準備と当日
[
だからこそ、人族の行う政治や法律なんかも、全て多数決によって決められる。
長とは、その立ち合い人であり、仲介人としての仕事を引き受け、有事には最も適格に指示を出せる人が選ばれる。
現種族長である男性は、よりよい法案を多く出せたがために選ばれた。
そしてもう1つ、決まり事がある。
「汝、リアス・テネ・トレイトは我が立ち合い人の元、レイドレア・トワレイスへ決闘を挑むか」
「ああ」
渋い声とともに問われ、俺は頷いた。
目前に立つは、俺たち龍人族の戦士団の団長。つまりは、レナの父だ。
「よかろう。それでは、決闘――」
屈強な顔立ちに、冷静沈寂で無口。任された仕事は、必ず成し遂げる手腕の持ち主。
何よりもその地位は、龍人族のもう1つの掟――勝者こそが全ての決まり事によって手に入れたものだった。つまりは、
(彼こそが、龍人族最強……)
その身から溢れ出す”闘気”とでも呼ぶかのような風格に、思わず唾を飲む。
《人類》最強を自負する俺でも、龍人という種族の規格外さは手に余る。【
そんな化け物の領域に今、俺は真正面から挑む。諦めるって選択肢は無い。だから――
「始め!」
「
(一撃に全力を込める!!)
始まると同時に、駆け出す。
【龍化】を使われれば、勝ち目は無い。なにせそれは、その者の人生と比例するように強力になっていくのだから。
だからこそ、使われていない最初に一撃に全てを込める。
そのためには、
「【
魔力でできた糸が彼を囲い、そこを知覚出来ない小ささで白炎を通す。これで、避ける手段は無くなった。
「【冥界より
右手を虚空に躍らせれば、紅黒い剣が現れる。
(出し惜しみはしない!)
「【我が剣に大いなる力を宿せ――
たった一撃に宿せる最大限を注ぎ込む。
闇の剣はその刀身から光を輝かせ、双対となる闇を滾らせていった。それと同時に、俺の中の”防御”に関する全ての能力が失われていく。
それらは全て《剣を振る》という動作に込められる全ての力へと変換されていき――
(理性だっていらない!)
理性すら、攻撃へと変換された。
獣へと姿を変えたその姿は、まさに紅蓮の獅子とでも呼ぶかのようなものだった。
戦士団長レイドレアへと、瞬時に迫り、その刀身を振るう。
(行ける――!)
そんな、フラグめいた言葉を内心で呟いたリアスの瞳は、理性を失いながらも捉えた。
小さく、戦士団長レイドレアが何かを告げたことに。その瞳に、並々ならぬ闘志が煮え滾っていることに。
彼の手が、腰に装備された剣の柄へと動き、その刀身を引き抜く。
朧げな意識の中でも、リアスにはその動きが何なのかが理解できていた。
(抜刀か――!)
東方の国で使われる、居合と呼ばれる技。刀という武器を抜き放つ動作によって、万理を切り裂くと伝え聞いていた。
その一撃は鋭く。その一閃は素早く。その一薙ぎは魔をも切り裂く。
視える。その技が、自身の剣を切ろうと迫る未来が。その圧倒的なまでに洗練された一撃によって、刀身が切り裂かれる姿が視えた。
けれど、その程度で諦める考えがリアスに浮かぶはずもなかった。彼の愚直なまでに強力な信念は、その程度では折れない。
(牙阿阿阿アアアアアアァァァ!!)
「AAAAAAAAAAAAAA!」
人成らざる咆哮が、鳴り響いた。
「大変お美しゅう御座います」
「ありがとう」
「滅相も御座いません。此のエリザ、レナお嬢様の晴れ舞台となるドレスを選ぶことができて、光栄に御座います」
深く頭を下げるメイドを見ながら、レナの心は遠くを見ているようだった。
遥か遠くの、叶うはずの無い未来を見ながら、彼女は深く溜息を吐きそうになり、寸でで止まった。
(私はレナ・トワレイス。貴族としての責務なんだから……)
貴族という階級は存在しないが、けれど同じようなもの。裕福で、地位の高い家の子は、同じ境遇の者と結ばれる。
そこに例外は認めれず、当人の意思も関係が無い。
(……地球の先人たちも、この思いから改革していったのかな……)
こんなにも哀れな姿へと堕ちてしまった自分を嘆きながら、今は戻れぬ前世の偉人たちへと思いを馳せた。
彼らもまた、自分と同じ境遇から抜け出すために、国と、人々に抗ってきたのだと。
(私には……私にも、そんな勇気があればいいのに……)
真っ白なドレスには色とりどりの装飾によって豪華なドレスへと仕立て上げられる。
洞窟に住んでいるこの種族がどうやって素材を集めるのかは知らないが、地上でも類を見ないものだとはわかる。
「リアス君……」
無意識に、小さくその名を溢した。いつもなら、それで終わりだった。
――けれど。
「貴方、まだそんな《問題児》を覚えているの? 良いこと、貴方のためなのだから《そんな》少年のことなど忘れなさい」
「ッ!……はい、すみませんでした。お母様」
口から吐いて出掛けた言葉の数々、そして耐え難い感情全てを飲み込んで、レナは謝った。
彼女の前世を含めた長い人生が、それだけの力を彼女に与えていたのだ。
(ごめん……ごめんね……)
誰にともなく謝りながら、彼女はその名が呼ばれるのを待った。
運命の悪戯か、その時間は狂おしい程に長く。そして彼女の心を蝕むには奇跡なまでに充分だった。
(リアス、君……!)
小さな嗚咽は、彼女を除いて無人の室内に木霊していった。
それから、彼女の名が呼ばれたのは数分後だった。
――その日は、レナのお見合いの日だった。
―――――――――
ふっふっふっふ…………。
え、なんもないですよ(*‘∀‘)
ヒーローは、遅れて(ry
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