転生した覇王は幻想魔法で無双します!―覇王英雄記―

抹茶

プロローグ



「ひぃ!や、やめ……」


――ザシュ!


 ……今1人、名も知らぬ騎士が息絶えた。


「GEHIHIHIHI」


 気味の悪い声で甲高く笑うのはゴブリン達だった。


 魔王が誕生してから2日、人類は《9割がた滅亡》していた。

 圧倒的な力を持つ魔物・魔族たちを従え、強化を施し人類圏へと魔王軍が侵攻を開始してから、たったの1日たりとも凌いだ国はいなかった。

 

 そして今、魔王軍の来た魔王城より最も離れた地に存在する名も無き王国が、滅ぼされようとしていた。

 逃げ込んできた者も、元から居た者も関係無く、全員が決死の思いで抗い続ける。


 だがしかし、誰の目にも明らかだった。勝ち目など無いことが。


 魔王軍の総勢は20万ほどに及ぶ。その内分けは気の遠くなるほど豊富な種類の魔物たちだが、一部は魔族たちである。

 奴らは、単体でも一般市民には危険な力を持ち、その上で魔王により強化を施されていた。




 赤い髪の少女ナイヤは、王都の街並みをただひたすらに走っていた。

 買ってもらったばかりの服はぼろぼろに破け、靴などあってないようなものだった。


 足の裏は酷く切れ、踏み続ける石によって大きく抉れていく。

 それでも尚、少女は止まろうとはしなかった。振り向くことなどできない。今振り向けば、その圧倒的な恐怖に生きることを諦めてしまうことを、少女はその小さな命で鮮明に悟っていた。


「ッ……ッ……」


 けれども足は廃れ、体力はとうの昔に限界を迎えていた。ただひたすらに走った頭は、酷く悲鳴をあげていた。

 

――呼吸の仕方がわからない。


 吸っているようで、何も口から入らなかった。ただ、スカスカとした虚しい音が耳に届く。

 

 嗚呼ああ


――ここで、終わる。


 それが確かに感じて取れた。すぐ近くへと迫る不快な足音と醜い息遣い。


 憎くて憎くて、そして悔しい。その思いで埋め尽くされながら、彼女は瞳を閉じた。

 どうやら、ついに足を止めてしまったせいか生きることを自分は諦めたのだと気付いた。もう、終わりにしよう、と。













――トン



 轟音と共に、破滅が其処そこに居た。

 

 何の前触れもなく、其処に現れたのは、一頭の龍だった。蒼い色をした光沢を放つ鱗が輝き、大きく丸め込まれた翼は光を反射していた。


 次の瞬間。


「GUUWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


 翼が大きく開かれ、咆哮が轟いた。

 敵か味方か。龍の咆哮は、全ての魔物と魔族を《消し飛ばし》、全ての人類を《再生》させた。


 現れた額には、銀色の宝珠が埋め込まれ、美しく輝いた。双瞳が鋭く地平線を睨み、小さく息が吸われる。


 フワリと、風が少女の頬を撫でた時――


――空は晴れ渡っていた。



『我は龍。生物の頂点に立つ存在だ。人族たちよ、魔物たちよ、魔族たちよ、我の力を以てして畏怖せよ、敬具せよ、称えよ、怯えよ。……魔王――よ、汝を滅するために我は《在る》。【英雄の勇者ヒーロー・オブ・ヒーロー】』


 


――貴様は生かしてはおけない。



 










 魔王軍との戦いは、驚く程簡単に終わった。

 彼らの軍からは1人の犠牲者も出さずに、およそ2万の魔族を全て倒し切り、魔王を討伐した。魔王城の”謁見の間”において魔王と直接戦った者は5人。


 それぞれが王を名乗り、魔王すら赤子に取るかのような圧倒的な力で戦った。


 剣王「セルゼウス」


 異常な程の一撃力を持ちながら、肉眼では捉え切れない速度で移動を行い、前衛として完璧にこなした。


 法王「アルシュ」


 多彩過ぎる【魔法】を操り、後方から剣王の攻撃をサポートしつつ、強力な一撃を魔王に叩き込んだ。


 守王「ネア」


 魔王の最大火力を無傷で防ぎ切るほどの防御力を誇り、両手で持った盾より後ろは一撃たりとも通さなかった。


 癒王「テトレ」

 

 禁術とまで呼ばれる魔力の回復を巧みに法王へと使い、全員へと強力な支援を行った。何よりもその回復力は、死者すらも蘇らせる。


 そして、その王たちの中でも最強と謳われた男。


 覇王「デセリアス」


 卓越した知識で、魔王の攻撃を”相殺”し、魔力を剣に込めるという秘法を以てして魔王を倒した男。



 この5人によって、魔王は完膚無きまでに倒され、消滅した。彼らは、今尚語り継がれる英雄として、各地で信仰されている。


 あれから500年。



――再び、魔王が蘇った。



 

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