今も尚漂ってくる。魔王の因果、残滓、そしてレナの恐怖。


(世界は、混沌に呑まれつつあるのかな……)


 誰にともなく、そう思う。それと同時に、きっと、何かがあると、そう思う。既に前世は超えた。

 これから先を進むのは、リアスという少年で、覇王という悪魔は贄となった。


 そっと近寄り、瘴気の中の彼女に触れる。最も恐れているモノを視るために……。



――ほら、同じじゃないか。


 彼女だって、俺と同じ恐怖を抱えている。前世と今世、因果も運命も存在しない数奇の奇跡で起こった今の状況。

 彼女は偉大なる魂、神によって招かれた魂。けれど、今はまだ幼い。今はまだ、俺の方が高みにいる。


 だから少しばかり、自分の心に先にケジメをつけるのだ。


「なぁ覇王、いや、〝幻王〟。俺はリアス、お前は幻の王。その記憶と力は譲り受ける。だから、安心して幻想を魅せてくれ、お前の観ている世界は、少しの間俺が貰い受けるよ」


 誓う。そして、封印する。幻の王たる彼が築いた魔法の頂点、【幻想魔法ニア・マジック】はいったんお休みだ。

 声が二つ、木霊するように響き渡る。


「『汝 我が力有りて生きざる得ぬ者』」

「『我 汝の力を譲受し永らえる者』」


「『我らは陽であり陰である』」

「『全てを欺き、全てを嘆く』」


「『今は汝に託そう、そして、魅せよう』」

「『今は我が貰おう、汝の観るモノを視よう』」


「「『与受封印』」」


 ――――――


 リアス・テネ・トレイト(覇王)


 職業 幻術使い(幻王)

 状態 与受封印 転生魂

 能力 幻術の卵(幻想魔法)

    龍化

 魂力 自身全能力1/400

 称号 ****


 ※封印状態ステータス。()内は封印解除時ステータス。


 ――――――




 







 昔から、人が怖かった。母さんから聞いた話だと、幼い頃に誘拐されたことがあるらしい。

 2日3晩拉致され、救出されたときは死ぬ寸前だったという。その時から、極度に人を苦手になった。


 私にとって、世界とは残酷だった。父が他界してから程なく、母さんも他界した。私は1人になった。

 

 口々に「大丈夫かい?」「私の家に来なさい」「ゆっくり過ごしていいんだよ」と声を掛けられた。誰も彼もが初めて見る親戚ばかりで、まるで醜い家畜のようだった。

 私の世界に、色は無かった。


 そう、全ては夢で。私は無様に生きようとした哀れなナニかで。世間という檻に無価値と投げ捨てられた異端者。


(もう、全てが終われば良いのに……)


 暗い暗い、何も無い場所でただ1人。





――わ……そ……。……き……。……。


 灰色に染まった視界の中に、真っ黒の闇が広がる。無機質な空間に包まれて、このまま終わればと何度も願う。




「のぅ小娘、なぜお主はそんなにも世界を恨むのだ?」


(だれ……?)


「ほほぅ? 確かに、魔王は全てを滅ぼしおった。その犠牲の中に、お主の父母も居ったのだろうな。辛いじゃろう、辛いじゃろう」


「じゃがな、儂はお主の父と母に感謝しておるのだ? ……えぇ? 何でかって、そりゃあ簡単じゃよ」


(何なの……?)


 暗い海に、声が届く。懐かしいような、見知らぬ声。相手は……わからない。私じゃない、誰か。


「お主に出会えたんじゃからな。こうしてお主と話し、旅をし、そして寝る。知らんか? 儂は世界で最も憎まれているんじゃよ、なのに見ろ。お主の隣に居る儂は今、世界で最も幸せじゃ。それ以外にいったい、何を望むというか」


 すっ、と。胸の奥に何かが入り込んでくる。真っ黒で酷く穢れた心に、優しい何かがなだれ込んでくる。


「ほっほ……何を泣くことがある?」


(な、く……?)


「そうじゃよ、ほら見てみろ。その、お主が生きている証を」


(生きている、証……)


「お主が世界の全てを恨んで居るのはわかった。お主が世界の全てが嫌いなのもわかった。お主が今すぐに終わりたいのもわかった。じゃがな、残念なことにそれは無理じゃ」


「ん? ほっほっほ……そう敵視しよるな……。何、難しい話じゃなかろうよ……ただ、儂がお主に生きてほしいんじゃよ」


(生き、る……)


「儂の友が言っておった言葉をお主にも教えてやろう」


――『がむしゃらに生きて、誰が笑う? 悲しみきるには早すぎる。だから僕は自分に言い聞かせる、〝明日もあるしね〟』


「お主が味わった絶望はどの程度か? それは儂が何億年の生で味わった絶望よりも上か?」


「そう怖い顔をするでない。ほら見なさい、遠くから声が聞こえる。お主を呼ぶ声であろう? お主は何に拒絶されたんじゃ? お主は何に絶望したんじゃ? お主を必要とする者はこれほど多くおるでないか。そう自分を卑下するでないぞ」


 嗚呼ああ……


 浄化されていく。霧が晴れていく。霞の掛かった視界が僅かに光輝き、夜が明けるように染まっていく。

 闇を侵食する光の眩しさが酷く目に焼き付く。


(視界が滲む……)


 私と、私。今なら、分かる。


――『リアス・テネ・トレイト、それが俺の名前だ。宜しく、レナ』


 私を待つ人がいる。私の大好きな人が。


 そっと手を伸ばせば、ほら、僅かに恥ずかしそうに、手を取ってくれた。

 今だけは、今だから。少しだけ、《私》の夢を叶えさせてね、《レナ》。


「私は、リアス君が大好き……!」




――【異魂盟約】




 ~後書き~


  ――――――


 レナ・トワレイス(春風 寧々)

 

 職業 ****

 状態 転生魂 異魂盟約

 能力 残影飛翔

    残影転歩

    残影召剣

    龍化

 魂力 干渉耐性 対極存在

 称号 影を司る者

    ****


  ――――――


 レナ押しだから全力でチートぶっこんでいきます!(笑)

 次話は閑話で用語説明を挟みます。


 ※設定矛盾の編集等のため、話が変わる場合があると思います。

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