魔族




([上位森人ハイエルフ族]と[銀狼フェンリル族]の軍隊? ……不足の事態のようだな)


 レイドレア・トワレイス。レナの父たる戦士団長。彼が学んだ歴史の中で、この2種族が手を組んだという出来事など無かった。

 それ以前に、この〝龍神冥窟ドラゴ・テテネレート〟に他種族が侵入すること自体が異常事態であった。


 龍神冥窟というのは、最古の龍が眠りに着いた地とされ、豊富な魔力と龍力の2つが混在しあった場所を示している。

 中央に空いた大穴からは絶えず魔力が溢れ出し、地上の生き物へと魔力を供給している。逆に、龍力は洞窟内に留まり、莫大な”力”の塊となっていた。


龍人ドラゴニュート族]はこの環境の中で生きるために龍の力に適応し、龍力を吸収することの出来る器へと進化してきた。

 地上では反対に魔力に耐え得る身体へと、他種族は進化していき、魔力を蝕むとされる龍力への耐性を弱めていった。


(龍力とは、他種族にとっては本来有り得ない程の毒となったはず……いや、その上での《巫女》か)


 他種族がこの洞窟内に入れないのは、その身体が洞窟内の龍力によってほんの数秒で朽ちてしまうからだ。しかし、目前の2種族に影響は見えない。

 彼の視線は、自然と先頭に立つ少女へと向けられていた。


――巫女。


 別名は森の精霊とされる、[上位森人族]の中でも僅かな存在だった。

 種族としては同一だが、巫女には特殊な力がある。それは、それぞれの巫女によって変わるが、どれも強力無比だという。


(おそらく、彼女の能力は龍力を無効化または軽減、それか一時的な龍力への適応なのだろう)


 そう予想を付けて、狙いは定まった。


(巫女から潰す)

 

 そうすれば、残りの烏合の衆は自ずと息絶える。彼の得意とする戦いは、一対一だが、集団戦を想定した戦いをしてこなかった訳でも無い。

 小さく息を吐き出し、大きく酸素を取り込んだ。体中の血管まで酸素を行き渡らせ、血脈を活性化させていく。




――唐突にだが、【龍化】という能力について、リアスの知らないことがある。


 本来、【龍化】とは[龍人族]に宿る『龍力』を、”龍門”を媒介にして皮膚を変化させる力だ。その性質上、『龍力』が強く多い程【龍化】時の能力は飛躍的に増加するが、代償として龍門の処理限界も早くなる。

 つまりは、効果と使用時間は反比例の関係にあるのだ。


 しかし、先人たちがその程度で諦めた訳でも無い。娯楽に飢えた龍が研究という獲物を逃すはずもないのだ。

 そして、編み出した。効果時間が長く、効果も大きい【龍化】の進化形を。


「すぅ……はぁ……すぅ……」


 深呼吸。戦士のソレは『闘呼気』と呼ばれる《技術》の1つ。普通の呼吸よりもさらに効率良く体内を巡る酸素が血脈を刺激し、活性化していく。

 その過程の中で生まれる、魔力の活性化。普段、龍人にはほとんど存在しない魔力が、体中を駆け巡る。


「はぁぁぁぁぁぁぁ……!」


 魔力が巣食う身体に【龍化】を使用する時、『龍力』よりも先に『魔力』を感じ取った龍門が、急激に龍力を精製していくのだ。

 よって、龍力の全体量が大きく上昇すれば効果時間に割くエネルギーも充分に生まれるという訳。勿論、さらに効果の大きさに注ぎ込むこともできる。


「【龍化】」


 眼下に佇む矮小な存在を、全て蹴散らすために、彼は使用時間に大きく力を注ぎ込んだ。

 その皮膚は万物から守り、傷を与える。その腕は龍の鱗を穿つ。その力は――


「……ッ【森人の守護エルフ・トレア】!!」

「え、きゃぁッ?!」

「っ!」


 戦士団長の姿が消えたと同時に、アリシャ姫に対してセルレト皇子は魔法を掛けた。その一瞬後に、アリシャ姫の姿が消える。

 同時に、セルレト皇子の後方にあった柱に何かが激突し、ガラスの割れるような音が響いた。

 土煙の中から現れたのは、彼らの想像した通りの化け物。[龍人族]の中で最強を《担う》存在。


 連中の顔に、恐怖が浮き彫りになる。それを冷たく見下ろしながら、戦士団長は静かに闘志を男へと向けた。


「ひっ!」

「まず1人」

「――」


 先頭に立っていた、もう1人の存在。セルレト皇子は、彼の一撃で倒れた。致死傷ではあるが、回復を施せば死なない程度。

 力加減を確認するように、彼はその後も連中に向けて拳を数回放った。


「……難しいな」


 その度に、多くの《敵》が吹き飛び、山積みになる。何度か繰り返した後、彼は再び姫を見据えた。

 茫然とする彼女の顔を見ながら、彼は拳を――


「私ヲ忘レナイデクダサイネェ?」

「ッ!」


 突如、背後から聞こえた声と、強烈な殺気を一身に浴びて、彼は飛び退った。

 声の主はそれを見逃すように、危害は来なかった。がしかし、代わりに姫の身体に近づいていく。


「何を……!」


 その不気味な様子に、思わず彼は再びの接近をする――が、


「遅イデスヨォ?」


 紫の体を持った存在、魔族。この場に措いて最も不気味な存在を、しかし彼は忘れていた。


(不味いな…‥)


 魔族の姿は朧気で、実体を持っているようには見えない。闇色に輝く球体が、姫の体へと近付き、《呑み込んだ》。


「サァ? コレデ私ニ敵ハイナクナリマシタヨォ?」


 地獄の底から湧くような高い暗い声が、響き渡った。その姿は実体を持ち、ある種戦士団長が想像していた中で最も危惧していた事態となっていた。

 この世のものとは思えない程に美しい姿を持った異形。


 魔族は、姫の体を乗っ取っていた。





―――――――――――


 美しい森の姫×異形…………(*‘∀‘)


 ヒーローは、遅過ぎかもしれん( ゚Д゚)

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