VS魔族

ストック切れたので、のんびり更新します。気長にお待ちください。







「【龍瑛双斬】!」

「【身代り生贄パラケトラ】……ケヒヒヒヒッ!」

「チッ」


 空気を揺るがす鋭利な攻撃が、嘲笑とともに空振る。苛立ちとともに、舌打ちを残す。

 切り裂かれたはずの魔族は、遥か後方に位置していた。


「サァサァサァサア? 愉シミマショウヨォ? …【魅了御猟チャーム・カフス】」


 戦士団長の視界が一瞬歪み、目前には最愛の妻がいた。


「ッ?!」


 当然のように追撃は止まり、振り上げた双爪は寸でで止まる。


――ニヤリ、と。


「【紫電アポロ】……愚カデスヨォ?」

「グッ!」


 最愛の姿で。魔族はただわらっている。高出力の雷を一身に浴びた戦士団長は、麻痺の要領で膝を着いた。

 どんなに強靭な体であろうと、瞬間的な強力な攻撃には耐えきれなかった。


 目前で倒れ伏す男を見て、魔族はただ告げる。


「馬鹿バカリデスネェ? 愚カ愚カ。ソロソロ死ニマスカァ?」

「舐、めるな……!」

「怖イデスネェ……【身代り生贄パラケトラ】」

「ッ!」


 毎度同じ。根性にものを言わせて一撃を放った戦士団長。しかし、ただ空を斬るだけ。

 敵の動きがわからない。何らかの魔法だということだけで、その事実はどうしようもない虚しさしか生まない。魔法への干渉は、魔力を伴った行動でないと意味を為さない。

 

 『龍力』を極限まで行き渡らせている戦士団長に、魔力を放つことは厳しかった。


「チィッ!」

「オットォ」


 焦りはさらに行動を単調にする。


「疲レテキマシタカァ? 随分ト根性ノ無イヨウデスネェ?」


 怒りは無駄な力を生み出す。


「アァッ!」

「ドウシマシタカァ? ソンナ攻撃当タリマセンヨォ?」


 いとも容易く回避する魔族。その余裕と煽りが、戦士団長の心を蝕んでいく。


 既に戦いは長期戦へと持ち込まれていた。周囲の部外者は余波から逃げ、攻防を怯えて見るだけ。

 刻々とダメージを負い、力を失い、何よりも最大の武器である【龍化】が長くは持たないと、戦士団長は、僅かに残っている精神ではっきりと感じ取っていた。


(いちかばちか……)


 チラリと、彼は視線を背後へと向けた。戦いの最中、唯一折れること無く実行してきたのは、位置取りだった。

 背後の家の中だけには、踏み込ませる訳にはいかなかった。近づかせる訳にもいかない。


――そこには、最愛の家族がいるのだから。


(躊躇ってる場合じゃないッ!)


 決心は付いていた。相対する魔族は、未だ口角を大きく吊り上がらせた状態のまま、嘲笑あざわらうように立っていた。

 戦士団長の、変化を感じ取ったのか、魔族は少しばかり後退する。


「オヤオヤァ……? シブトイトハ思ッテイマシタガ、今度ハ何ヲスルツモリデスカァ?」

「答える義理は無い……!」


 話しを打ち切るように戦士団長は加速し、一気に魔族との間合いを詰める。僅か半歩進めばその偽りの肉体へ剣が届く。



 その瞬間。


「【火種】!」

「ナニッ?!」


 前言の通り、戦士団長は【龍化】に大きく力を割いているために魔法は使えない。が、その力を少しばかり弱めれば――


「はあッ!」

「クゥッ!」


 戦士団長の爪が、魔族を一文字に切り裂いた。そのまま、さらに踏み込んで切り掛かる、が、


「ガアァッ!」

「くっ!」


 抵抗する魔族は、両腕を強引に振り回した。【龍化】への力を弱めた騎士団長では、無傷とはいかない。

 速度も威力も、防御力すらも上昇させていた【龍化】の恩恵が今、切れたことを示しているのだ。


 そして、それを悟ったかのように魔族は再び笑みを浮かべる。


「オヤオヤァ? 随分動キガ遅イヨウデスネェ?」

「ちィッ!」


 魔法によって魔族を妨害しないと、攻撃は当てられない。しかし、それによって強化が弱まった状態では、防御が足りなかった。

 だがしかし、渾身の一撃が無駄に終わった訳でも無かった。


(明らかに遅い……これなら、まだいける!)


 先ほどよりも、3割程動きが遅かった。魔族への傷は浅くなく、無視することもできないのだ。


 一合、二合、爪と腕がぶつかりあっていく。

 アリシャ姫の体は、素体からは考えられないほどに強靭であった。強化具合は高くないが、それでも強力な【龍化】を前にして、平然と渡り合っている。


 魔族に乗っ取られた影響で、既に人為らざる者へと変えられているのだ。


「はああぁぁぁぁ!」


 奮武の声を上げながら、戦士団長は己の信じる強さで戦う。時には初歩魔法の【火種】で牽制しつつ、爪で引き裂く。

 しかし、対する魔族は未だ余裕の表情で防ぎ、カウンターの如く魔法を放ってくる。そのどれもが速度重視なためだけに、騎士団長は抵抗できていた。


 だが、このままではいけない。先に【龍化】が解除されれば、負けるのは騎士団長の方。

 対して、魔族は手の内をほとんど明かしていない。その上、時間制限も無いのだから。


(皆は……やはりダメか)


 先ほどから、戦士団長は周囲の同族を探しているが、反応は無い。つまり、意識が無いか近くには居ない、または魔族の仕業。

 3つ目だろうと当たりは付けているが、それでどうにかなる訳でも無い。増援が期待出来ない以上、彼は己1つで勝つしかないのだ。





――そして、


「くっ?!」


 【龍化】が限界を迎えた。

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