決闘まで



 異世界アトレテスには、3つの大陸がある。それぞれを統一した種族の頭を取って、「魔大陸」、「人大陸」、「獣大陸」と呼ばれている。

 その中で、獣大陸とされる大陸の中央。


 そこには、龍が眠っているとされる大きな洞窟が存在した。地上から垂直に、広範囲に及ぶ穴があり、その下は限りなく深い。

 そこでは――


「おはよう父さん、母さん」

「あら、おはようリアス」

「おはようリアス、今日は母さんが張り切った朝食だぞ」


――俺たち、龍人ドラゴニュート族が住んでいた。


 極限まで人間に近い体形で、身体能力は異常なほど高い。どれ程かを説明するならば、赤ちゃんでも岩を粉々に出来るくらいだろうか。

 そして、体には龍の血が流れていて、それを扱うことで先祖返り、【龍化】を使用することが出来る。


 体が龍の力を扱うほど頑丈では無いので、翼と爪、それから眼が龍のものと同等になり、龍専用の技を使用することが出来るようになる。

 代わりにだが、俺たち龍人には魔力がほとんど無い。一応、魔法の基礎たる魔力精製は扱えるが、火を出したりなんていうのは無理だ。


 そんな中で、俺は魔力が異常な程にある。具体的に言えば、【魔法】において最高峰の技術を誇るとされる魔族の代表たる魔王よりも多い。

 なぜ、比較対象に魔王を出せるのかと問われれば、こう答えるだろう。


「俺は、覇王だからだ」


 と。もちろん嘘だ。けれど、半分は真実。

 俺の前世が覇王であり、またその記憶と能力を十全に引き継いでいるから、そう言えるのだ。しかも、今では龍人という身体能力お化けに特殊能力を備えた種族になっている。


 前世の俺なんて20歳を超えて手に入れた力が、産まれた瞬間に超えてしまったのだ。あの時は悲しかった。なまじ赤ちゃんだったため、悔しさも含めて泣いた。

 

 今では12歳と、十分体が成長してきており、身体能力だけなら覇王として人類の数千歩先を進んでいた俺よりも7倍ほど高い。


――ただし、それは表面的なものだ。


 7倍の能力はある。それは、光の速度が見えるほどに。だがしかし、それをこの身体でできるかどうかは別だ。

 筋肉はその異常過ぎる能力を引き出すほどに成長しておらず、また、動体視力は未だ発展途中。


 今の状態で出せる全力は、前世の俺の半分が出せれば良いところだろう。それでも、人の限界は超えていると思う。


 魔法の扱いに関しても、苦戦している。なぜかと話せば、それはこの体に関係する。


 本来、魔力とは魔力炉と呼ばれる魔力の心臓のような役割を果たす器官から生み出される。それが大きい程魔力量は大きくなり、比例するように自然的な魔力回復量も増大する。

 それに対して、龍人というこの体には魔力炉がほぼ無い。魔力炉とされる器官は存在するには存在するのだが、その大きさは酷く小さい。


 今まで巨大な魔力を操っていたのに、それが変われば扱いに慣れるまでが大変だ。


(まあ、量だけなら前以上にあるけど……)


 人間と比較すれば、龍人の30倍は人間の最底辺のほうが大きいだろう。それほどまでに小さい。

 ではなぜ、俺がそれなのに途方も無い魔力を有しているのか、という疑問は酷く簡単だ。


「魔力炉が大きいから……?」

「その通り」


 少しばかり不安そうに答えてくた少女に、安心させるように微笑みながら返す。

 朝食を食べ終えた俺は、龍人族の中でも付き合いの長い……というよりも隣の家に住んでいる少女と話していた。話題は会話通り俺の魔力量。


 実は、俺が覇王だった事を含めて龍人族全員に説明してある。その理由としては、【龍化】した状態の<眼>に原因があったりする。

 この眼、対象の魔力量を視ることの出来る能力が備わっている。他にも幾つかあるのだが、今回はそれが問題だ。


 その眼で俺が見られた時、大騒ぎになるのを恐れて、事前に説明したのだ。これが驚きの、誰からも非難されなかった。

 この集落の住人は気の良い人ばかりで、あまつさえ「鍛え甲斐がある」なんて笑っていた人まで居る。


 そんなわけで、俺についてはもう説明済みだ。


 閑話休題。


「でも、父様が言ってたけど、私たちは魔力炉の位置に別の器官があって、そのせいで魔力炉が小さいから魔力が無いんだ、って言ってたよ? でも、リアス君は魔力炉あるけどその別の器官もあるよね?」


 良い質問だと思う。実際、少女――レナ――の言う通りだ。


「その通り。俺にだって”龍門”は存在する。けれど、それに対して魔力炉はバカでかいのが存在する。じゃあ、何でその2つが存在できると思う?」


 龍門とは、全ての龍の力の源となる器官だ。魔力炉同様に、魔力と同じ感覚の龍力と呼ばれる力を生み出す心臓のような器官。

 重要なのは今言った問題だ。


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